第4話
それからなにかあるたびに吉良君からメッセージが届いた。
くだらない、取り留めのない内容にあたしもまたその時の気分で返信した。
そうこうしている内に三年の先輩は引退し、練習はどんどん厳しくなっていく。
夏休みもなければクリスマスもない。お正月はあったけど、それだけだ。
冬休みもほとんどバレー漬けだった。
でもそれほどしんどくもなかった。吉良君も同じような生活だったからだ。
いや、多分吉良君の方が大変だと思う。彼の高校は厳しい指導で有名だから。
あっちは全国の常連で、優勝したこともある強豪校。
うちは県じゃそこそこ強くて、たまに全国に行けるってレベル。
あっちの目標が全国制覇なら、こっちの目標は全国出場だった。
しかも吉良君はすごく期待されてる。一度大会でアップするところを見てたけど、吉良君は集中してないってコーチに怒られてた。
うちのバレー部も怒られるけど、アップの時に怒られることはない。
きっとあっちのコーチも吉良君がすごい逸材だって分かってるんだ。だからしっかり伸ばさないとって責任を感じているのかもしれない。
実際彼は先輩達に混ざってレギュラーでやってるみたいだし。
あたしはまだベンチに入るかどうかって感じ。たまには試合に出してくれるけど、一セットで交代とかだ。
コーチや先輩からは「体はでかいのに気が小さい」って苦笑いしながら言われる。
そうは言われても先輩に囲まれると萎縮しちゃう。思いっきりプレーができなくなる。
その点吉良君は違った。
先輩相手にも堂々と意見を言っていた。試合中にセッターと言い合いになってた時もある。
「先輩! もうちょいガッと来て下さいよ! ガッと」
「ああ? お前それで打てんだな?」
「打ちます! だから遠慮しないでいいっすよ」
「今年の一年は生意気だなー。おい」
先輩はやれやれって言う感じで首を振った。
あたしはそれを二階席から冷や冷やしながら見ていた。
でも試合に勝って終われば二人共笑顔でふざけていてホッとした。
吉良君はバレーが上手くて心も強い。
今年も全国の試合で活躍してた。二回戦で負けちゃったけど。それでもあたしに比べれば数倍すごい。
あたしが欲しいものを全部持っていた。
あたしのなりたいあたしが男の子の姿でそこにいるみたいだ。
憧れた。そしてなによりあたしもあんな風になりたいと思った。
だからその為に必死に練習した。
吉良君のことを思うと、練習もつらくはなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます