2 教室と涙

カバンに入れたチョコレート。多分、この恋は絶対に実らないだろう、と知奈は思う。


何せ修也はモテている。大勢の女子に。


修也は女子にも男子にもとても冷たいが、モテるその理由は、やはり外見や、独特の雰囲気故だろう。


そして、修也はバレンタインのチョコレートを受け取らない。


「好きな奴のチョコしか受け取らない。」


そう言って、いつもチョコを返すという。


最も、当の知奈は、チョコを誰かにあげるのは初めてだが・・・おそらく、受け取っては貰えないだろう。


それでもあげたい。それが、知奈の正直な気持ちだ。



知奈が教室に入ると、クラスの空気は一変した。


何故かクラスの殆どが、目をそらせたり、ひそひそと話し始めた。


何が何だかわからない、という顔で立ち尽くす知奈。


知奈はクラス内で特別目立っている訳でも無ければ、かといって虐められている訳でも無い。


そんな中、ただ一人、千里だけが知奈に話し掛けた。知奈にしか聞き取れない様な、小さな声で。


「・・・知奈、大変。知奈が修也くんの事好きだって噂が広まって、優花(ゆうか)の耳に入っちゃって・・・」


「えっ・・・」


知奈は思わず叫んでいた。優花とその取り巻き数人が、ギロッと睨む。


千里は口に人差し指を当て、「しーっ!」と言うと、再び小声で話し始めた。


「ほら、優花って修也の事好きでしょ。優花と知奈ってあんまり仲良くないじゃん。だから、ムカつくって言ってた・・・」


「そんな・・・千里、言ってないよね?」


「まさか・・・あたしは、知奈の味方だよ。」


呆然とする知奈。少し迷った素振りを見せた後、千里が知奈の耳元で囁いた。


「・・・それでね、ほら、私、優花と幼馴染だから知ってるんだけど、今日・・・」


「千里ー!」


囁くのを止め、千里はバッと振り向く。


「ちょっと来てよー!」


そう呼んだのは、優花の取り巻きの一人、智美(さとみ)。


千里は、はいはーい、と軽い調子で返事をすると、優花のもとへ歩いて行った。


優花達と千里が話している様子をぼんやりと眺めながら、知奈は席についた。


コソコソと話す声を無視しようとしていても、知奈の目には、熱いものが滲んでいた。


修也は、その様子を無表情に眺めていた。

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