十七

「あーくそっ。きりが無い!」

 勾陣の叫び声が響く。

「品の無い言葉はおやめなさい」

「っるせーな! 今、そんな所に突っかかってくんな!」

 怒りに身をまかせるように、大地を力いっぱい踏み鳴らした。彼の足元から大きな土の波が生まれ、怨念を薙ぎ倒す。

 しかし、闇は再び何事も無かったかのように元の形を取った。

「まるで効いていない。やはり、赤鬼をなんとかするしか無いようだ」

 疲労を滲ませた顔で、大裳は呟く。

「それが出来てたらとっくに終わってんだよ! あのガキ、天空を圧してやがる」

 勾陣の言う通り。

 赤鬼の攻撃に天空は防戦の一手。

『忙しい所すまぬが、火急故。その怨念じゃが、こちら側を侵蝕しておる。各々方の城が落ちるのも時間の問題じゃ』

 太陰の声が頭に直接響く。

「……ほう。城を落とすねぇ。そりゃ笑えない冗談だな、太陰」

 勾陣の目が細くなる。

『この状況で冗談など言えるはずなかろう。それと、あちらは蒼鬼と黒鬼と交戦中じゃ。こちらはこちらこちらで方を付け、加勢に向かわねばなるまい』

「簡単に言ってくれるな」

 ため息混じりに大裳が呟く。

『こう、あちらとこちらを繋いでいるのには相当労力を使う。結界を張ったままでは尚更じゃ』

「早くしろって事か!」

『察しがいいのう』

「――太陰よ。巳月とその子を連れてあちらへ。今やこちらは不浄の地。体に障るであろう」

『うむ、承知した。では、落ち着いたらまた繋ぐとしよう』

 その言葉を最後に、太陰の声は消え去った。

「良いのか? 貴人。あちらには鬼が二体いるのだぞ」

 大裳は息を整え、貴人へと問いを投げる。

「鬼はあれ等が押し留めていよう。無垢な人間が、この異形を目にして正気が保てるかどうか。それこそ、死期を早めかねぬ。どちらも今は安全とは言えぬ状況ではあるが、負担をかけぬ方を選んだまで。それに――」

 貴人の瞳が急激に鋭く、赤鬼を射抜く。

「あの赤鬼に灸を据えねばならぬ。気にかけるものがあっては、存分に暴れられぬであろう?」

 そう言って、同意を得るように口元を緩めた。

「あはは――要するに厄介払いか」

「勾陣。また、あなたはそうゆう言い方を」

「貴人が本気出すって言ってんだから仕方ないだろ。ま、妥当な判断だな。あれが各地に現れてるんじゃ、早急に片さなきゃだ。今はどの城も留主。あいつ等だけでどれだけ持つか。眷属とは言え神だから簡単には落とさせはしないがな」

「はい。留主を預かる身として、そう易々と城は明け渡せません。皆、思いは同じでしょう。ですので、ここは加勢させて頂きます。貴人様」

 声の主に視線が集まった。

 いつもは下ろしている長い髪を束ねた凛々しい姿。

「丑鈴か」

 貴人はその姿を暫し見つめ、分かった。とだけ口にした。

「では、天空様に力添えをして参ります」

 一礼し、丑鈴は天空の元へ駆けた。

 

「天空様!」

 息を荒げる天空の前に飛び出し、丑鈴は赤鬼の刃を大太刀で受け止め、そのまま押し退ける。

「間一髪。どーも」

「いえ。子供にしては随分と重い一振りですね」

 一撃を受けただけで分かる。

 その力が如何程か。それを今まで一人で相手にしていた天空の体力を案じた。

「見た目で判断すると痛い目みるよ。あれでも、鬼は鬼だからね」

 頬に流れる汗を手で拭い払う。

 身構えたまま、丑鈴は鬼を見返す。

 天空と刃を合わせ尚、息一つ乱れていない。余裕を見せる鬼に対し、柄を握る手に力を込める。

「本当、鬼って体力馬鹿。……悪いけど、庇う余裕なんてないから」

「無論です」

 

