第9-10話 冒険者ギルド
俺が目覚めてから10日がたった。
フィリアの特訓は毎日続き、その度に俺はボロボロにされるのだった。
その日の朝、朝食を食べ終えた二人は紅茶とコーヒーを飲んでいた。
俺はあれから何度もフィリアに挑み続けてはいるが、一度も攻撃が当たったことはない。
最近では魔法を使う相手との訓練も必要だろうと、魔法まで使うようになっていた。
目を閉じ、ここ数日の特訓を思い出す。
「魔法を使う相手と戦うときは、相手の魔力の流れに気を配れ。魔力を集中させていることに気づけばそれだけ対処も容易になる」
魔法を放ちながら、フィリアが叫ぶ。
「そんなこと言っても、わからないものはわからないんだよ!」
迫り来る炎から必死で逃げる。
相変わらず魔法の才能は無いようでまったく流れなど理解できなかった
「魔法にばかり気を取られて、相手から目を離すんじゃない!」
魔法を避けることに必死になっていた俺は、彼女が目の前まで来ていたことに気づかなかった。
顔を殴られ、衝撃で地面を何度も転がった後何とか立ち上がる。
「早く魔力を感知できるようにしたまえ。魔法がくる予兆がわかるだけでなく、魔力の量で相手の強さ、数や正確な位置などもわかるのだから。まぁ強さに関しては、僕のように隠すこともできる奴がいるから、あまりあてにはならないけどね」
そう言うと、彼女はまた魔法を放つ。
「休んでいる暇はないぞ。体で覚えてもらうまで、何度でもやるからね」
飛んでくる魔法を必死で避ける。
逃げまどう姿がおもしろいのだろうか、笑いながら魔法を連発するフィリア。
避けきれず魔法の直撃を食らった俺は、彼女との特訓の中で初めて気絶した。
ここまで思い出すと、コーヒーの苦みが数倍増した気がした。
今日もこの特訓があるかと思うと、憂鬱な気分になる。
ところが今日は、そんな心配は不要のようだ。
宿の外に出たところで、フィリアがこんなことを口にしたのだ。
「今日の特訓は無しだ。今日はハジの町の冒険者ギルドに行こう。君の登録と、適当に何個か依頼をうけにいくつもりだ。君はそろそろ実戦経験を積んでおくべきだし、ついでにお金も稼いでもらわなきゃね」
冒険者ギルド。
魔物や山賊の討伐、護衛や採取など、多種多様な依頼を市民からひきうけける、王国公認の機関だ。
冒険者としてそこに登録した者は、強さによってランク付けされ、様々な依頼をこなして報酬を受け取る。
最上位ランクのものたちになると、英雄のような扱いをうけるため、多くの人々のあこがれの職業でもある。
俺もまたあこがれている一人だった。
冒険者になれるとわかって、かなり嬉しかった。
そういえば、今まで気にしたことはなかったが、お金は全てフィリアに出してもらっている。
「ちなみに今までの分は、全部貸しだからね。きちんと返してもらうよ」
俺を見てニヤリと笑うフィリア。
「いくらぐらいなんだ?」
聞くのは怖かったが、自分の借金ぐらいは把握しておきたかった。
「そうだなー、大体金貨1000枚くらいかな。私の血の料金も含めてだがね」
金貨1000枚・・・。
それを聞いたとたん顔から血の気が引いていく。
金貨1000枚など、とうてい払えるわけがない。
庭付きの立派な館が帰る金額だ。
「まぁ利子は付けないから増えることはないさ。君も僕も長生きなんだから、何年かかっても返してくれよ?」
がっくりと肩を落とす俺の腰をたたきながら、そんなことを言うフィリア。
大体それ、ほとんど血の代金じゃないか!と叫びたかったが、我慢するしかなかった。
彼女のの話によると、ハジの町までは馬を使っても半日はかかる遠さらしい。
「じゃあ俺は馬を借りてくるよ」
馬を借りに行こうとする俺をフィリアが呼び止める。
「何を言っているんだい?特訓はないとは言ったが君を鍛えないとは言ってないぞ」
ニヤリと笑うフィリア。
背筋に悪寒が走る。
彼女がこんな顔をするときは、たいてい無茶難題を言ってくるので、俺はかなり苦労することになるのだ。
「や、やっと着いた」
本当に長い道のりだった。
背中のカゴが重い。
「この町に来るのも久々だなぁ。」
フィリアがカゴから顔を出し、当たりを見回す。
俺の予想は見事に的中した。
村を出る前のことである。
「半日もかけて移動するだけでは、時間がもったいないだろう?」
フィリアが女将に借りたのか、大きなカゴを持ってきた。
背負いやすいように、紐が2本ついている。
「まさか、走っていけって言うんじゃないだろうな?どれだけ遠いと思ってるんだよ!」
察した俺は叫ぶ。いくら体力が有るとは言え、そこまでの無茶はしたくない。
「ただ走るだけじゃないぞ。僕を運んでもらおうか」
ニヤニヤと笑いながらかごを叩くフィリア。
こういうときの彼女には何を言っても無駄だとわかっている
