第4-5話 守護者の力

外へ出て森へと向かう。

木漏れ日と、頬をなでる風が心地よい。

なるほど、食後の運動にはちょうどいいだろう。


「さっきの質問の答えだが、君に血を与えたのを覚えているかい?あれで契約は完了し、君は僕の守護者になったのさ」


歩きながら彼女は答える。


「守護者となったものには特別な力が与えられる。僕の守護者になったときに、人間を超えた力を授かってるはずさ」


フィリアの言うことが本当なら自分の体はどうなってしまっているのか。

村からだいぶ遠くまであるき、ひらけた場所についた。


「試しにそこの木を倒してみようか。今の君なら素手で倒せるはずさ」


彼女が指差す先には幹の直径が2メートルはあるだろう大木がたっていた。

切り倒すには斧を使っても半日はかかるだろう。これを素手で倒せるのだろうか?



「時間がないと言っただろう。早くしたまえ。今の君ならそんな木、簡単に倒せるはずだ」


自信はないが、とりあえず彼女の言うことを信じてやってみることにした。

右手を握り渾身の力を込めて、大木の幹を思い切り殴りつける。

土煙を上げながら殴られた大木が後ろの木々を巻き込みふき飛んでいく。


「嘘だろ・・・」


自分の手で吹き飛んだ大木を眺めながら思わず声に出す。

人間がこんな力を持てるものなのか?


「やりすぎだ!服が汚れちゃったじゃないか!」


服に付いた土埃を払いながらフィリアが立ち上がる。


「すごいなこの力!」


フィリアは額に手を当て呆れたように答えた。


「だから言っただろう。君はもう人間じゃないと。軽く殴るだけで良かったんだが、まさか思いっきりやるとは・・・。力の制御から教えてやらねばならないとは、先が思いやられるな」


力の制御か、確かに今の俺が全力で人間を殴ったら、たぶん死ぬだろうな。


「大丈夫、これからすぐ慣れるさ」


自分の体なんだからすぐに慣れるだろう。


「その自信が続けばいいがね、先が思いやられるよ。さて、君はこれから守護者として生きていく。力の使い方に戦い方、魔法の使い方などあらゆることを覚えてもらう。僕が救ったその命に見合うだけの働きはしてもらうからね」


覚悟を決める。


「よろしくお願いします」


フィリアに深々と頭を下げる

彼女はその姿に満足そうに笑みを浮かべると、頭を下げている俺の肩に手をかけた。


「よろしい。それではさっそく始めようか!まずは力の制御からだ」


フィリアの話によれば守護者というものは人の体でありながら、人を超えた力を発揮できるようだ。

俺はひとまず自分の力を確認するために、色々試すことにした。


腕力については、先ほど大木を殴り飛ばしたこともあるし、確認するまでもないだろう。

脚力もかなり強化されているようで、軽く走るだけで馬よりも早く走れたしどれだけ走っても全く息があがることもなかった。

特に五感に関してはかなり強化されているようだ。

遠くで歩く魔物の足音や吐息まで聞こえてくる。

嗅覚に関しても、村からかなり離れた森の中なのに、料理の良い香りが確認できた。

何より驚いたのは視力だ。空を飛ぶ鳥の羽の1枚までくっきりと見ることが出来るうえ、集中すれば周りの動きが止まっているように見えた。


ひとしきり試し終えて満足した俺は、フィリアに質問してみた。


「俺の村を襲ったのは何者なんだ?」


彼女はどこから取り出したのか、優雅に紅茶を飲みながらくつろいでいた。


「僕も詳しくは知らないんだが、彼らは至竜教と名乗っている。その目的は不明だがどうやら各地で実験を行っているらしい。自分たちのためなら、何でもありの最悪の集団さ。人にとっても魔物にとってもね」


フィリアが紅茶を飲みながら答える。

そんな奴らがいるのか、しかしここで新たな疑問がわいてきた。


「そんな連中が何だって俺の村を襲ったんだ?」


そんな奴らが狙うような宝もないし、特別裕福な村というわけでもない。

襲ったとしてもあまりメリットはないように思えた。

考え込む俺に、紅茶を飲み終えたフィリアが声をかける。


「それについては仮説だが、一つだけ思い当たる理由がある。僕が近くにいたからさ。理由はわからないが、どうも彼らは僕を狙っているらしい。そういう意味では、君の村が襲われたことに関して、僕に少しばかり責任があるのかもしれないね」


