stage38.排斥



「フン……珍しく私に反抗したかと思えば、何だ。貴様あの響咲を手懐けていたのか。お前にしてはなかなかやるじゃないか。我々マニアの中でさぞかし人気が出るぞあの男は。そうなるとひょっとしてお前はもう役に立たなくなるかな?」


 滝沢征二たきざわせいじは不気味な笑みを浮かべ、手に持っていたナイフの先端をまるで確認するように、自分の指先で軽く突く。

 そしてフゥと溜め息ともつかない息を吐くと、息子である滝沢有夢留たきざわあむるの側に歩み寄り顔の前でしゃがみこんだ。


「どうだったか? あの男と交わった具合は? よく乱れるお前の姿に喜んでいたか?」


 これに有夢留はプッと父親の顔へ、唾を吐きかける。


「久遠はお前とは違う!!」


「舐めた真似を……」


 滝沢は顔に付いた唾を袖で拭い取ると、この上ない憤怒の眼差しを有夢留に向けて手を振り上げた。


「誰に向かって口を利いているんだ!!」


 滝沢は激しくバシッと息子を平手で殴る。

 そしてはと気付いたような表情をする。


「おっと、すまなかったな有夢留……お前を殴ったりして。せっかくの美しい顔にアザを作るわけにはいかんからな」


 突如、今まで言わなかった優しい口調の言葉に、有夢留は怪訝な表情を浮かべる。


「――剥製にしたらアザは消えないからな」


「……!!」


 この上ない嗜虐的な顔で述べた父親の発言に、有夢留は驚愕を露にする。


「クックック……その怯えた顔……よく考えたら初めて見せるんじゃないか? もうすっかりどの苦痛にもお前は慣れてしまっていたようだからなぁ」


 滝沢は言いながら、ゆっくりとズボンのベルトを外し始めた。


「クックック……そうか……あの響咲久遠きょうさくくおんにお前は惚れたのか……だから生きる希望が湧いてきたんだな」


「久遠は男を抱いたりはしない!! 久遠は普通の人だ!!」


 有夢留は手錠をかけられて広げられている両手をガチャガチャさせ、もがきながら口答えをする。

 しかし滝沢は悠然として自分のズボンを下ろす。


「何だ……じゃあお前あいつに一度も突っ込んでもらったことがないのか……! クックック……じゃあさぞかし体が淋しがったんじゃないのか……? ――こいつをよ!!」


 滝沢はすっかり隆起した自分の逸物を掴んで、有夢留へと晒して見せた。


「!! いやだああぁぁぁぁぁぁーっっ!!」


 父親である滝沢にナイフで衣類を引き裂かれ、肉体を何度も刺されながら、犯される有夢留。



“我が身を自分で守れるうちに守っておけば、まだ救い道があると言うものだ”


“この俺で良ければ……いつでもまた、会いに来い”


“一週間ほど、少し遠出してみないか”


“当たり前だろうが!! お前は生きているのだから!!”


“俺とお前はちっとも似ていない……!!”


“フン”


“好きだ……アム”


 ――久遠……愛してるよ――



 有夢留は目を半開きにしたまま、鮮血の赤に塗れて動かなくなっていた。

 両目からは、涙が零れていた――。




「有夢留っっ!!」

「おや。正義の騎士ナイトのご登場か響咲。しかし残念ながら遅すぎたな。私はもう一仕事終えて、こいつ・・・の首を切断して眺めていたところでね」


「……!!」


 滝沢の地下室にて、シンクになっている寝台の上には真っ赤な血液が溜まり、見覚えのある頭部が置かれていた。


「さすがは血を引くだけはある。母親同様こいつも一刺しする度にきつく肛門を締め付けてきて、もう最高だったよ。勿体無いなぁ君も。こいつの良さを味わわなかったとは。しかし大丈夫。私の正体を知ったからには、君もこっちの世界の住人になってもらうよ。逃げようったってそうはいかない。今、仲間に連絡してお前を紹介して――」


「滝沢ああぁぁぁぁぁぁぁーっっ!!!!」


 全裸姿で携帯電話を手に取ろうとする滝沢に、久遠はこの上ない怒声を上げた。


「おい余計なことはするな! でないとこのナイフで……!!」


 久遠のあまりもの気迫に、滝沢は焦りを覚えて後ずさる。

 すると背後にあった医療器具類が置かれた台にぶつかり、派手な音を立ててそれらがタイルになっている床に散らばった。

 しかしそれも気にせず自分に迫ってくる久遠に、滝沢は危機感を覚える。


「ぐ……っっ!! 私をどうする気だ! 殺したらお前は殺人犯……!!」


「貴様に言われる筋合いはないっっ!!」


 久遠は憤怒の形相で、滝沢を力一杯殴りつけた。


「ぐあ……!!」


 滝沢は倒れこみ、手に持っていた携帯電話とナイフが落下し、タイルの上を滑っていく。


「聞いていましたか楡崎にれさきさん。こいつはご丁寧にもしっかり口に出して、自分の犯した罪を説明してくれましたよ」


 久遠の言葉に、滝沢は倒れこんだまま眉宇を寄せた。



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