6 魂

ふいに、ジェルが口を開いた。


「ミキ。この世から消えることを望むか?」


ミキは勢い良く首を横に振った。


「でも、あんたはこの世から消える。そういう運命なんだ。」


「運命? バカらしい。御伽噺でもあるまいし。」


「真面目に聞け!」


鋭い叱咤。説教には慣れていたはずなのに、ミキはびくっと震えた。


「あの・・・」


今までずっと黙っていたユナが口を開いた。


「だから、私が、ミキちゃんの代わりに消える。私、別に、いいよ。」


弱弱しい言い方だったが、裏にはしっかりとした意思があった。


「あんたもわかんない子だ・・・」


ジェルは溜息をついた。


「あんたが消えても、意味が無いんだって。あんたの魂は、一点の穢れも無い。ミキの魂をとるからこそ、意味があるの。」


「ねぇ、」


ミキが口を挟む。


「さっきから他人の事、魂が穢れてる穢れてるって・・・そんなの何でわかるの。


 そうだよ・・・ユナが消えてくれるって言ってるんだから、それでいいじゃん。


 ユナは、誰にも必要とされてないけど・・・あたしは・・・」


そこで言葉が途切れた。あたしは、誰かに必要とされているのだろうか?


気が付くと、ジェルの顔は憤慨で真っ赤だった。


「よく・・・よく、そんな事が平気で言えるね。


 必要にされているかないかは関係無い。その本人の問題だ。


 あんたの下らない定義で人の価値を決めるとしても、ユナの方が百倍価値があるよ。」


「ユナは・・・」


ミキさえも、顔を真っ赤にしていた。


「どうせ、家族に大切にされてるんでしょ!?


 あーそうですね、それならユナの方が必要とされてますよねっ!すみませんでしたねっ!」


「だからなぁっ・・・」


何かを言いかけたジェルを、ユナがやんわりと制し、笑顔で言った。


「・・・私も、あんまり必要じゃないかもしれない。お父さん、居ないし、お母さん、いつも家に居ないし。


 お姉ちゃんも、私のこと、嫌いなんだ・・・『ノロマ!邪魔!』って、言うの。」


ユナは、少し切ない笑顔で、話しつづけた。


「多分、私、ミキちゃんにも嫌なことしちゃったんだよね。だから、嫌いになったんだよね。


 でも、私がいけないんだよ。ごめんね、ミキちゃん。」


ミキはそれを聞いて、又意味も無くムカムカして来た。


そして、声を荒げようとした瞬間、ミキはあるものを見た。


「・・・ユナ?あんた、それ・・・」


"それ"は、ユナの胸のあたりでぼぅっと白く光っていた。


「ミキちゃんも・・・」


ミキは自分の胸を見た。確かに、"それ"が光っている。


――しかし、ミキの"それ"は、黒かった。


「・・・見えるの?」


ジェルは息をのんだ。


「それが・・・」


「それが、魂。」

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