***


 巳月は、水月の体を支える。

 眩しい光から解放された後、ゆっくりと開いた瞳に徐々に色の付いた景色が広がる。

 そよぐ風が、大地の匂いを運ぶ。

 懐かしい空気を、水月は吸い込む。

「大丈夫か?」

「はい」

 水月は精一杯の笑みを見せた。

「さて、安全な場所を探さねばならぬのう。しかし、別段変わった様子はまだ見られぬな」

 太陰は辺りを見回し、そう口にする。

 町の方から微かに聞こえる人の声は、いつもと変わらない日常を送っている様子であった。

「町の奥と海辺には鬼が居る。なるべく離れた場所かつ、水月の体を安静に出来る所。うーむ、六合が居ればのう。あやつはこちらの地の利に明るいんじゃが」

 背伸びをし、周囲をぐるりと見渡す。

「何もないのう」

 困り果てた顔をした太陰の目の前に、草むらから勢いよく妖気が姿を表す。

「ぬぉ!」

 その妖気に押し倒された太陰は声を上げ、大地に仰向けとなった。

 陽を塞ぐように、目の前には銀色の毛が広がる。

「ぎ、銀ではないか――脅かすでない!」

 その見知った妖気の主は、嬉しそうに太陰の頬を舐めた後、ゆっくりとその体重から太陰を解き放し、直様人の形をとった。

「すみません。まさかこんな所でお会いするとは思っていなかったので、嬉しゅうございます。太陰様」

 満面の笑みを、その狐は浮かべた。

「うむ。して、銀よ。お主は朔羅と一緒ではなかったのだな」

「はい。その――朔羅様より護衛を頼まれて居りまして……」

「護衛? 誰のじゃ」

 太陰は首をかしげる。

 あの時点で、我等がこちらに来るとは想像もつかぬ事。元より、神に妖の護衛など無用。

 太陰が考えを巡らしている途中で、町からの一本道より蹄の音が近ずく。

「誰ぞ来たようじゃ」

 様子を伺うべく、草むらへ身を隠そうとするが、銀はそれを不要だと言った。

「銀。いきなり居なくなるな」

 栗色の毛並みの馬上から、その者は見下ろす。

 子供の姿。白い髪の男。そして、か弱き女――。

「人ではないね。銀が言っていた者達?」

「はい」

「――そう」

 一言だけ口にすると、その者は馬を降りる。

 身の丈は、巳月と同じ。

 薄い茶の髪と、印象的な紫の瞳。

 幼さの抜けきらない顔つき。

「話は銀から聞いてる。僕は、月影桔梗。兄さんが、別邸に避難してろって、態々この狐を寄越したから、その道中って所。まさか――当人に出くわすとは思わなかったけどね」

 月影を名乗る青年は、やんわりと笑んだ。

「そなた、朔羅の弟か?」

 似ても似つかぬ姿に、太陰は目を丸くする。

「似てないけど、正真正銘、血の繋がった弟だよ」

 朔羅とは違って、清潔感もあり好印象な青年である。

「銀がついて居るのだから嘘はあるまい。月影の者よ、我等はこの人の子を休ませたいのじゃが、その別邸に邪魔をしても良いかのう?」

 桔梗は、視線だけを水月へ向けた。

 支えられ立っているのがやっと。

 銀が言っていた。

 月影水月だった魂を持つ者だと。

 月影の家に生まれ、その名を知らぬ者はいない。

 だが、聞き及んでいた水月(すいげつ)という人物とはあまりにもかけ離れた姿。それにはどこか寂しさを感じ、こんなにも衰弱した姿に、一瞬だけ針に刺された鈍い痛みが走った。

