二月の三角形(小六/小説)
1 朝と友達
空は高く、澄んでいる。
至って普通のこの町にも、バレンタインはやって来る・・・
「知奈(ちな)、おはよう!」
すらりと背の高い一人の少女が、知奈という名の誰かを呼び止める。
「あ・・・千里(ちさと)。」
知奈と呼ばれた小柄な少女は立ち止まり、千里という名の少女を待つ。
千里は知奈に追いつき、もう一度おはよう、と挨拶をすると、歩きながら喋り始めた。
知奈は、自分からは殆ど喋らず、「うん・・・うん。」と相槌を打っている。
家族がどうだとか、昨日は親戚の家に行ってああだったとか、正直知奈にとってはどうでもいい話を、千里は繰り返した。
暫く喋った後、無口な知奈に気付いたのか、千里は心配そうに言った。
「どうしたの、知奈。今日、やけに静かじゃない。」
「え・・・そ、そうかな?」
「うん。普段も知奈ってそんなに騒がしい性格じゃないけど、今日は何か、特別静かだよ。」
きっぱりと、千里は言い切った。
「そう・・・かな。」
先ほどと同じ台詞を、知奈はもう一度、今度はゆっくりと繰り返した。
「何かあったの?」
千里は知奈に訊く。
「あの・・・今日バレンタインでしょ?」
だね、と千里が明るく言う。
「千里さ・・・誰かに、チョコあげる?」
「あたしぃ~?」
千里がおどけて言った。
「まさかぁ。誰にもあげないよ。知奈は?」
「う~ん・・・内緒!」
「うわっ、何それ!知奈の方からこの話題出したんでしょ?」
暫く二人のふざけ合いは続き、やがて知奈は千里の耳に、修也という人の名前を囁いた。
千里は一瞬、えっ、と小さく声を漏らし、固まった。
しかしそれは本当に一瞬で、千里は、そうなんだ、と短く言った。
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