stage20.虫酸
やがて食事も始まり、他愛ない会話を弾ませる
つまりそれだけ普段から、満足な食事を与えられていない証拠だ。
「んぐ! ぅむむむ……!!」
「大丈夫か有夢留!」
滝沢が息子の背中を叩く。
落ち着いた様子の有夢留に、滝沢は嘆息を吐く。
「全く、お客さんの前でみっともない。慌てずゆっくり食べなさい」
そう言う父親の言葉を他所に、今度はパンをつかんでかぶりつく。
「ハハ、元気でよく食べるお子さんですね。私も料理をした甲斐がある」
久遠は苦笑しながら言った。
そうして食事が進んでいくうちに、滝沢が大きな欠伸をするようになった。
それを1、2分置きに繰り返すと、滝沢はぼやくように言った。
「もしかして……あまりにも楽しい食事のせいか酔ってしまったのかも知れない……すまないね響咲。少しベッドで横になるから、君はもう帰りたまえ……」
「おや。そうですか。分かりました。今日はとても楽しい時間を過ごせて良かったです」
「うむ……」
久遠の言葉も満足に最後まで聞かずに、相槌を打ちながら椅子から立ち上がると、フラフラと寝室へと姿を消してしまった。
「パ、パパ……?」
不思議そうな表情で父親の背中を見送っていた有夢留だったが、久遠の盛大な溜め息で我に返る。
「眠剤だ」
「え?」
「液体睡眠薬をグラスの内側に塗っておいたんだ」
「響咲さん……これは、じゃあ……初めから?」
「ああ。俺の作戦だ。お前の家に潜り込む為の、な」
そう言うと久遠は、ケータイを取り出してカメラモードにした。
「さて。ではあらゆる証拠を掴んでやる。アム、お前も協力しろ」
「アム……――う、うん! 勿論だよ!」
久遠が自分を信じ、味方の方に回ってくれたのが有夢留は嬉しくてたまらなかった。
「アム、家の中を案内しろ」
「うん!」
有夢留ははしゃぐようにして、久遠の先頭に立った。
一階は主に広いLDKで、風呂とトイレがある以外は大した情報はなかった。
二階には部屋が四つあるが、そのどれにも有夢留個人の部屋はない。
一つは事務所、一つは書斎、一つは滝沢の部屋、一つは寝室だった。
やはりその中で一番の収穫は、書斎と滝沢の部屋だった。
書斎にはどうやって入手したのかと思うほど、児童性愛者、屍体愛、屍体損壊、等々の書物が医学書とともに混在していた。
こんな狂った知識を抱えながら、あの男は今まで医術を行っていたのかと思うと、久遠はゾッとする。
そして滝沢の部屋に入って久遠は、愕然とした。
真っ先に飛び込んできたのが、壁にA4サイズに拡大された久遠の写真が貼られていたからだ。
「パパはバイだから、女でも男でも平気な人なんだ」
有夢留の言葉に、久遠は不快感な表情を露にしながらゆっくりと、室内に足を踏み入れる。
その写真の前に立って改めて見てみると、その周りを囲むように男の裸体写真の顔の部分だけが、久遠の顔に貼りかえられている写真が同じく貼られていた。
しかもその裸体の偽物久遠は、あらゆるポーズで痴態を晒している。
あまりもの嫌悪感に、思わず胃がこみ上げ吐き気をもよおしそうになり、咄嗟に片手で口を押さえる久遠。
「大丈夫……? 響咲さん」
有夢留が心配そうに、顔が青ざめている久遠を覗き込む。
「あ、あ……大丈夫だ」
消え入りそうな声で答えながら久遠は、冷や汗が滲む額を手で拭う。
これはあの久遠の姿に加工された例の動画まで、見せるわけにはいかないなと、有夢留は内心思った。
「本当は……あまりこういう物、響咲さんに観せたくはないけど、証拠になるのなら……」
有夢留は言いながら、ノートパソコンを操作した。
すると画面に映し出されたのは有夢留が性的虐待を受けている動画だった。
一通り観てから、久遠は有夢留へと顔を向けた。
「辛かっただろう……?」
「うん。すっごく」
二人の間に、気まずい沈黙が数秒ほど続いてから、その静寂を破るように先に有夢留が動く。
「今度はこれだよ」
引き続き観せられたのは、親友である
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