野狗子 ⑤
その日、かれは夢を見た。
小高い丘に立派な墓が見える。
棺を乗せた馬車がやってきて、墓の前で止まった。
馬車に突き従う多くの者が、墓の中に収められる棺を見守りながら、打ちひしがれ、意気消沈していた。
棺の蓋が開けられ、人々が中の人物に最後の別れを告げている。
亡骸になった人物は、高貴な身分だったのであろう。様々な貴金属に身を包んでいた。美しい着物を着せられ。たくさんの副葬品と麗しい花々に囲まれていた。
多くの人間が涙を流していた。ずっとずっと、泣き続けていた。
皆がなかなか棺の蓋を閉じようとしなかった。
かれは、複雑な気持ちで、墓に遺体が納められる様子を見守っていた。
──惜しまれて死ぬ、その人間の人生は、どんなものだったのだろう。自分が死ぬときはどうなるのだろう──かれは考えた。
きっと、何者にも知られず、どこかの窖の中で、朽ち果てていくだけだろう。孤独に、誰にも看取られずに、死んでいくのだ。
そこには、何も残らない。自分という存在が生きた証も何も無く、ただただ、無に帰すだけなのだ。
それは、避けようのないことだ。
何しろ、自分は醜い怪物なのだから。人の脳髄を食らう怪物なのだから。
自分は、誰かに死を看取ってもらいたいのだろうか。
自身に問いかけても、答えは出なかった。
かれが目覚めると、日はとっぷりと暮れていた。
寝床から這い出ると頬がひんやりと冷たかった。
かれは自分の頬が少し湿っていることに気が付いた。
何だ。これは、いったい、何だ。
何故頬が濡れているのか。
不思議に思いながらも、かれは夢に見た墓を暴きに丘へと赴くことにした。
道すがら、夢の内容を何度も何度も反芻していた。
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