第9話

 それからあたしは更に努力した。

 もう一日中バレーのことを考えていた。

 苦手だったことをできるようにしたり、敵チームのビデオを見て研究したり、後輩に積極的に教えてあげたり。とにかくあたしにできることは全部した。

 吉良君との約束を守るために必死だった。

 そんな時。

 二年生の終わり。部活の帰りにあたしは人生で初めて男子から告白された。

「ずっと好きでした。付き合ってください……っ!」

 緊張しながらも気持ちがよくこもった言葉にあたしはドキドキしていた。

 いつも同じ体育館で練習しているバスケ部の同級生だ。

 同じクラスになったこともない、あんまり話したことのない人だった。

「あ……、えっと………………」

 あたしは口をもごもごと動かしながらパニックになっていた。

 なんであたしなんかが告白されるんだろ? ミカとかユイの方がよっぽど可愛いのに。

 なにより今のあたしはバレーで頭がいっぱいだ。

「…………ご、ごめんなさい……。その、好きな人がいるから……」

 自分で言って驚いた。

 あたし、好きな人いたんだ。

 彼は悔しそうな顔を上げ、尋ねた。

「それって誰?」

「……え?」

 誰だろうって思うと同時に吉良君の顔が浮んできた。

 顔が熱くなって心臓が跳ねる。

 そこで初めて気付いた。

 あたし、吉良君のことが好きだったんだ。

 今までずっとこの気持ちは憧れだと思っていた。

 自分よりすごい人だって尊敬してると思ってた。

 でも違った。そうやってなるべく意識しないようにしてたんだ。

 自分が恋してるって分かると、なにかを失いそうな気がしたから。

 吉良君からもらったやる気とか、話す時の心地よい距離感とか、気軽に連絡できることとか。

 そういうものを失うのが怖かったんだ。

 あたしの顔を見ると男の子は苦笑いして謝った。

「ごめん。言いたくないよね。でも気持ちが伝えられてよかった。大木って頑張ってるからさ。見てると俺も頑張ろうって思うんだよね。それにいっつも笑ってるし」

 男の子は「じゃあね」と言うと去っていった。

 あたしは自分の心を覗かれたみたいで益々恥ずかしくなり、その場で手で顔を覆って屈んだ。

「うう……。恥ずかしい………………」

 そんな時にも吉良君の顔が浮んできて、さっきの子に申し訳ないのと幸せなのとでなんだかもう訳が分からなくなっていた。

 なんでかはよく分からないけど、その日はいっぱいご飯食べて、早く寝た。

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