はたして、人間合格、とは。

(太宰治『人間失格』につきまして)


 人間、失格。


 あまりに有名なタイトルだから、まるで固有名詞のように思ってしまうけれど、このタイトル、噛みしめれば噛みしめるほど味がある。

 だって、人間失格ですよ?ひととして、失格。すごいことじゃ、ありません?

 じゃあいったい、彼はなんなんだ?答えは、――狂人。


 とても、とても、純粋なひとがこの世に生まれてきたとする。

 彼はこの世の汚さを見て、この世の汚さにまみれて、すこしずつ、すこしずつ、狂ってゆく。

 彼は、この世の汚さに耐えるには純粋すぎた。


 純度の高い人間ほど狂う。


 でも、じゃあ、はたして、人間合格とはなんなのか?

 社会的に経済的に自立して、毎日を謳歌して、まっとう、に生きていれば、人間合格、なのか?

 まっとうに生きるって、なんだ?


 彼は彼なりに、まっとう、に生きようとしたのではないか。

 一生懸命に。


 私は彼に、人間合格、と言ってやりたい。たとえ彼が、もう人間味をほとんどなくしていたとしても。

 そう思わせてしまうところが、彼――葉蔵の、魅力なのだけれど。


 純度の高い人間ほど、狂ってゆく世のなかなのだ。

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