stage12.温床
「
少年は話を続けた。
その二人の男は彼女を連れてきた男と、約10人くらいの人数を束ねる小さなグループのリーダーをしている男とで――勿論、リーダーと言っても下の方のグループなので、更にその上にトップの人がいるのだが、そうして連れて来られる犠牲者を“初物”と呼ぶ。
それをまずグループのリーダーが味見して、それから別のグループに回したりして、その世界を仕切るトップの所で登録されたら、その世界の住人として生かされる。
勿論もう二度と普通の世界では生きられないし、それ以前にもうそういう世界でしか生きていけないよう教育される。
脅したり、マインドコントロールされたり、その世界で与えられた性の快楽の味を覚えさせられ、もうそこでしか生きていけない体にされたり、薬漬けにされたりetc……。
殺人なんかも日常茶飯事なので、ついさっきまで生きていた人も、いつの間にか死んでたりして、常に死と隣り合わせで少年や麻衣未は生きている。
「それで麻衣未ちゃんは味見された後、他に回す為に連れて行かれる時に、僕を振り返りながら何度も叫んだんだ。“助けて、助けて”って……。犯されている時も、彼女は“
麻衣未が連れてこられた時、その連れて来た男が聖ヴェルニカ大学病院の男子寮で拾ったと言うのを、少年は聞き逃さなかった。
よってそこにその兄がいるのだと、少年は思った。
少年は麻衣未を助けてはやれなかったけど、泣き叫ぶ麻衣未があまりにも哀れで、せめて麻衣未の物だけでも兄に渡してやろうと、犯された時に床に散乱したままの麻衣未の物を拾い集めてコッソリとその場から少年は抜け出して来たらしい。
「丁度この寮に来た時、あなたと麻衣未ちゃんの兄の早川さんがいて、その様子からすると麻衣未ちゃんを探し回っている事がすぐ見て取れた。もしここで僕が出て行ったらきっと彼女の居場所を問い詰められる。そうなると僕がそれを知らせた事がリーダーにバレて殺されるかも知れない。そう思ったら怖くて出るに出られなかったんだ。すると早川さんが車で門を出て行ったから、二人より一人なら袋を渡して逃げ切れると思って、それで……」
「……あの時俺に渡したのか……」
「その後、麻衣未ちゃんは別のグループのリーダーに引き取られたみたいだけど、その人の居場所は僕、分かんなくて……」
「……」
少し落ち込み気味の少年を無言で見つめていた久遠は、とんでもない話を聞いてしまったとばかり大きく息を吐いた。
「それで、早川の妹はどんな様子だ」
久遠の質問に戸惑いながら、少年は口を開く。
「……もうダメ……そうだよ」
「ダメ?」
「うん……僕みたいにただ脅されていれば、いざ助け出すのも大丈夫とは思うけど、あの子の場合……助け出されるのを自分から断ると思うよ」
「……それだけ……精神的に重症ということか?」
「……あの子……そういう変態的性欲の味を肉体に刻み込まれているみたいで、その快楽がないと生きていけない体にされているみたい。言い辛いけど……今では自分から喜んで嬉しそうに、そういうプレイ楽しんでるから……」
「……12歳の少女がか!?」
「年齢なんて関係ないよ。寧ろ年が幼ければ幼いほど、そういう知識を受け入れやすいんだ。誰だって死にたくないから、そういう世界に適応出来るよう、逆に自分自身に言い聞かせちゃうんだよ……そうしなきゃまともな精神状態では、とてもいられないから。普通の世界では、それが返って余計に自分を苦しめるだろうし、裏社会の世界ではまともな方が余計に辛いんだ。特に麻衣未ちゃんの様にそれまで普通の世界で生きてきて、いきなり異常な世界に入ったらね。相当辛かったんだろうね。ドラッグにも手を出しちゃってるみたいだから……」
「な……」
信じられなかった。
兄、友樹に似て明るく、素直で思いやりのある子だったのが、今ではまるで売女のような生き方を嬉々としてやっているなど。
「早川にこのことを……」
「言っちゃダメだよ」
「いや、お前から聞いたとは言わない」
「でもダメだよ。教えてあげたい気持ちは分かるけどさ。言ってどうするの? 助けに行く? 麻衣未ちゃんを助け出しても彼女は薬漬けだし、体も快楽の味を覚えてるから、普通の世界に戻って生きるのが辛くなって、親やお兄さんもそうなった彼女を精神病院に通わせるだろうね。でもそれは彼女の為だとしても、また彼女は辛い思いをする。それでも仕方ないと目を瞑ったとして、じゃあ早川さんが麻衣未ちゃんを助ける為に裏社会に足を踏み入れたら、無事に生きて帰れるわけがない。仮に警察を使ったとしても、裏の情報を甘く見ない方がいいよ。彼らは警察の動きを知ってるから、逃げる術も知っている。それに……裏社会の中では、普段は警察官という人もいる。それ以上の職業の人もね。彼らにとって都合が悪い事は、金を使って事件を揉み消して闇に葬る事も出来る。過去に僕はそういう目に遭った被害者の家族をいくつか見てきた。だから余計に苦しむのは早川さん達家族だよ」
少年は、まくしたてて語った。
「……」
これに久遠は、思いかけずに閉口することしか出来なかった。
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