第6話 特訓開始

「君は魔法の練習をするより、その体を使った戦い方を学んでもらおうか」


彼女の言うことはもっともである。

あれだけ時間をかけて、あの程度の魔法しか使えないようでは、実践では何のやくにもたたないことは俺でも分かる。

やっと落ち着いたのか、フィリアは真面目な顔に戻り、立ち上がったあと体をほぐすように伸びをしていた。


「じゃあ君の指導方法も決まったし、早速特訓といこうか」


彼女が特訓と言うことは厳しいものなのだろう。

魔法のことは忘れて気を引き締めて次の言葉を待った。


「そう固くならなくても大丈夫さ。特訓と言ってもそんなに難しい内容じゃない」


準備運動のように腕や足を動かしながら彼女は言う。


「さっきも言ったが、君には魔法の才能がない。魔法を使うくらいならそこらの石を投げた方が強いだろうからね。ということで君の特訓内容は実戦形式の組手だ。動きが単調な素人では格上の相手には通用しないからね。人間相手の戦い方を学んでもらおうか」


彼女の言うとおり俺は全くの素人だった。

殺し合いどころか殴り合いの喧嘩ですらめったにしたことがない。


「組手かー、じゃあ相手を探さないとな」


自分には技術は無いが、あれだけの力があるのだ。

並大抵の相手では、怪我をさせるどころか殺してしまう可能性もある。

フィリアはそんな俺の言葉を聞き、首を傾げながら言う。


「何を言っているんだ?相手ならここにいるじゃないか、レディを待たせるものじゃないぞ。早く準備したまえ」


彼女がその小さな拳を握り、こちらに構えていた。


「まさかとは思うけど、フィリアが相手をするのか?いくらなんでも、君みたいな小さな子を殴るなんて」


俺が喋り終わる前に、フィリアの小さな拳がお腹にめり込んでいた。

衝撃を受け止めきれず、飛ばされ、木に叩きつけられる。

背中を強打したせいか呼吸が一瞬止まり、たまらずせき込んでしまう。

なんとか立ち上がり、膝に手を当てて呼吸を整えていると、彼女の足音が聞こえてきた。

かなり怒っている気配を感じ、恐る恐る見上げるとそこには笑顔の彼女が立っていた。

しかし怒りのせいか、眉毛がひくひくと動いている。


「誰が小さいだって?僕は竜だぞ。今は目立たないように人の姿をしているが、それでも君よりは十分強いさ!」


言い終わると同時に今度は蹴りが飛んできた。

かろうじて避けたが、蹴りが当たった木は轟音とともに倒れていく。

あんなの食らったら・・・死ぬ。

たまらず距離をとり、今度はしっかりと構える。


「逃げてちゃ特訓にならないじゃないか。仮にも僕の守護者になったんだから、強くなってもらわないとね。死なないように手加減するから安心して向かってきてくれたまえ」


そういうと、彼女も構える。

やらなきゃ、こっちがやられる。

頭にそんな恐怖がよぎった。


「どうなっても知らないからな!」


今度はこっちの番だ。全体重を乗せて全力で殴りかかる。

大木をなぎ倒すほどの拳だ、いくら彼女が強いとはいえ当たればただじゃすまないはずだ。

さすがに顔を狙うのは気が引けたので、お腹めがけて拳を振るう。


・・・しかしフィリアは全力の俺の拳をいとも簡単に受け止めた。

お返しと言わんばかりに、顎を下から殴られ体が地面から浮く。

あまりの衝撃に一瞬目の前が暗くなるが、なんとか立ち上がり拳を構える。

この小さな体のどこにそんな力があるのだろうか。


「言っただろう。君より強いと。悪いけど僕は優しく指導するなんてことはしないから、体で覚えるつもりでかかってきてくれ。守護者の体は頑丈で怪我をしても治りが早いからね。好きなだけ殴られてくれて大丈夫さ」


フィリアは心底楽しそうに笑みを浮かべていた。

彼女との特訓は夜まで続いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る