「……構わない。でも、別邸っていっても暫く誰も使ってない所だし、兄さんの使いが居たりするから、清潔感には欠けるけど。それでもよければ」

「良い良い。して、それはどこにあるのじゃ?」

「霊山を抜けた先の小さな廃村だよ。人は居ないし、周りも何もない。荒れてるけど妖には丁度良い場所だからね」

「人が居らぬのは好都合じゃ。早速行くとしよう」

「その子は、僕が馬に乗せて行くよ。もう、歩けないでしょ?」

「うむ。それが良かろう」

 桔梗は、水月へ歩み寄ると、手を差し出し、優しく微笑んだ。

 巳月を見上げると、肯定するように頷いた。

 水月は、ゆっくりと桔梗の手を取る。

 繋がれた掌から、暖かな温もりが広がった。

「揺れるけど、疲れたら眠っていても良い」

 馬の背に乗り、背後から桔梗に支えられる格好で、水月は別邸を目指す事となった。

 ほのかに白檀の香り。

 水月は、ゆっくりとその目を閉じた。

 夜の暗闇に、蝋燭の僅かな光が揺れる。

 灯りの側には、巳月の姿があった。

 壁に背を預け、その傍らには純白の刀が二本。置いてある。

 眠っているのか。

 長い睫毛は伏せられている。

 水月はぼんやりと、巳月の姿を見ていた。

 その視線に気づいたのか、巳月の瞼はゆっくりと上がる。

「――目が覚めたか」

 優しく艶めく声音。

「今は子の刻。側にいるから、安心して眠って良いぞ」

 再び目を閉じる水月に金色の目が細められる。

 少しして、寝息を立てる寝姿に安堵した後。障子越しに、人影を見る。その影は部屋の中には入ってこず、障子越しに腰を下ろした。

「彼女の様子はどうですか?」

「良く眠っている」

「そう」

 返事の後は言葉が絶えた。

 障子越しに互いの気配を感じつつも、静寂だけが広がる。

「……綺麗な月です。鬼が居るなんて、嘘みたいだ」

 小さな声が紡がれる。

「僕が兄さんみたいに強かったら――こうして、護られるなんて事なかったのに」

 言葉から滲む劣等感。

「身内であるならその身を案じるのは自然。危険ならば尚の事だ」

 今尚闘う仲間を思うと歯痒さが残る。

「ねぇ、神様にも家族っているの?」

 思いもよらぬ問いかけが飛んできた。

「家族か――双子の弟が居た」

「居た。か」

 過去形の言葉に、今はもう居ないのだと察する。

「ごめん。聞いちゃいけない所だったね」

「構わない。もう大分前の事だからな」

「そう」

 どんな者だったのか、気になった。

「双子の弟か」

 気づくとそう口に出していた。

 巳月はその呟きに応えるように、名を告げる。

「巳影。弟の名だ」

「……みかげ」

 その名を口にした後は、少しばかり間が空いた。

「やっぱり……護りたかった?」

 障子越しの人影からの問い。

 巳月は、あの時の事を思い返しながら返答する。

「あぁ、護りたかった。失いたくはなかった――でも、あいつは愛する者の為にその命を張った。その気持ちを無には出来なかった」

 止められなかった。

 護れなかった。

 その魂が人に堕ちるまで――。

 巳月は傍に置いた弟の愛刀に視線を置き、その鞘に指を這わせた。

「……そっか」

 巳月の言葉に心が軽くなった気がした。

「ありがとう」

 影は一言だけ感謝の言葉を残した後、少し眠ってくるとその場を離れた。

 独り、静かな時間が再び訪れる。

「巳影……その気持ちが、今なら良く分かる」

 穏やかな寝顔の水月を愛しく見つめ、巳月はそう呟いた。


***


 夜が明ける。

 疲弊した体は鉛の様に重く、口の中には鉄の味がこびりつく。

