第8話 初めての夜

夕食を食べ終えた後、彼女と部屋に戻る。


「いつもの倍以上の量を食べるんだけど、これも力の影響なのか?」

「さぁ、どうだろうね。力を使うために、体が栄養を欲しているのかもしれないな」


長湯したせいか、少し顔が赤くなったフィリアが答える。

昼間のドレス姿とは違い、赤いワンピースのようなパジャマを着ている。


「戻ってすぐで悪いが、服を脱いでくれないか?」


部屋にはいり、ベッドに寝ころびながら、今度はフィリアが尋ねる。


「いきなり何を言い出すんだ!?」


突然こんなことを言われた俺は声が裏返ってしまった。


「勘違いしないでくれ、夜伽の誘いならもっと言葉を選ぶ。背中の傷痕を見せて欲しいだけさ」


フィリアが寝ころんだまま手をふりながら、けだるそうに答えた。

紛らわしい言い方をしなければいいのに。狙ってやってるんじゃないだろうか。

そんなことを思いながら服を脱ぐ。


「傷痕と言ってもふさがってるし、痛みもないぞ」


背中をフィリアに向けながら説明する。

確かにこの傷痕だけ消えなかったが、気にするようなことなんだろうか?

ベッドから起き上がり、まじまじと傷痕を観察するフィリア。

満足したのか、俺に服を着るように促す。

俺が服を着る間、なにやらぶつぶつと唱えている。


「それで、何かわかったのか?」


声をかけても、しばらく考え込んでいたが、結論が出たのだろう。

彼女は顎に手を添え話し始めた。


「君の背中だが、守護者になるときに上手く再生出来なかったんだろう。恐らくその部分だけは、普通の人間と変わらないと思う。君の最大の弱点というわけさ。まぁ背中なら狙うのは難しいし、あまり気にすることも無いだろう。」


何度も頷き、一人で納得するフィリア。


「人間の部分が、最大の弱点か」


俺は自分が本当に化け物になってしまった気がした。

まぁ俺たち以外知らないし、そもそも背中の傷痕を見られる機会などそうそう無いのだ。

あまり気にすることは無いだろう。


「なら今日はそろそろ寝ようか。僕も久々に運動して疲れたようだ」


ベッドに転がり毛布をかぶるフィリア。

ここで眠るつもりのようだ。


「自分の部屋で寝てくれよ。ここは俺の部屋だろう」


フィリアにベッドを占拠されては、俺が眠る場所がなくなってしまう。

今朝この部屋で目覚めたのだから、当然ここは俺の部屋のはずだ。

すでに眠気が来ているのか、彼女は目をこすりながらあくびをしていた。


「君は何を言ってるんだ?ここは僕たち二人の部屋だよ。それに、3日間同じベッドで寝たんだから、今更気にすることでも無いだろう」


俺は耳を疑った。

今彼女は何と言った?

ここは二人の部屋であって3日間も同じベッドで寝ている?

聞き間違いでなければそういったはずだ。


「もう僕は眠るから、君も早く寝なよ。明日も朝から特訓だからね。ベッドは半分あけておくが、嫌なら床で寝ることだ・・・」


そう言うと、すやすやと寝息をたてはじめるフィリア。

俺は床とベッドを何度も見比べる。

疲れた体に木の床はきつそうだ、それにフィリアも気にしないと言っていたし、ベッドで寝ることにしよう。

心の中でそんな言い訳をしつつ、ベッドに潜り込む。

フィリアは半分あけてくれていたが、できるだけ離れて寝ることにした。

毛布はフィリアが使っていたため、我慢するしかない。

フィリアの方を見ると、穏やかに寝息をたてて気持ちよさそうに眠っている。

こうしてみると、昼間に自分を殴り飛ばし、蹴り飛ばし、ボロボロにした女の子とは到底思えない。


「不器用だけど、良い奴だな」


実は、フィリアが3つ目の理由を呟いているのを聞いてしまっていたのだ。

守護者の聴力とは恐ろしいものである。

命を救ってくれた恩人である、彼女の期待に応えたい。

そう思うと同時に、小さな体で、責任を受け止めようとする、彼女の力になりたい。

そんな思いがこみ上げてくる。


「明日もがんばるか」


決意を新にして、まぶたを閉じる。

想像以上に疲れていたのだろう、すぐに眠ってしまった。

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