第3話

 それからも大会で一緒になるたびに吉良君は話しかけてきた。

「大木ってデカイからどこにいても見つけられるよな」

 吉良君は無邪気に笑うけど、あたしは引きつった愛想笑いを浮かべるだけだ。

 こいつ。乙女心ってのを分かってないな。こんなデカイ女でも一応は女の子なんだよ。

 だからあんまデカイデカイ言うな。デカイってのは可愛いと最も離れた単語なんだから。

「……吉良君もすぐに分かるよねー。デカイし、うるさいから」

「え? そう? あ、でも友達とかと集まると集合場所にされたりするわ」

「あ。それあたしも。マキに集合~って」

 あたしが頷くと吉良君は笑った。あたしもつられて笑っちゃった。

「マキって言うんだな」

「あれ? 言わなかったっけ? 大木真紀。友達はオキマキとか呼んでる。吉良君は和人だよね」

「あ。知ってたんだ。なんで?」

「だって雑誌とかに載ってるんだもん」

「あー。そっか。雑誌か。いや~、有名人はつらいね~」

 吉良君はわざとらしくかぶりを振った。なんでか少し悔しそうだ。

 有名人って言っても高校バレーの関係者しか知らないけどね。うちの親も知らないし。

 でもその内Vリーグの選手とかになって、日本代表に選ばれたりしたら変わってくるかも。

 そしたらあたしはテレビの前で応援しよう。ジャニーズのついでに。

「あ。そうだ。LINE交換しようぜ」

「え? あ、うん」

 吉良君が周りの目を気にせずにスマホを出したからあたしはびっくりした。

 うちの学校は授業中や部活の時にスマホを触ってたら没収される。

 交換してから思った。部活以外で男の子と連絡先を交換するのなんて初めてだった。

 ちょっと嬉しくて、でも恥ずかしい。

 そのあと少し話して別れたあと、あたしの意識はずっとスマホに注がれていた。

 だけど中々メッセージは来ない。

 晩ご飯の時もスマホをチラチラ見てたらお母さんに怒られるし。お風呂の中にも持ってたら危うく湯船に落としそうになるし。トイレにまで持ち込んだ時はさすがに馬鹿らしくなるし。

 とにかく全然気が休まらなかった。

 で、ようやく来たのは寝る少し前。

 肝心の内容はと言うと

『Cクイックが全然合わねえ』

 だった。

 知るか。

 返せ。あたしの時間を返せ。

 あたしはむっとして『おやすみ』とだけ返信して枕に突っ伏した。

 やっぱり勘違いだった。浮かれていたあたしが馬鹿みたいだ。

 恥ずかしくなって、悔しくなって、でもなんだか嬉しくって。

 自然と笑みがこぼれた。

 その日はぐっすりと眠れた。

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