「さぁ、はやく背負ってくれ。無駄にする時間はないぞ!」
カゴに入り若干楽しそうな顔のフィリア。
俺はそんな彼女を背負いながら、町まで走らされたのだった。
「とりあえずギルドに向かおうか。観光はそれからだな」
以前来たことがあるのか、フィリアは迷うことなく進んでいく。
町中ではさすがに恥ずかしいのか、カゴから降りて歩いていた。
「カゴは帰りも使うから、なくさないでくれよ?」
彼女のそんな一言で、すでに帰りのことを考え落ち込んでしまう。
彼女の後をとぼとぼと着いていく。
冒険者ギルドが有るということもあって、町中には様々な種族の冒険者がいた。
そのおかげか、市場もかなりの賑わいだ。
俺ははぐれないように急いでフィリアの後を追う。
彼女の背丈では、人混みに紛れてしまったら見つけること難しいだろう。
だいぶ町の中心に近づいただろうか、一際冒険者の数が増えてきた。
「そろそろ着くはずだ。ちゃんと着いてきてるかい?」
「ちゃんといるよ。まだ着かないのか?」
まだ息があがっているが何とかついていく。
「もう少しだ。そうそう、分かっているとは思うが、帰りも運んでもらうからね。こんなことぐらいでへばってちゃ、先が思いやられるよ」
果たして夜までに村に帰れるんだろうか?
ハジの町の中心地に、冒険者ギルドはあった。
3階建ての大きな建物で、何人もの冒険者が出入りしている。
フィリアによると、この地域で大きなギルドはここだけらしいので、ほとんどの冒険者が集まるそうだ。
「久しぶりだなぁ。変わってないようで何よりだ」
そんなことをつぶやきながら、フィリアは中へ入っていく。
俺は建物の大きさに圧倒され、間抜けな声をだしながら彼女に続いた。
中へはいると、依頼が張られた掲示板に冒険者たちが集まっているのが見える。
待ち合わせなどできるようにだろうか、何台か椅子とテーブルが置かれ、冒険者たちが座って談笑していた。
フィリアは奥の受付へと向かうと、何やらこちらを指差しながらお姉さんと話をし始める。
カゴを置いて席に着く。まだかかるようだし依頼でも見てみようか。
掲示板に寄ってみると、様々な依頼がランク毎に分けされて張り出されていた。
簡単なものはどぶさらいや、薬草の採集。
難しい者になると、山賊の討伐や、希少な鉱石の発掘等だった。
しばらく眺めているとフィリアに呼ばれた。
「登録が終わったぞ。説明があるから君はしっかり聞いておくといい。」
受付へ向かうと、ギルド員らしい、緑の制服に身を包み、茶色のショートヘアにメガネをかけたお姉さんが、書類を確認しながら待っていた。
「冒険者ギルドへようこそ、ショウさん。私はギルド員のメリルです。新米冒険者のあなたに、これから冒険者のランクと依頼の制度を説明するので、よく聞いて覚えてくださいね」
そういうと、メリルは笑顔で説明し始めた。
冒険者のランクは、魔物の名前を冠して分けられているようだ。
一番上はドラゴン級、一番下はスライム級だ。
冒険者たちはそれぞれの等級の等級証を所持しており、実力の証明書のような物でもあるらしい。
また、死んだときの確認証にもなっているようだ。
基本的にランク以上の依頼を受けることは出来ず、規定の回数依頼を達成すれば昇級していく。
たまに特例で昇級することもあるようだが、滅多にないのであまり気にしなくていいようだ。
ちなみに最初のランクだが、ギルドの審査により決まると言うことなので早速受けることになった。
ギルドが雇った冒険者と戦い、それにより決まるらしい。
「以上になりますが、何か質問は有りますか?」
丁寧に説明してもらったので特に疑問はない。
横のフィリアを見ると、何か期待している眼差しでこちらを見ていた。
俺は彼女の意図を汲み取り、彼女の求める質問をする。
「そういえば、フィリアは冒険者登録しているのか?」
待ってましたと言わんばかりに、フィリアは胸をはってこたえる。
「当然、すませているさ!等級はドラゴンだ!」
そういうと、胸元から長方形の形をした、銀色の金属でできた、カードを取り出す。
これが等級証のようだ。いったいどこから出しているんだか・・・
その話を聞いたメリルはかなり驚いていた。
「ドラゴン級ですって!?フィリアさん。その等級証見せてもらっても良いですか?」
フィリアから等級証を受け取り確認するメリル。
その間も、フィリアは胸を張り精一杯の威厳を出している。
確認し終えたのか、メリルがフィリアに等級証を返した。
メリルが申し訳なさそうな口調で伝える。
「フィリアさん。言いにくいんですが、その等級証はどこで手に入れたんですか?確かにこのギルドで登録されたようですが、そのー、登録日が100年以上前でして・・・」
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