汁物 『野狗子』

野狗子 ①


 ──野狗子──

 頭は獣、身体は人の怪物。夜間、戦場に現れ、亡骸の頭に齧り付き脳みそをすする。

                                聊齋志異


 どういった巡り会わせであろうか。劉郁は感慨にふける。

 慣れた山で薬草を探していて道に迷うとは、長年薬屋を生業にしている者として恥ずかしい限りだが、息も絶え絶えたどり着いたこの霊廟で、食い物と酒にありつけた。それもこれも、全てこの道士のおかげだ。この道士との出会いは、天命だったのではないかとさえ思えてしまう。

 道士の話は奇怪にして不可思議であった。

 怪異、神仙、妖怪。人ならぬ者の話ばかりである。酔ってでもいなければ、とうてい信じられぬような与太話の数々。だが、なぜか気が付けば聴き入っている。話の世界に没入しているのだ。自分もそちら側の住人なのではないか、とそんな妄想さえ抱いてしまうほどに。

 酒に脳髄が麻痺しているためか、はたまた、道士の語りが巧みであるためか。

 劉郁は、杯の縁に唇を持っていきながら、ため息を漏らした。

 何故、おれはこの奇怪な話に聞き入っているのだろう。化物話が紡ぎだされる道士の口から、目をそらすことができぬのだろう。

「はは、はじめこそ不気味だ何だと言っておったのに、なかなかどうして。わしの話が訊きたくてたまらんようじゃの」

 道士は、話好きらしく、まだまだ話すこと吝かではないという様子である。

 だが、そう言う道士の顔は真っ赤であった。多少、舌の回りも悪くなってきているように見受けられる。

「おお、そうだ。先ほどの犬の話に続けて、もう一つ、犬の話をしようではないか」

 道士は、杯に残り少なくなった酒を嘗めた。


──頭が犬のようで身体が人の形をした妖怪の話がある──。


 音を立てて、焚き火がはぜた。

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