第6話
五月中旬。
インターハイの予選が近づくこの季節。
雨が増えてきて鬱陶しいけど、うちのチームは好調をキープしていた。
このまま行けば全国にも行けるって時、吉良君が怪我をした。
いや、したらしい。あたしはそれを男子の会話から聞いて知った。
隣の県で有名な学校のエースが怪我をしたらしいって。
心配だった。本当かどうかすごく気になった。
でも吉良君からはなんのメッセージもなかった。
あたしは一週間悩んで、ようやく一言だけ送れた。
『大丈夫?』
緊張した。もしかしたらすごく無責任な聞き方かもしれない。
怒ってたらどうしよう?
そう思って何度も削除しようと思った。でも消す前に返信が来た。
『大丈夫、ではないかな』
怪我の内容を聞くと全治三ヶ月らしい。
それはつまり今年のインターハイには間に合わないってことだ。
吉良君は練習を頑張り過ぎて怪我をしてしまったらしく、そのことをすごく後悔していた。
『今までたくさん人に迷惑かけてきたけど、いなくなることでかける迷惑が一番きつい』
そのメッセージを見てあたしはびっくりした。
吉良君は弱音なんて吐かない強い人だと思っていたからだ。
だけど違った。吉良君はあたしと同じ普通の高校二年生だった。
悲しいこともあるし、つらいこともあるんだ。
でもそういう普通の気持ちを持ってることが『人よりできる』ってことの前で霞んでしまっていた。
特別な人だから、あたしとは違う悩みを持っているんだろうって勝手に想像してたんだ。
あたしは申し訳なく思う反面、嬉しくもあった。彼の気持ちが理解できることに幸せを感じた。
だからあたしは普通の友達に言うようなメッセージを送った。
『あんまり落ち込んでると周りが気にするよ? 怪我をしたならしたで、今できることをしないとね』
ちょっと偉そうかなとは思ったけど、返信はポジティブだった。
『……そうだよな。俺に気を遣わせてチームが負けるのが一番ダメだよな。うん。顔上げるわ。ありがとな』
吉良君を勇気づけられてよかった。
それに加えて『ありがとな』ってメッセージがすごく嬉しかった。
あたしは彼の為になれたんだ。そのことがなによりも自信になった。
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