 衣服は切り裂かれ、その首に光る金色の首飾りが露わとなる。

「――それ、見たことあるよ」

 赤鬼は丑鈴の首飾りを指差す。

「見たことあるですと?」

「そう。ここに来る前に」

「馬鹿な。鬼がこれを見知っている筈がない」

 首飾りを握りしめ、訝しげに赤鬼をきつく睨みつける。

 これは、我が一族のそれも貴人様に仕える者にだけ与えられる物。

 鬼ごときが、見ただのと――戯れ言を。

「真っ黒な、ただの肉片にくっついてたよ。光る金の首飾り。でも、信じてもらえないんだね。――それじゃ、自分の目で確かめてよ」

 赤鬼の足元に、黒い水溜が広がる。

 じわり、じわり。

 ゆっくりと広がり、それはやがて天へ向けて人の形を成していく。

 黒い液体が身体を蝋の如く滑り落ちる。

 とても人とは言えない人の形をしたもの。

 鉛が溶けた様なそれは、確かに金色の首飾りをしていた。

 身は闇へと堕ちようと、その証だけは幾千変わらず誇らしげに輝く。

「――――嘘だ……こんなの……こんな…………父上っ!!」

 声が響き渡る。

 丑鈴は大地にその膝を付き、地を?き握る。

「……嘘だ……だって、父上は私の為に自ら地位をお捨てになったと——人の世に降り、地祇(ちぎ)になったと……そう…………」

 仰っていたではないですか……貴人様――。

 じわり。

 丑鈴の胸に闇が侵食する。

「まさか――触媒に?」

 大裳は、口元に指を寄せる。

 一連の様子を目にし、辿り着く答え。

 そして、貴人へと視線を向ける。

 一切の表情を変えず、ただ丑鈴の姿に視線を落とす姿。

 この戦禍において尚失われない凛とした美しさを湛える。

「貴人様――」

 貴人へ気を取られている間に、闇は心を喰らう。

 真実は、時に残酷に易々と奪い去る。

 貴人は丑鈴へと歩み寄った。

 すれ違う際、ほんの少し紫色の瞳が揺らぐのを、大裳は目にする。

 鬼を背に、貴人は膝を折る。

「丑鈴」

 一言、名を呼ぶ。

「貴人……様……ち、うえは……あち、らで……地祇に、な……ったのでは……なかっ、たのです……か?」

 揺れる瞳から雫が落ちる。

「なる筈であった」

 瞳孔が大きく開く。

「神格が落ちた後の、凶変であった。これは、そなたの父からの最期の言葉。我が子は未だ未熟者故、己が身に起きた事はどうかご内密に――と。今は、己が務めをしっかりと果たせ。そう伝えてくれと、微笑んでいた。丑鈴。そなたは、愛されていた。そなたの父の想いに嘘などない。だから――」

 貴人の手に、ぬるりと生暖かい感触がつたい落ちる。

「堕ちてはならぬ」

「き――じん……さ……ま」

 潤んだ瞳は貴人を捉え、名を呼ぶ口元は微かに口角を上げた。

 最期の言葉が声になることは無く「ありがとうございます」と、ただ唇が震えた。

 腕を掴んでいた丑鈴の手は力なく崩れ落ち、首を垂れた先に直刀の刃が光る。

「貴人、感づいていた筈です。何故、あの時止めなかかったのですか!?」

 大裳は、丑鈴の亡骸を前に貴人に詰め寄る。

「――罰は受けねばなるまい」

「罰? 一体何の罰だと言うのですか!」

「これは、臣の言葉のまま、幼き丑鈴に真実を伝えなかった報い」

 貴人は、横たわる丑鈴に視線を落とし、指を這わせ涙を拭く。

「真実を告げれば、人を恨んだかも知れぬ。それは、こやつの父が望む事ではなかった。あの鬼が来た時に、もしやと思ったが。そうであれば、遅かれ早かれ知れてしまう事。こやつの強さを信じたのだが――些か今までが過保護過ぎたようだ。本当に――我ながら柄にも無い事をしたものよ」

 ――貴人様!

