side 0 EP-03




「艦長!前方距離10000、深度2500に艦影!数8!」

「ふん、海人共か?下の連中に伝えろ、さっさと殲滅しろとな」

「はっ!」

「つまらんなぁ……実につまらん。わざわざ私が出張ってきてやったというのに実につまらん」


 大海原の只中に浮かぶその艦の艦橋で彼女は立ち上る水柱と黒煙を眺め、本当につまらなさそうに呟き煙草に火をつけた。


 彼女の名はアリア。西側諸国でその名を知らぬ者はいないとまで言われる名将であり、"海人"からは悪魔と恐れられる人物。

 夕陽に映える美しい金髪と端正な顔立ちに冷たく光る赤眼をして"赤の女王"フロイライン・アリアと呼ばれている。


「うん?」

「どうかされましたか?艦長」

「……何だ?この感じ……何か……私を……呼んでいるのか?」

「艦長?」


 艦橋からは見渡す限りの海が広がっている。地平線に沈む夕陽が海面を赤く染めそこには何もないように見える。


「艦長?」

「……くっ……何だ?そこに……何かあるというのか?」

「もしや赤の共鳴ですか!?艦長!」

「ああ……微速前進、前方7時の方角だ……ボートを降ろせ……数はひとり……いや、2人か」


 アリアは頭の中に鳴り響く共鳴を無理やり黙らせ艦橋を後にする。

 赤の共鳴……かつてまだ陸が海に沈む前の時代、科学による遺伝子操作で産まれた赤眼の一族に備わったとされる所謂一族間のテレパシーの様なもの。

 陸が沈み、その世界は海の物となった今でも僅かに生きながらえた赤眼の一族はある程度の純血を保ち、世界にその根を張り巡らせている。


 しかしこんな海の真ん中でよもや同じ一族の者と巡り合うとは、それもどうやらその者は漂流か遭難をしているようだ。


 頭の中で鳴り止まない警鐘に端正な眉をひそませ彼女はカツカツと階段を降りていった。



 ◇◇◇



「……っっ!?」


 俺は激しい頭痛で目を覚ました。

 ガンガンと鳴り響くような頭痛で身を起こすことさえ出来ない。

 確か……俺はカナタと一緒に海に投げ出されて……ここはどこだ?カナタは?

 考えようとしてもあまりの頭痛に考えが纏まらない。


「くっ!な、なんなん……だ?これは」

「目が覚めたようだな、少年」


 不意に声をかけられ重い頭を何とかそちらに向けるとそこには赤い髪の女性が俺を見下ろしていた。


「ふむ、間違いないようだな」

「な、何が……?うぐっ……」

「やれやれ、その様子だと共鳴は初めてのようだな」


 女性は肩を竦めてニヤリと笑い俺の顔を両手で掴んだ。


「!?」

「どうだ?治っただろう」


 俺の顔を両手で挟んだその女性の端正な顔立ちと美しさに一瞬息をのんだが。


「カナタ!カナタは!」

「ん?なんだ私を前にして他の女な話とは……連れの女なら隣のベッドだが」

「カナタ!」


 あちこち痛む体を無理に動かして俺は仕切られたカーテンを開ける。

 ベッドの上には見慣れたカナタが寝息をたてていた。

 それを見て俺は安堵のため息と共に全身の力が抜けていく。


「よかった……カナタ……」

「やれやれ、感謝の言葉のひとつもなしかい?カタミ キョウ」

「いや、すまなかった!ありがとう!本当に……!?あんた今なんで俺の名前を?」

「くくくっ、そんなに警戒しなくても取って食やしないさ。名前が分かるのが不思議か?だがカタミ キョウ、君も私の名が分かるはずだが?」

「な、何……?あんたの名前なんか俺は……!?」


 何故だ?……俺はこの女性を知っている……アリア、フロイライン・アリア。

 西側の艦隊を率いる提督であり赤の……


「どうやらその顔は分かったみたいだね、じゃあここからは話し合いだ」

「俺にどうしろと?」

「あんた、私の下につかないかい?」


 これが俺とアリアとの出会いでこの出会いが俺の運命を変えることなどこの時の俺は知る由もなかった。



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