やれやれと、少々大げさに手を上げて肩をすくめるフィリア。


「フィリアに責任は無いだろう。村を襲ったあいつらが悪いんだ」


それだけは断言できた、村を襲ったやつらに責任があるにきまってる。


「いずれにしろ、君には強くなってもらわないと。やつらがまた襲ってきたときは、しっかり守って

もらうからね」


ニヤニヤと笑うフィリア


「じゃあ次は魔法を覚えてもらおうか。とりあえず僕がお手本を見せるからそれをまねしてやってみてくれたまえ」


立ち上がり、右手を広げ前にかざすフィリア。

前方の大木に狙いをつける。

すると突然、その手のひらから炎の玉が飛び出した。

炎の玉は見事に命中し、一瞬にして大木を包みこみ、焼きつくしてしまった。


「すごい!これが魔法か!」


初めて見る魔法に感動する。

これを自分が使えるようになると思うと、少しだけ楽しくなってきた。


「火属性魔法の初歩の初歩、ホムラだ。とりあえずこれをやってみようか。まずは魔力の出し方を体に覚えさせるんだ。魔力をこめすぎればこの森を焼き払うかも知れないから気をつけてくれよ?」


まるで簡単に焼き払えてしまうかのように、恐ろしいことを言うフィリア。

俺はとりあえず彼女と同じように構えてみた。

しかしいくら集中しても出ないものは出ない。

それもそのはず、俺はついさっきまで、魔法など見たこともないのだから。


「守護者になってもこの程度とは、君は魔法の才能は全く無かったようだね。仕方がない、僕の言葉に意識を集中させてやってみようか」


頷き、目を閉じ、彼女の言葉に意識を集中させる。


「まず体の内側を流れる魔力を意識してみよう。君は僕の血を飲んだ。その時に僕の魔力が君の魔力を活性化させたから、体の外はまだ無理でも、中でなら流れを感じることが出来るはずだ」


全身に意識を集中させると、体を流れる血液のように全身を何かが巡っているのがわかる。血液とも違う何か・・・これが魔力だろう。


「魔力を感じることが出来たようだね。それじゃその魔力を右手に集中させてみようか。流れを留めるようなイメージでやってみよう」


右手に意識を集中させると、まるで燃えているように熱く感じられた。


「良いぞ、その調子だ。あとは集めた魔力を一気に外へ押し出すようなイメージでやってみようか。本来であればその魔力を、使用する魔法に合わせて変化させなければいけないんだが、君は僕の力を与えられたから意識しなければ炎になるだろうさ」


目を開きしっかりと木に狙いを付けると、魔力を外へたたきつけるような感覚で手を前に押し出す。

手のひらから放出された魔力は、小さな火の玉となって、ふよふよと漂いながら前方の木に向かって飛んでいく。

見事に命中したが、表面を軽く焦がした程度で消えてしまった。


「で、できた」


フィリアの用な威力は無いが、それでも魔法が使えた。

まさか自分が魔法を使えるとは思いもしなかったので、喜びも大きかった。


フィリアの方を見ると、彼女は下を向き肩を震わせている。

まさか、俺の成功を泣くほど喜んでくれているのか?


「ふふふ、はは、はーはっは!」


彼女はお腹を抱え、大きな声で笑い出した。目には涙を浮かべている。

ひとしきり笑った後、落ち着いた彼女が涙を拭いながらからかうように言った。


「いや~すまない。我慢しようと思ったんだがどうしても我慢できなくてね。君はよっぽど魔法の才能が無かったようだ。しかし、ふふっ!表面だけ焦がすとは!あれは僕にも真似できないな!そんなに弱い魔力を飛ばすなんて、繊細な調整は出来ないからね」


まだ笑い足りないのか、口元を抑えながら彼女が笑う。

俺は心底喜んでいた自分が少しだけ恥ずかしくなった。

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