若さ
柊 修
第1話
夫と暮らす1LDKの借家で
今朝も目を覚まし
いやいやでもなくそれなりの気持ちで会社に向かい
帰宅し、一日を終え
それを何度も繰り返しはや15年
私達はあの頃よりすっかり歳をとった。
そんな ある日のことだった
珍しく旦那が土曜日に飲み会があるとかで
私も珍しく、1人でどこかへ出かけようかと
日も落ちてきた頃に賑やかな街へでかけた日のこと
私は一輪のバラを見た。
虹色の
玉虫のような
道路に流れ出たガソリンの膜のような
そんな光を帯びた
夕日に照らされてなんとも言えない
美しさを
儚さを感じさせる
そんなバラを。
余りの美しさに引き寄せられて、
触れようと伸ばした指先に刺さる棘の痛みでかなり近づいていたことにようやく気づいた。
しかし妙だ。
かなり近づいたとはいえ、棘に自ら刺さりに行くほど私も馬鹿になったはずがない
と、指先を見ると
私の指先目がけてひとつの棘が真っ直ぐにこちらに伸びていることに気づく。
こんなに急激に棘が伸びるなんてこと
植物の生態的に有り得るのか
そんなことを考える暇もなく
棘の刺さった指先が妙に熱く熱くじんわりと痛みを帯びてきていた。
なにかかなり変わったバラで
人体に害のある物質でも生成していたのだろうか
焦りや恐怖が一瞬で襲いかかる。
パニックになりかけるも
誰もこのバラに目をとめず周囲の酔っ払い達は立ち尽くす私の横を通り過ぎていく。
どうして誰もこのバラを見ないのか
指先の熱が頭まで響く
誰もバラに気づかない
ガンガンと頭が痛む
と言うよりはもう関節あたりがかなり痛い
インフルエンザってこんな感じだったっけか
薔薇の棘に刺さってインフルエンザになる?
ならないよな
どんどん思考が乱れて行った
その時だった
男性から背後から肩に手を置かれ
「あのー、さっきからずっとそこで立ってますよね?
大丈夫?てか暇?一緒に」
私の耳にはそこまでしか聞えなかった。
「えっ」
と言う、驚いた、困惑した声を上げたまま
ものすごい速さで走り去ったのだ。
不思議なことに彼が声をかけてきてくれてから
急に体の調子が良くなった気がする
なんだったのかは分からないが助かった。
あんなにしんどかったのに、スッキリ。
ってそんなことあるか?
やっぱり不安だ、今日はもう呑むのはやめて帰ろう。
それなりの人混みの中、
川沿いの私たちの家に
のんびりと歩いて帰った。
私たち、の片割れはまだ帰っていないだろうけれども。
自宅に戻ると
ポストに赤い薔薇が描かれたカードが入っていた。
ハガキサイズの、
とっても高級そうな紙に
特殊加工で刷られたバラ。
しかし今日見たのは赤ではなかったけれども
表を見ると東京の文通友達からだ。
珍しくメッセージはなし。
ハガキを手にリビングへ向かい、
起き上がることが難しくなるビーズクッションへダイブする。
お水をがぶ飲みしたい気分だったけど
もういいや、と思いカードを手にゆったり腰をかけ、
なんなら少し伸びをして体中の力を抜いたあと
目を閉じる。
旦那がお迎えをお願いしてくる連絡が来るまでは眠ってしまおうか。
若さ 柊 修 @niiragi
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