stage24.兄妹
「ああ、響咲。……その子は?」
青白い顔をした
「……拾った」
「ハ!?」
「落ちていたから、拾った」
確かに当たらずとも遠からずだ。
「拾ったって……犬や猫じゃあるまいし……」
「話せば長い。今は俺が面倒を見ている」
「そうか……理由は分からんけど、とりあえず
「それは分からない。ただ、確かにお前の妹にこの公園にお前が来ることは伝えた」
久遠は言うと、別に買っておいた缶コーヒーをポンと友樹に投げて寄越した。
「まぁ座れ」
「あ、ああ……」
久遠に促されて友樹は、彼の隣にぎこちなく座る。
「しかし麻衣未はどうしてお前の元へ……」
「俺の元じゃあない。お前の元に来るはずだったんだ」
「え……?」
久遠の言葉に、友樹はフードを脱ぎながら疑問の表情を浮かべる。
「あの大学寮の敷地内にいたのを俺が見つけたんだ。お前の妹は、まさかお前が大学を辞めているとは、知らなかったからだ」
「そ、そうか……麻衣未が俺を訪ねて……!」
友樹は声を震わせながら言った。
すると公園の敷地内に、茶色のロングヘアをした女の子が入って来た。
顔を俯かせ、重そうな足取りでゆっくりとこちらへ歩いて来る。
久遠と
友樹は正面を向いたまま缶コーヒーをあおり、肩を項垂れながら大きく一息吐いている。
そんな彼の前へ、麻衣未はやって来ると立ち止まった。
「……?」
友樹は不思議そうにその少女を見上げ、見つめたが少しずつその表情は驚愕のものへと変わった。
「麻衣未……? 麻衣未なんだよな!?」
「うん……お兄ちゃん……」
彼女はどことなくバツが悪そうに答える。
直後、友樹は麻衣未を抱きしめていた。
「良かった……! 良かった麻衣未が無事で!」
「無、事……?」
兄の言葉に疑問を口にする麻衣未。
「ああ、そうだよ麻衣未! お前が生きていてくれて本当にお兄ちゃんは安心した……!!」
友樹は歓喜のあまり涙を流しながら、更に麻衣未を強く抱きしめる。
「ちょっ……お兄ちゃん、苦し……っ!」
「あ、ああ、ごめんよ麻衣未」
麻衣未の訴えに、友樹は慌てるように妹から体を離す。
「まぁ、その、何だ。立ち話も何だから……」
「ああ、俺達が退こう」
久遠と有夢留はベンチから立ち上がると、隣にあるもう一つのベンチへと移動した。
「座れよ麻衣未」
兄に促されて麻衣未は、友樹の隣に座る。
「しかし何だな……何つーかその、少し見ないうちに大人っぽくなったな麻衣未」
友樹は涙を必死に拭いながら、笑いを含めつつそう声をかけた。
「お兄ちゃんこそ、少し見ない間にすっかり老け込んだわね」
そう口にした麻衣未は動揺することもなく、全く冷静だった。
「口調まで大人びてんのか」
友樹はクスクス笑った。
「そうよ。すっかりあたしは大人びたわ」
言うと麻衣未は、手にしていたバッグから何かを取り出した。
「……それは……タバコ……?」
途端に笑みを消す友樹を無視して、麻衣未はタバコを一本取り出すと口に咥え、ライターで火を点けようとした。
直後、凄い勢いで友樹が麻衣未の手からライターを叩き落し、口からタバコを取り上げた。
「ちょっと何するのよ!」
「何やってんだ麻衣未! お前まだ12だぞ!? タバコなんか――!!」
「年齢なんて関係ないわ! いい!? お兄ちゃん! あたしは変わったのよ!!」
「髪だってそんな色に染めたりして!! おいで麻衣未。父さんと母さんの元に帰ろう!!」
言い争ってから友樹は麻衣未の手を取ると、強引に引っ張った。
「やめて! 放してよ!!」
兄の手を、力一杯振り解く麻衣未。
「あたしはもう家には帰らない!! だからパパとママにも会わない!! なぜならあたしはもう変わってしまったからよ!! それこそ人生そのものがね!!」
「麻衣未!?」
「今更どんな顔してまた学校に通い始めればいい!? 今更どうやって友達と遊べばいい!? 無理よ! もう全てがね!! あたしはそれをお兄ちゃんに伝える為にここに来ただけだから!! じゃあ、バイバイお兄ちゃん!!」
麻衣未はまるで心の中の悲鳴を彷彿とさせるかのように叫ぶと、泣きながらその場から走り去った。
「麻衣未! 待て!!」
そんな妹を、友樹は追いかけて行った。
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