肉料理 『妖犬』

妖犬 ①


──蠱毒──

古代中国において用いられた呪術を言う。動物を使うもので、中国華南の少数民族の間で受け継がれている。蠱道こどう蠱術こじゅつ巫蠱ふこなどともいう。



「肉を喰うたびに、思い出す話がある──」

 静かだった廟の中に道士の低い声が響いた。

 劉郁は声にいざなわれるように道士を見た。道士は薄い笑みを浮かべていた。劉郁が腹を満たし、座が和んだと見て切り出したのであろう。その語り口は軽妙であった。

「それは、どのような話でございますか」

 劉郁は残っていた肉のかけらを口に運びながら、訊き返した。

 道士は劉郁が肉を咀嚼するのを面白そうに眺めていた。

「黒い犬の話だ」

「犬」

 劉郁が繰り返す。

「さよう。恐ろしい犬の話だ」

 道士の顔からは、笑みが失われていた。その双眸は、焚き火の明かりを怪しく照らし返していた。

「──これは何百年も昔の話だ──」

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