第2-3話 少女の正体(自称)

窓から差し込む朝日の眩しさに思わず顔をしかめる。

いつの間にかベッドで眠ってしまっていたようだ。

今日は川へ遊びに行く約束をしていたはずだ。そろそろ起きて支度をしよう。

まだ寝ぼけている頭でそんなことを考えていると、突然横から声をかけられた。


「ようやくお目覚めか。全くとんだお寝坊さんだな君は」


声をかけられた方へ顔を向けると、真っ赤なドレスを身につけた可愛らしい少女が座っている。


「君は誰だ?どうして俺の部屋に・・・」


起きあがろうとして、体に痛みが走り思わず声がでてしまう。

全身が痛い。その痛みで目が覚めてきてようやく自分の部屋ではないことに気付く。

少女は呆れたようにため息をついた。


「まだ寝ぼけているのかい?君をここに運んでからもう3日もたっているぞ。傷は1日で治ったというのに。いつまでも寝ている君を見て、守護者にしたのは失敗だったかと思い始めたところだ」


彼女の言葉であの地獄の光景が思い出される。

そうだ、村が襲われて自分も死ぬところを彼女に助けられたのだった。

改めて自分の体を見渡す。傷は綺麗に消えている。火傷の後すらない。


「色々と聞きたいことはあるだろうけど、とりあえず命の恩人にお礼でも言ったらどうだい?君をここまで運んでくるのも大変だったんだぞ」


疑問は残るが、この少女が自分を助けてくれたことに間違いない。


「ありがとう。おかげで助かったよ。まだ小さいのに、凄い魔術師なんだね」


魔術師・・・

自らの魔力を使い、世界の理に干渉し様々な奇跡を起こす人々。

傷を治したのもここまで運んだのも魔法によるものなのだと思ったのだ。

そうでなければ、説明がつかない。

俺の言葉を聞いた少女は可愛い顔の眉間にシワをよせている、ものすごく不機嫌そうだ。


「魔術師だと?あんなのと私を間違えるとは良い度胸をしているな少年!それに小さいとは何だ!こ

う見えて僕は君よりずっと年上だぞ!」


その小さな体から想像できないほどの恐怖を感じ、慌てて訂正する。


「ご、ごめんなさい!命を助けていただきありがとうございます!」


全身から汗を吹き出しながらベッドの上で土下座になり謝る。それぐらい少女は怖かった。

少女はまた呆れたようにため息をつくと、まじめな表情に戻り話を続けた。


「まぁ成功したようでなによりだ。久々だったから上手くいくか少しだけ心配だったがね。元々死ぬ運命だったんだから失敗しても問題ないし、試して良かったよ。ところでそろそろ名前を教えてくれないか?」


失敗しても問題ない・・・

どうやら実験のような扱いだったらしい。


「改めて、助けてくれてありがとう、俺はショウ」


深々と頭を下げ名乗る。


「よろしく、ショウ。私の名前は~そうだな、フィリア、とでも呼んでくれたまえ」


フィリアと名乗った少女は腕を組み精一杯の威厳を出していた。

実際は見た目15歳くらいの女の子がそんなことをしても威厳など無く可愛いだけなのだが・・・。

そんなことを思っているとドアがノックされエプロン姿のおばさんが入ってきた。


「おはようフィリアちゃんご飯が出来たよ。お、お連れさんはやっとお目覚めかい?そっちの坊やの分も用意しておくから準備して降りておいで」


フィリアがお礼を言うと、おばちゃんは笑顔になって出ていった。

そういえばここはどこだろう。

俺は当初の疑問を思い出したが、空腹でそれどころではなかった。

フィリアの話によれば3日間も寝てしまっていたようだ。


「ここは君が住んでいた村の隣の村の宿屋さ。とりあえず朝食に行こうか。」


彼女はもうドアを開けて降りていた。自分も着替えて朝食を食べに行こう。

着替える途中に改めて体を確かめてみる。

火傷も傷も全く見あたらない。

ふと、鏡に写った背中に傷跡があるのを見つけた。ここは確か村を襲った連中に斬りつけられたところだ。

傷は塞がっているようだし、命は助かったのだ。あまり気にしないでおこう。

とりあえず3日分の空腹を満たすのが先決だ。


下に降りると、すでに彼女は朝食を食べていた。


「遅いぞ君、早く席に着きたまえ。今まで眠っていた分やってもらうことがたまっているのだから、無駄にする時間はないぞ」


食卓には焼きたてのパンやハム、スクランブルエッグなど様々なものが所狭しと並んでいる。

厨房では先ほどのおばさんが働いていた。どうやらこの宿の女将のようだ。

席につきそれらを食べながら、フィリアに質問していく。聞きたいことは山ほどあった。

とりあえず、一番気になっていることを聞いてみた。


「フィリア。君は何者なんだ?」


フィリアはすでに食後の紅茶を飲んでくつろいでいた。

カップを置くと、よくぞ聞いてくれたと言わんばかりに笑みを浮かべながら答えた。


「僕は竜だよ。君も存在ぐらいは聞いたことがあるだろう?」


驚いた思わずむせてしまい、慌てて水を流し込む。

どうにか落ち着いた後、自慢げな顔をしている彼女に尋ねる。


「竜だって?」


俺の住んでいた村は田舎だったが、それでも竜の存在ぐらい知っている。

俺が知っている竜は、巨大な肉体に鋭い爪と牙を持っていて、全身を固い鱗で覆われている最強の魔物だ。種族毎に異なるブレスを吐き、背中の翼で空を自由に駆けるため並の冒険者では歯が立たない恐怖の存在だと聞いている。おとぎ話の中では魔法を使える竜もいたが・・・。


「驚いたかい?こんな美女がまさか竜だとは思わなかっただろう」


ケラケラと楽しそうに笑うフィリア。

美女かどうかはともかく、今目の前で優雅に紅茶を飲んでいる少女と竜は似つかわしくない存在だ。

あまり納得できないが、これ以上聞いても一緒だろう。

とりあえず、空腹を満たしてから次の質問をしよう。

かなりの量を食べてしまった所を見ると、3日間眠っていたというのは本当のようだ。

ひとしきり食べ終え、食後のコーヒーを楽しみながら改めて切り出す。


「守護者とはなんなんだ?」


守護者・・・

彼女は自分を守護者にしたと言っていた。

今のところ、傷が癒えた以外に大きな変化は見られない。いつもより体調が良いような気がするくらいか。

すでに紅茶を飲み終え満腹になり眠気が来たのだろうか、彼女が大きなあくびをしながら答えた。


「ここでは何だから、外で話そうか。食事も終えたようだし軽い運動といこう」


フィリアは軽く伸びをした後、椅子から降り外へ向かう。

俺も慌ててその後を追った。

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