第4話

そやけど、下町言うても話にはよう聞くけど、実際そんなん行ったことも無いし、どうやって行くんかも調べんと分からんし、とりあえず大きい駅に行ってそこから乗り換えたら一本で着くいうんはわかったけど、そやけど不思議なもんやなって思わん?話に聞くけど行ったこと無いんやったら、フランスのパリでも北京でも月面でも同じようなもんでっせ。あるんか無いんかも分からんわけやろ、違う?ただ、ある。先週こんなことあったってテレビとで見たり聞いたりしてるだけで、それが実際にあるんかどうかは今まで自分の生活に何の影響も無かった訳やし、なんかニュースで「すいません、ありませんでした。」なんて言われても、まあ「ふーんそうやったん」ぐらいにしか思えへん。いやいや、そりゃビビるで。何でそんなことがありえんねんとか思うかもしれんけど、それが自分にどう影響があんねんってことで言ったら、結局のことやけど、なんて事あらへん。そんなん「今までずっと騙されてたなんて、信じられへん」とか言うんやったら「言わんでくれた方が良かったわ」云う事にならへん?結局やけど、ほんまのことなんて誰も言いたがらへんし、「言わん方がええやろ」云うことなって何も知らされんまま過ごしてんのと違うの?結果やけど、ホントのこと言うたかて実際の影響なんて無いんやから、やっぱ「ふーん。それで?」云うだけのことなんですわ。

 電車ん中で、しばらくぶりに反対方向に乗って大きな駅まで向かっとったんです。なんか景色がいつもと逆に動いてるわぁ思うたら、前に座っとった女の子も不思議と可愛く思えてきて、こんな子が彼女やったら一緒にどこに行くんやろうか?とか考えてみたりもするもんです。まあ、デェズニーランドですかな?初デートやったらあからさまやし、付き合いだして半年ぐらいしてからかなぁ?行ったら行ったで楽しいやろうから、意外に悪う無いで、きっと。二人でミッキーの耳バンドでも何でもしてやりますわ。きゃっきゃ言いながら同じカップのポップコーン食べたりして、周りはようやるなあ思うてんのやろうか?まあ、でもそんな世界やから、何でもありですわ。そんな世界では、周りのおっさんもにこやかに笑みを浮かべて眩しそうに俺らを見つめていてくれんのかもしれんやん。悪う無いで、全然悪う無い。そう考えとったら前の女の子が急に窓の外見て、なんか降りる駅やったことに気付いたみたいで急いで降りてってしもうた。「この駅なんやな」いうて駅名覚えたって、なんか気持ち悪いで。あかんあかん、忘れようなんて思うてる間に「降りんでええの?」とか、何でそんなこと言うん?気になるやん。「もう会えんかもしれんで?」とか、って言うか基本的に初めて会うたんやし、会わんやろ普通。それでも、何て声かけたらええねん?声掛けんの?いや、あかんやろ。なんていう間に駅員の冷たい声で「扉、締まります。」その呟くように言う感じ、渋すぎへん?なんか知らんけど、イラっときたわ。

 こんな時に思うんが、もしかしたら今みたいな瞬間に「その女の子に声を掛けとったら」のパラレルワールドが生まれてんのちゃうかってこと。なんかブッブンって音と一緒に玉ねぎの皮みたいに見えんだけですぐ隣にそんな世界が生まれてんのちゃうかって考えてまう。それほど、もう過ぎてもうたけど、もしそうしとったらって思うと、その境界線っていうか、立ち上がって行くか行かんかって、それほど微妙やったんや無いかって思えてきて、だってもう足に力入れようかどうしようかでプルプルいってたやん。

 まあ、「選択した」ないしは「しなかった」って考えだけでいったらそうでも無いんかもしれんけど、そんな消極的な気持ちで捉えやんでもええやん。選択した世界はそこにあると、その選択した世界での俺は俺で、そこにいるんやろうから、楽しんでくれと思えば、なんか選択せんかった俺も、選択した俺も、まだ生きているような気持ちにはなるやん?そうすることでそんなパラレルワールドが存在できるんやったら、またいつかどっかのきっかけで入れ替わったりもできるかもしれんし、既成事実なんかが入れ替わったりするんは流石に無理かもしれんけど、そんな世界の住人が知らんうちに行ったり来たりしてても悪う無い。そうやって「逃したかもしれん」って思う世界があるんやったら、やで?結果、選択せんかったことは変わらんにしても、そんな世界の自分の分身を近うに置いといたら、雰囲気や感じだけでも伝わってくるかも分からん。そしたら、そんな雰囲気に影響されたもんが何らかの形で今の世界にも起きるかもしれんやん?まあ、自分から自分の気に入った世界をわざわざ殺さんかってもええやんってこと。

 って言うか、もう電車動いて無いやん。さっきえらいみんなが一斉に立ち上がって動いとるなあ思うたけど、あれって着いたってこと?そう言えば、えらい空いたなあ思うとったら、また人がわらわら乗って来とって・・・・・・おう?さっきの人らが戻ってきたんか思うとったけど、あれは違ったんか。別の方向に向かう人らが乗ってきとったんか。それでちょっと不思議そうな顔してこっち見とったんやな。「えらい、すみませんでした。」ゆっくりと何も無かったような顔で立ち上がって、電車降りて、ゆっくり歩いとったら、もうええやろ、気付かんかったやろ。気付いとったかもしれんけど、違和感はそんなに無かったんと違うかな。

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