星明かりと消灯6《上》
「・・・僕はいろんな町に移り住んだ。本当に・・・いろんな町に逃げ込んたんだ。だけど・・・どの町ももって2日だった。寝泊まりできた日もあれば、僕が足を踏み入れる前に消滅していたところもあった。共通していたのは、最後には全部消えて無くなって、星だけが残ること・・・。だから、この街に来た時、星のない空を見て思ったんだ。『終焉か救済』だって。この街と共に僕は死ぬ。または、脱出口となってくれる・・・そう思ったんだ」
この世界に入り込んでからの経緯を全て説明し終えた男は、地面から目を上げて後ろを振り返った。
男の視界に3人の人影が映る。
老父と少女と花屋。
彼らは男に連れられ、夜に街灯の前へと集まっていた。
3人の困惑した表情は、すっかりと暮れた闇夜の中、街灯の光で照らし出される。
「えっと・・・。つまり、この街は小説の中にあって、物語が終わったから、人も建造物も全部、消えて無くなってしまう・・・?それで、あなたは現実世界から迷い込んできた実在する人間で、なぜか町と一緒に消えることなく今まで、逃げ続けていた。だけどこの街に来て、星のない空を見て、自分も消えてなくなるかもしれないし、元の世界に戻れるかも知れない・・・ってそう思ったの?」
「はい」
状況をうまく汲み取ろうと自分なりに解釈した内容を復唱した花屋、は思いもよらない男の話を疑うこともなく信じた。
彼女は店の中で男と話をしたあの数十分の間に、彼を『信頼するに足る人間』と判断していたのだ。
男の言葉に疑いをかける意味など、なかったのである。
対して老父は、先程から気になっていた疑問を口にする。
「・・・だけど、どうしてこの街なんだ?ホシが存在しないから・・・なんて、どうしてそんなものが根拠になる?」
老父の言葉に男は喉をゴクリと鳴らして、また俯いてしまった。
しかし、そう悠長なことをしている時間がないことを・・・終わりが迫っていることを男は悟っていた。
男は顔を上げ、老父の顔を真剣な眼差しで捉え直す。
「最初は・・・星を題材として多く使ったこの本に星を書き忘れた場所なんてあるわけないと思ったんだ。・・・だから、ここはまた別の世界なんだと分かった」
「別の世界?」
男の話についていけていない少女は先程までとはまるで違った彼の雰囲気に怯えながらも、弟の手をぎゅっと握って復唱した。
「そう、別の世界なんだ。・・・ここは、この場所は」
男は胸が裂けるような痛みに、上着の胸元を握り込んで耐える。
彼はもう、喋りたくなどはなかった。
いっそのこと、このまま終わりを待とうかとも考え始めていたぐらいだ。
「この場所は・・・僕のためのゴミ捨て場だよ」
それでも彼が話すことをやめなかったのは、抑えきれなくなった『罪悪感』のためである。
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