side 0 EP-02
見渡す限りの蒼を征く艦の甲板で俺はジッとその蒼を眺めていた。
鉄で作られたこの巨大な艦も、目の前に果てしなく広がる蒼もどこか現実離れしていて、こうしてこの場にいる自分が本当に自分なのかさえも分からなくなってくる。
「キョウ!ここにいたんだ?」
「カナタか……」
甲板へ出る為のハッチを開けて、よいしょっと上がってくるカナタの手を取り上へと引き上げる。
「うわぁ〜すごいね!これが本物の"海"なんだね!」
「ああ……」
「……どうかした?」
「……なぁカナタ、お前はこれからどうするんだ?"海の民"の街とやらに住むのか?」
「そう言うキョウはどうするの?」
「俺か?俺は……」
隣に並んで海を眺めるカナタに一瞬だけ視線をやって考える。
俺はどうしたいのだろう?
ソナタの元を離れてからというもの俺はずっと考えていた。
幼い頃からアイツの背中ばかりを追いかけてきた。何をしても、どんなに頑張って努力しても俺の前には必ずアイツの……あの大きな背中があった。
「私はね……私はキョウの行くとこについてくよ。その覚悟を決めて兄さんから離れたんだから」
「そうか……」
この広い海でアイツは今も前へ前へと進んでいる。俺がこうして無作為な一日を過ごしている間もアイツは歩き続けているだろう。
「俺が……もし俺がアイツみたいに艦に乗りたいって言ったらお前はどうする?」
「……バカなの?キョウは」
「な、俺は真剣にっ」
「さっき言ったでしょ?私はキョウの行くとこについて行くって。キョウがどんな選択をしても私は……側にいるよ」
「カナタ……」
そして俺はこの日からこの艦で船乗りの見習いのような事をすることにした。
最初のうちはかなりキツかったが、それも次第に慣れいき何より新しい事に挑戦している実感とそれが日に日に自分の身についていくことが楽しくて堪らなかった。
艦長のリツはそんな俺に様々なことを教えてくれた。
"海の民"の街までは途中に補給を挟んで二ヶ月以上はかかるらしく、リツはその間にソナーの使い方や操舵の仕方から……艦長としての心得や海に生きる人間としての在り方など本当に事細かく教えてくれた。
ソナタとはまた違った意味でリツの背中は俺にとってはデカすぎる背中だった。
そしてあの日……
「艦長!!護衛艦大破!!もうもちません!!」
「くっ!!何とか保たせろ!!」
「左舷より魚雷来ますっ!!距離7000!」
「回頭45度!!
補給地を出てしばらくの後、俺達は突如として"海人"の艦隊の襲撃を受けた。
多勢に無勢、周囲を囲まれた俺達はまず潜水艦を沈められ護衛艦も俺の目の前で燃え盛る炎の中に朽ち果てようとしていた。
「キョウ!カナタ!お前らは脱出しろ!ボートを降す!補給地に助けを求めるんだ!」
「何を!何を言ってるんですか!俺達だけ逃げれるわけないだろっ!」
魚雷の直撃を受け軋み傾き始めた艦橋でリツは俺とカナタを呼びそう告げた。
「いいか、よく聞け。キョウ、お前は優秀だ。俺が見てきた中でも飛び抜けて……そうだな、お前の嫌いなアイツよりもだ」
「なっ!?何を……」
「黙って聞け!この艦はもう保たないだろう……だからな……キョウ、お前は生き延びて……お前の艦を持て!俺達の仇をいつか取ってくれ!」
「リツ!ならあんたも一緒に来いよっ!俺はまだあんたに……」
「ははは、何を言ってやがる?この艦は俺の艦だ!俺が仲間を置いて逃げれるわけないだろ?」
「そんなこと知るかよ!死んじまったら何にもなんねーだろうが!」
力づくでもと思いリツに詰めよったが……俺はその顔を見てそれ以上何も出来なかった。
ギシギシと傾き始めた艦橋を後にして俺とカナタはボートを降して沈みゆく艦から脱出した。
あんな……あんな顔で笑われたら何にも言えないじゃないか……
俺はカナタをしっかりと抱きしめて沈んでいく艦に静かに頭を下げた。
リツ……短い間だったけど、あんたは俺にとって師匠みたいな存在だったよ。
そして腕の中で震えるカナタを見てリツが別れ際に言った言葉を思い出す。
「惚れた女くらいキチッと守ってやれ」
ああ、当然だ。何があっても俺はコイツを守ってやるさ、なんせ……俺が惚れた女なんだからな。
俺が決意を新たにしたその時、急に爆発音が鳴ったかと思うと凄まじい突風が吹付け俺とカナタはボートから弾き飛ばされ海へと放り出された。
「キョウっ!!!」
「カナタ!!!」
俺はそれでも絶対に離すものかとカナタを抱きしめて……海面に叩きつけられそこで意識を失った。
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