7 一つの問い

「・・・魂?この光が?」


その言葉は、どこかへ木霊して、どこかへ消えていった。


「・・・・・・そう。ミキ、あんたのは、穢れてるでしょ?」


認めたくない――その思いが、ミキの中に渦巻いていた。しかし同時に、当たり前だと言う自分もいた。


「一つだけ、この世から消えなくていい方法がある。」


「えっ・・・」


ミキは瞬時に反応した。


「・・・これから永遠に、嘘をつかないと誓う?」


「うんっ。」


ミキは即答した。


「・・・よし。それを誓うんなら、あんたの魂を、浄化する。」


漫画の様に大袈裟な光がパッと――では無く、ミキの魂は、静かにしゅっと白くなった。ユナの魂のように。


「わぁ・・・」


ミキは、喜んだ。ユナも、純粋に喜んでいる。


「さて・・・」


ジェルは笑顔で言った。


「ミキ、良かったね。あと一問、質問に答えれば、学校へ帰してやる。」


「本当!」


喜びに、ミキの顔は光り輝いた。


「汝に問う。」


ジェルの口調は、急に変わった。


「今この瞬間までに 幾つの生命を傷つけた?」


ん――・・・ミキは考えた。


これは、何人虐めたかとか、そんな感じの質問だろう。


ここで「沢山」なんて答えて、魂が黒くなって、この世から消えちゃったら嫌だから・・・


「虐めたのは、ユナだけだよ。それに、ユナがあたしのこと虐めるから」



ミキの魂は、その瞬間再び黒くなった。



「・・・やっぱり、ミキは改心所へ連れていかなきゃ、か・・・」


ジェルは、何故か悲しそうな顔をした。


8 そして・・・


「・・・許してね、ミキ。


 次は、心の綺麗な、ユナのような人になって、生まれて来ますように・・・」


「え・・・?」


信じられない事だが、ミキの体はどんどん透き通っていく。


「ミキちゃん!」


ユナが駆け寄って、ミキの手を掴んだ。目には涙が、うっすらと浮かんでいる。


「消えないでよ・・・ミキちゃん・・・」


「・・・いいじゃないの。」


ミキは、ユナの手を乱暴に振り払った。


「ユナは、あたしが消えて嬉しいでしょ?」


「そんな・・・」


しかし、ミキの体が殆ど見えなくなって来た時、ミキはハッと息をのんだ。何かを見ている。


「・・・何あれ・・・」


ミキは驚愕の表情を作った。


「やだ・・・行きたくない・・・ジェル、さん・・・あたし、何で行かなきゃいけないの・・・?」


ジェルは、何も言わない。無表情にミキを見ている。


「何で?あたし、何か悪いことした・・・?」


と、言った瞬間、ミキの頭にパッと今までの虐めの記憶が蘇った。


ああ・・・あの子は初めて虐めた幼稚園の健ちゃんだ。確か、あたしのせいで今も凄いトラウマがあるんだっけ。


小学三年生の時虐めた、葉月。あたしのせいで、骨を折って、軽い精神病になったんだって。


あれは、小学五年生の時虐めた、優花。片目、失明させちゃったんだよね。


他にも色々な記憶が蘇ってくる・・・


その記憶を振り払って、尚もミキはジェルにすがる。


「ねぇ・・・残っちゃ、駄目?」


「・・・駄目。」


ジェルは、少し苦しそうに言った。


「駄目なんだ・・・駄目。」


それは、ジェルが自身に言い聞かせているようにも取れた。


「・・・ミキちゃん!」


ユナは再び、ミキの手を掴んだ。


「・・・・・・何で、あたしにそんなに構うの。」


「・・・だって、ミキちゃんが消えると、嫌な人沢山居るでしょ。


 私も、寂しいよ。知ってる人を、見捨てるなんて、出来ない。」


今初めて、ミキは虐めをしたことを後悔した。


ユナが言ってることは、綺麗事なんかじゃなくて、本当なのだ――


しかし――ミキはどんどん透き通っていく。


「ジェルさん。」


ユナが言った。


「どうしても・・・駄目なの?」


ジェルはもう、首を振るだけで何も言わなかった。


「何で?何であたしは駄目なの?」


ミキの身体が空気に溶け込んでいく。


「何で・・・?」


殆ど無くなっている、ミキの身体。


「どうして?どうして?教えてよ・・・」


返事は無い。


「助けて・・・怖いよ・・・ユナ・・・」




ミキは消えた。


空気の中に。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る