妖犬 ②


 その頃は、紛乱が次々と勃発し、国中が酷く荒廃していた時代だった。政治は乱れ、官吏は横暴になり、多くの人民が貧窮に喘いでいた。

 世相が乱れれば、天の運行も乱れるのであろう。長く日照りが続き、国中が大飢饉に見舞われていたのだ。市街の惨状は、それは筆舌し難い、悲惨なものだった。

 中でも酷かったのは獄中だ。

 生きている者のほとんどがその日を食いつなぐことに必死な時勢でのこと。罪人に対してまともな食事が与えられるはずもない。

 かれらに与えられるのは、わずかな水分のみ。それ以外に、かれらに食料が与えられることはなかった。

 そうなると、罪人たちが生きのびるために行うことは、ただひとつだ。

 その場に居合わせたもので、衰弱した者、年老いた者は、不運だった。真っ先に狙われるのだから。

 ひと月もせぬうちに、あれほど罪人でひしめいていた牢の中は、数名の男を残すのみになっていた。

 獲物がいなくなり、しばらく残った者たちの間で睨み合いが続いた。

 しかし、それもすぐに解決する。

 新しく投獄される者があったためだ。

 時勢を反映してか、投獄されてくる者は、後を絶たなかった。事情を知らずに投獄されてくる新顔たちは、かれらにとって、格好の餌食だった。

 罪人たちは結託し、新顔が投獄されるたびに、全員で囲い込み、襲った。

 多くの新顔は、成すすべもなくかれらの餌食となった。

 その、地獄のような日々は、一年あまりにも及んだ。

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