星明かりと消灯【裏4】

叫んでその場から逃げ出しながらも、男の目は周囲を観測する事をやめなかった。

酒場があり、装備屋があり、噴水があった・・・にぎやかだった町の風景は民衆ごと消えて無くなっていた。

男がいくら首を動かそうと目に入ってくるのは暗く塗られた地面と、どこまで広がっているのか見当もつかない闇夜の空間。

夜空に広がる星だけが、男が未だ生きている事を主張していた。


『めでたしめでたし』

ふと、男は思い出した。

この小説は、花火が上がりふたりが婚約する事を発表する寸前まで・・・つまり、花火が打ち上げられていく様までが書かれていた。

そして、ふたりがその後どうなったのかは、ほのめかされることもなく、ありきたりなフレーズで完結してしまうのだ。


打ち上げ花火は空へと伸びて、この小説は先程終わりを迎えた。

それが一体何を示すのかは、あたりの光景が嫌という程に主張している。


死んでしまったのだ。

町も、人々も、物語までもが・・・。

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