 眩しい笑顔で駆け寄る幼き日の姿が、脳裏に浮かぶ。

 あの笑顔を、曇らせたくはなかったのだと、今になって気づく。

 そして、いつしか告げる時を見失っていた。

 これは、己が罪。

 自らの手で笑顔を屠る罰を、自らに課した。

「茶番は終わった?」

 闇を湛える瞳は、見下す。

「呆気なさすぎて、面白くないな。折角の再開だったのに――でも。それなら無理やり起こせばいいよね」

 うっすらと、笑みを浮かべた。

 どろどろと黒い泥が、勢いよく丑鈴の身体を呑み込んだ。

 死した身体の中に怨念が吸い込まれていく。

「祟神にする気か」

 宙に浮かんだ身体は、尚も泥を吸い続ける。

「大裳、勾陣抑えるぞ」

 貴人は、丑鈴の身体の下に方陣を描く。

「この人数で抑えるのですか!? 幾ら何でも無茶だ」

「やるしかあるまい」

 大裳は苦い顔をする。

「天空!」

「…………分かってる」

 一人で鬼の相手をしなければいけない。

「早く、してよね」

 時間はそんなに稼げない。

 そう、言う。

 天空は、荒く息を吐き鬼を見る。

「本当、悪餓鬼だよね――」

 ふっと笑んだ後、天空の前に一陣の雷が降り落ちた。

「なっ――」

 咄嗟に、雷光から目を庇う。

 その隙間から、ぼんやりと、黒い人影が見えた。

「悪いねぇ、遅くなっちまった。俺の相手は、あの小童でいいのかい?」

 通る声が響く。

 黒影は、声と共に色彩を現す。

 外にはねた黒髪。その左右の頭部には、白銀の角が二本。

 猫の様な榛色の瞳は、天空を見下ろす。

「……鬼」

「俺は雷鬼(らいき)。閻魔様に使える鬼だ」

「そうか、冥府の」

「あっちも色々大変でね。ここには俺だけしか来れなかったが——まぁ、餓鬼の相手は任せな。それより、あっちをどうにかしてくれ。祟神は、流石に手に負えないんでね。神には神、鬼には鬼で行きましょうや」

「っでも、子供とはいえ鬼だぞ」

「言っただろ。俺は、鬼だってな」

 にっと雷鬼は不敵な笑みを浮かべる。

 そして、雷鳴が何処からともなく響き始める。

「さぁ、呵責の時間だ。その魂、奪還させてもらう」


***


 口元から、血が流れる。

 無造作に拭い、次の攻撃に備えて相手を見据える。

 強い。

 見た目は、少女だがその身に宿す力は、ただの人では到底出すこのが出来ない程。確かに、鬼なのだと。少女の拳が物語る。

 身に受けた場所から走る痛み。

 この身は硬く出来ている。それでも、この痛撃。

 青龍は、天后へ目線を配る。

 思った通り、息はかなり荒い。

 一晩明け、体力は思いのほか消耗している。

「黒鬼の前に、これほど痛手を食らうとはな」

 苦笑する。

 さて、どうしたものか――。

 少女の一撃は重く、そして素早い。

 岩をも軽く砕く拳に加え、厄介なのは少女に呼応する水辺の怨霊。

 次から次から湧き出す怨霊に、手を焼いていた。

 朝日が眩しく、空には眩い陽が座する。

 眩しさに、一瞬目が眩んだ。

 瞬きから目を開くと、見知らぬ女性が背を向けて立っている。

「あらあら。神とはいえ、やはり鬼には手こずる様ですわね」

 透明感のある声音。

「青龍ともあろう者が、この水辺において小娘如きに遅れを取るなんて。――余程、人の子が大事なのかしら?」

 ちらりと振り向いた女は、その藍色の瞳を青龍へ向ける。

「――まぁ、どちらでもいいでしょう。私は閻魔様の命に従うのみですから。そこの小娘から鬼の魂、奪わせて頂きます。ですから、そちらの雑魚の方はお願い致しますね」

 女はにっこりと微笑む。

「私は、そこな神の様に慈悲はかけません。鬼ですから」

 女は、少女へ向け、最後の微笑みを浮かべた。

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