5 ミキ

「は?」


ミキはきょとんとした。


「心の準備って、何の。」


ジェルは、ほんの少し顔色を変えた。


「あれ、聞いてなかったか。ユナ、言ってなかったの?」


「あの・・・」


ユナは恥ずかしそうに、辛そうに下を向いた。


「あの、私、その・・・」


その瞬間、ジェルはハッとした表情をした。しかしすぐに無表情になり、


「――そう。じゃあ、説明な。」


ジェルは、淡々と語り始めた。


近年増え続ける犯罪。しかし――これでも絶対神は対策を行っている。


その対策とは、"穢れた魂"を改心させること。


年に何回か、数十人ずつに分けて、神は穢れた魂を探す者を地上に送る。そして、何人かの魂を"改心所"へ送るのだ。


「・・・ミキ。あんたの魂・・・」


ジェルは悲しそうに呟いた。ミキの目を真っ直ぐと見つめ。


「子供にしては、穢れている・・・生まれつきとは思えない。何があったんだ。」


何故かミキは、ジェルの目を真っ直ぐと見られなかった。たまらなく、居心地が悪くなる。



ミキの家は、父子家庭だ。最も、父親が家に居る事なんて滅多に無いが。


父は、ただミキに金を与え、世話係を与え、他は何も与えない。ミキが小さい頃から、そうだった。



幼稚園の年長の時。


『お父さんとお母さんに遊園地につれてってもらうの!』


同級生のその言葉で、何故か身体がカッと熱くなった。そして気が付いたら、その子を殴っていた。


やり始めたら、止まらなくなった。ブロックの玩具を投げつけてみたり、足蹴にしてみたり。たまらなく、快感だった。


その後どうなったかは、覚えていない。


そしてミキは「虐め」に病みつきになった――



「・・・ミキちゃん?」


又してもユナの声で、現実に戻された。


ミキはユナの瞳を探るかのように見る。


あれだけ虐めても、虐めても、虐めても、屈しないユナ。


「何でっ・・・」


幼い記憶と結びつき、ミキは意味も無く怒っていた。


「何であんたは、苦しまないの? 泣かないの? 他の奴は皆苦しんだのに! 泣いたのに!」


ミキは、ユナを思いっきり殴った。――つもりだった。


「ミキ・・・ここは魂だけの世界。いくら殴ったって、無駄だ。」


ジェルは悲しそうに首を振った。


それきり、誰も、何も言わなかった。

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