第8話
そんなある日。
周辺の高校が集まる大会で久しぶりに吉良君と出会った。
「よ。久しぶり。元気そうだな」
吉良君はいつも通りの明るい笑みを浮かべて話しかけてくる。
「いや。それはこっちの台詞だよ。怪我はもういいの?」
「うん。全治三ヶ月だったけど二ヶ月ちょいで治した。いやあ暇だったからめちゃくちゃ食べて寝てたら身長伸びてさ。計ったら195センチになってたよ。やばくね?」
「いや、うん。やばい。あたしなんて高校入ってからほとんど伸びてないし」
「だよな。小さくなったもんな」
吉良君はからかうように身長を比べるけど、べつに小さくはなってない。
今でも一応183あるし。男子からはデカ女って陰口言われてる。
だけど普段小さいなんて言われることがないから嬉しかった。
久しぶりに見た吉良君は前よりがっしりしていて、筋肉もすごい。
がっしり系が好きなあたしは自然と目線を送っちゃう。
いつもより距離感が近いせいかドキドキしていると、吉良君があたしの鞄を指差した。
「あれ? 前もそんなの付けてたっけ?」
「あ。これ? ううん。この前の時は付けてなかった。部活のみんなでマスコット作ったんだ」
「へえ」
吉良君は興味深そうにマスコットを見つめた。なんだか自分が見られてるみたいで恥ずかしい。
「ん? なんかこれ大木に似てね? 目のとことかさ」
バレたか。
あたしは恥ずかしくなりながらも頷いた。
「まあ、あたしがモデルらしいから…………」
「ふうん。愛されてんなー。でもいいよな。うちもあるけどこんな感じじゃないし。ほら、ユニフォームのストラップ。これはマネが作ったのだけど」
そう言って吉良君はスマホを取りだした。そこには吉良君の背番号が書かれた小さなユニフォームがぶら下がってる。
「あ。可愛いじゃん」
「そうか? じゃあ交換する?」
「え? いいの? なくしたらマネージャーさんに怒られない?」
「怒られるよ。俺もう二回なくしてるから。でもだからこそ大丈夫かなって。ほら言うだろ? 二度あることは三度あるって」
「いや、それは使い方おかしいでしょ」
あたしがつっこむと吉良君は笑った。
「まあ、だからさ。怒られはするけどまた作ってくれるから大丈夫だって。あ。でもそっちが大丈夫じゃないか?」
「ううん。あたし同じの二個持ってるから平気」
「自分のぬいぐるみ二個って……。大木ってナルシストだったりする?」
吉良君が苦笑すると、あたしは必死に否定した。
「い、いや違うし。後輩が作ってくれただけだから!」
「そっか。じゃあちょうどいいや。交換しようぜ」
「い、いいけど」
あたし達は互いにマスコットとストラップを交換した。
交換してからなんだか恥ずかしくなった。
吉良君の番号が書かれたストラップを持ってるってことと、あたしの人形を吉良君が持ってるってことにドキドキする。
なんだかこれって……。
あたしが顔を赤くしてると、後ろからチームメイトが声をかけてきた。
「マキー。宇部セン呼んでるよ~」
「う、うん。ちょっと待ってー」
あたしが焦って戻ろうとすると、吉良君は言った。
「なあ。約束しようぜ」
「え?」
あたしはぽかんとして振り向いた。
そこには試合場で見る、真剣な顔の吉良君がいた。
あたしは緊張しながら聞き返す。
「や、約束って?」
「インターハイで会おう」
その言葉には確かな決意が込められていた。
あたしなんかよりもよっぽどしっかりとした意志が感じられる。
「俺、来年は絶対出て優勝するつもりだから。お前は?」
「あ、あたしも出たいと思ってるけど……」
「じゃあ出ろよ。その気で練習しろ。そしたら出られるって。お前、才能あるからさ」
才能が? あたしに? そりゃあデカイけど、それだけだよ?
あたしは急に褒められて動揺していた。
「で、でも男子と女子じゃインハイの日程違うよ?」
「俺んとこ早めに現地入りするからそん時会えるだろ。こっそり応援しに行くよ」
急な話にあたしが顔を赤くして困惑してると、また友達から名前を呼ばれた。
「マキー?」
「今行くー」
あたしは吉良君に向き直すと急ぎながら告げた。
「わ、分かった。約束ね。あたしも頑張るから」
「おう。頑張れ。あとさ。インターハイで会ったら言いたいことがあるから」
「え? あ、うん」
「そんだけ。じゃあな」
吉良君はニカッと笑って走り去っていった。
あたしはぽかんとして、最後には友達に手を引っ張られて先生のとこまで連れてかれた。
先生から注意されてる間も、友達から吉良君との関係をからかわれてる間も、あたしはずっと同じことを考えてた。
言いたいことって、なんだろう?
変な妄想が始まると顔が熱くなって、慌ててトイレに逃げ込んだ。
鏡を見るとあたしの顔は真っ赤だった。
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