野狗子 ③

 轟音でかれは目覚めた。かれはそれを雷の音だと思った。

 あなぐらから顔を出し、空を見上げる。

 しかし、空には雲一つない。

 晴れ渡っている。

 かれは首を傾げた。

 ──では、この音は何だ。

 かれはそのまま処を這い出し、近くの村が一望できる場所に向かった。音には馬のいななきや人間の叫び声が混じっている。これは雷の音ではない。

 丘を登りきり、やぶから顔を出すと、村のまわりに大勢の人間がいた。ずいぶんと多い。何百という数の人間。

 人々は、お互いに殺し合いをしていた。いや、村の人間が、馬に乗った人間に一方的に殺されていると言った方が正しそうだ。

 ようやくかれは思い至った。

 ──ああ、戦だ──。

 ついに戦が始まったのだ。ようやくこのときが来たのだ。

 かれは打ち震えた。

 ──やっと、やっとだ──。

 かれは、戦が始まることをずいぶんと前から知っていた。夢で見たのだ。

 かれは、何故かわからぬが、人の死を夢に見る。

 その力のおかげで、今までも問題なく食い物にありついてこれた。

 ──やっと、脳髄が食える──。

 かれは、人の脳髄を食らう化け物であった。

 野狗子。

 それがかれの名だ。

 この村を襲った人間たちは、近々、この先の荒野で戦をする。戦はたくさんの亡骸を残す。少し待っていれば、たくさんの食い物にありつける。

 だから、かれはここに巣を作ったのだ。

 かれは、心躍らせながら巣に戻った。明日の夜中には、久しぶりに腹いっぱい人の脳髄を味わうことができると期待した。

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