stage29.不屈
警察からの事情聴取で、
まずは当然ながら、
以降、警察が麻衣未の捜索を打ち切ってからは友樹が一人、大学を辞めてまで妹を探し続けていたこと。
そんな中でその妹、麻衣未が大学寮に兄を訪ねて姿を現したこと。
その事を友樹へ電話で伝え、近所の公園で友樹と麻衣未が再会したこと。
しかし妹には何者かが一緒に来ており、麻衣未を乗せた車を友樹が後を追って以来、連絡が取れなくなり心配してGPSで彼を探した結果、あの山中に辿り着いたこと……。
久遠が話し終えたタイミングを見計らったように、部屋のドアがノックされて一人の刑事が入ってくるや、久遠の話を聞いていた方の刑事、30代であろう
しばらくしてから楡崎は首肯すると、報告に来た方の刑事は部屋を後にした。
そして改めて楡崎は久遠へと向き直ると、重々しげに口を開いた。
「こんなことを言うのは酷だが……被害者の頭部以外、体の方はあの周辺では発見されなかったらしい。ついでに二人の眼球も抉り取られていたそうだ……」
「そんな……どうして、どうして早川達が……早川と妹がこんな酷い目に遭わなければならないのですか! あなた達警察がもっと念入りに行方不明になった妹を探してくださっていれば、もしかしたら避けられたかも知れないのに……!」
ここで久遠はハッとする。
「そうだ……
「確信はあるのかい?」
「それは……!」
思わず言葉に詰まる久遠。
今自分が知っている情報を晒してしまうと、有夢留が辛い目に遭って尚且つ児童施設に入れられるだろう。
「ともかく早川麻衣未の捜索の件は、こちらも申し訳なく思っている。隣の部屋に早川さんのご両親が来られているから、もう君は帰っても構わないよ。何かあったら、私に連絡しなさい」
楡崎は言うと、久遠に名刺を渡した。
「そう、ですか……分かりました。ではここで失礼します」
久遠は椅子から立ち上がると、肩を落として部屋を出て行った。
その時、外から鍵を開ける音に有夢留は、はと強張らせた顔を上げる。
玄関のドアが開き、久遠が姿を現すと有夢留はパッと表情が和らぐ。
「お帰り久遠!!」
「ああ」
駆け寄ってくる有夢留に、久遠は靴を脱ぎながら短く返事をした。
久遠は室内に上がるとソファーに身を投げ、盛大な溜め息を吐いた。
「久遠……あの、その……早川さんと麻衣未ちゃんは、残念だったね……」
「……」
「やっぱり僕、戻っていれば何とか二人を助けられたかも――」
「その時はお前も一緒に殺されていたさ」
「久遠……」
「あいつは……早川はただ死んだわけじゃない。
「う、うん……」
しばらく長い沈黙が流れたが、久遠は天井を見上げたままそれを静かに破る。
「……最悪な結果になったな。やはり妹とは会わせなければ良かった。そしたら違う形でも二人が死ぬことは――」
「でもそれだときっと、二人は生きながらにして、ずっと苦しみ続けていただろうね」
「……」
「僕は、久遠に出会うまではいつも死ぬ覚悟をしていたよ。毎日、毎日……。別に死んでもいいやって思ってたもの。そういう気持ちで生かされるのって想像を絶するくらいに辛くて、きついものだよ」
「……だから殺されても良かったとでも?」
「ちっ、違うよ!! そんなんじゃない!! 少なくとも久遠が責任感じる必要はない。責任を感じるべきはきっと、僕の方だよ!!」
「どうしてそこでお前が……」
「だって今回の事件の裏には、多分パパがいるはずだから……」
そう口にした有夢留は涙声で、それまで天井に顔を向けていた久遠はそちらへと顔を向ける。
「久遠にとって早川さん……大切な友達だったんでしょ……。憎いでしょ? パパが。僕はその息子だよ。追い出したかったら別にそれでも仕方ないから……」
「うるさい」
「え?」
「二度とそういうことを言うんじゃない。だからお前が泣くなアム。気にせずここにいろ」
「久遠……! う、うんっ!」
彼の無愛想ながらもそう言った言葉に、有夢留は必死で涙を拭った。
早川友樹と妹、麻衣未の葬式は、胴体がなく頭部のみの形で執り行われた。
勿論、きちんとした二人分の棺を用意して。
久遠は通夜と葬式ともに参列した。
そこには有夢留も一緒だった。
父親の滝沢も来るのではと恐れていた有夢留だったが、久遠の予測通り滝沢が来ることはなかった。
つまりそれは、滝沢が友樹、麻衣未殺害に一枚噛んでいる証拠だと、久遠は確信した。
一方有夢留は、今まで平然と誰かが殺されたり死んでしまったりが当たり前の日常になっていた為に、こうして死者が哀切の中弔われる現場が物珍しくて仕方なかった。
勿論、空気を読んでしおらしくはしていたが。
久遠はさすがに火葬場にまでは付いて行かなかったが、友樹の両親に最後に声をかける。
友樹と麻衣未の棺を載せた霊柩車が、高いクラクションを鳴らして、火葬場へと向けてゆっくりと発進した。
それを見届けてから、久遠は有夢留を連れて葬儀場を後にした。
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