episode-21 闇中
「そなた!!そなた!!」
「おう!久しぶりだな!おで!」
「おで!ひさしぶい!」
ドスドスと駆け寄ってきたのは……何だろう?図鑑で見たことのある熊のような……何か。
ソナタより頭二つくらい大きくて、横にも大きい。
そんな何かとソナタは抱き合って再会?を喜んでいる。
「おで、まったた!そなた!まったた!」
「ははは、『待ってた』だな?そうか!まったたか?」
「まったた?またたた?」
犬の様にも見える顔をくしゃっとして喜んでいる何かよくわからない生物……だけどちょっと可愛いかも。
アオはびっくりしたのか私の服の裾を掴んで後ろに隠れている。
「ねえ、ソナタ?あの、えっと……何?」
「ん?ああ、悪い悪い、つい楽しくなっちまった。こいつは"おで"って言って……えーっと……何だ?うん、よくわからん何かだ」
「は?よくわからん何かって……」
「おで!そなた!とーだち!」
「おう!友達な!おで、こいつはミハル、で後ろのちっこいのがアオだ」
「……みあう?あうぉ?」
首をぐるんと回し私とアオを覗き込んで、大きな口をニパッと開ける、多分笑ってるんだろうけど……かぶりつかれそうでちょっと怖い。
「みあう!とーだち!あうぉ!とーだち!」
「う、うん、友達だ……ね?うん」
何だろう?この変な生き物は?人や"海人"とも違うよくわからない何か。
私がそんなことを考えているとソナタがそっと耳打ちしてくる。
「安心しろ、中身はアンドロイドだ」
「えっ!?」
「詳しい話はまた後でな」
悪戯を成功させた様な顔で笑うソナタはそれだけ言っておでと一緒に歩いていく。
「ミハル、何アレ?」
「うん、わかんない」
「わかんナイ?」
「うん」
中身はアンドロイド?
私が今まで会ったことのあるアンドロイドはラナやラキの様な人型だけだった。
かつて暮らしていた我が家にあったようなお掃除ロボットのようなものなんだろうか?でもおではちゃんと喋っていたし、しっかりとした意志のようなものもあるみたいだった。
アオと手を繋いで私はそんなおでとソナタの後をついていった。
◇◇◇
「おではな、廃棄されたアンドロイドを直したものなんだ。メルボンはあーいった一度は廃棄されたり壊れたりしたアンドロイドを直している職人が多くいて結構な数のおでみたいなのがいるんだ」
「え?じゃあ元々はラナやラキみたいだったの?」
海路横の空き地でアオと一緒に遊んでいるおでを眺めながら、あの妙な生き物がラナやラキと同じだったとはちょっと考えにくい。
「さぁな、俺が会ったときはもうあのおでだったし、誰が何を修理したかもわからねーんだ。俺も前にここに来たときが初めてだしな」
「その割にはソナタにすごく懐いてない?」
「そうなんだよな〜あいつ何でか俺の名前も知ってたし……もしかしたら小さい頃に会ってたのかもな」
「ふぅ〜ん、それで頼まれ事はおでの事なの?」
「ああ、親父さんがどうしてもってしつこいからな。おでを艦に乗せてやってくれってな」
「え?艦に?」
「ああ見えておでの操船技術はカクより上なんだぜ、そのあたりも含めて元はかなりのハイスペックなアンドロイドだったんだと思うんだが……なんであーなのかね」
チラッと見たおではアオを肩車してドタドタと走り回っていた。
アオもすっかりおでに懐いたみたいで、ついさっきまで私の後に隠れていたのがウソみたいだ。
「ミハル〜!おで、タノシイ!」
「おで!とーだち!」
「ふふっ、そうね」
その後すっかり仲良くなったおでを連れてサンダルフォンへと戻ると今度はカクさんやマコさんにスズナちゃん姉妹ともひとしきり遊んでいた。
カクさんとマコさんは以前ソナタと共にここを訪れていたらしくおでのことはよく知っているみたいで楽しそうに話していた。
ひとつ不思議だったのはセナがおでとジッと見つめ合って何も言わずに握手をしていたことだ。
同じアンドロイド同士何か通じるものがあったのだろうか?
セナに聞いても笑って教えてくれず、まぁそういうことなのだろうと納得することにした。
おでをみんなの元に送り届けた後、私とソナタは親父さんのところへ戻りサンダルフォンの整備を改めて頼む。
「じゃあ親父さん!頼んだぜ!」
「おう!任せときやがれ!坊主もおでのことたのんだぜ!」
「ああ!」
こうして私達はサンダルフォンのメンテナンスが終わるまで束の間の休暇を楽しんだ。
二日後、おでを迎えたサンダルフォンはメルボンの中央海路からフォールキャニオンへと続く渓谷へと進んでいた。
両脇を切り立った氷山で覆われた海路は海中深くまで凍っているらしく海中を進むことは出来ない。
フォールキャニオンに続く海路は三本しかなく、そのどれもがメルボンの管理下に置かれている。
ロドニーとはまた違った意味でこの海に覆われた世界で独自の位置を保っている街だ。
ソナタが言うにはそういった完全に独立しているような都市や街はいくつかあるらしく、機会があれば行ってみたいと思った。
海路の幅は決して広くなくカクさんとおでが注意深く操舵して海路を進んでいく。
ソナタが言っていたようにおでの操舵技術は驚く程に高く尚且つ正確でギリギリの幅でもぶつける事なくサンダルフォンは海路を進むことが出来た。
「ここから海路で1日くらいで目的地に到着だ」
「長旅でしたね、艦長」
「お疲れっス」
フォールキャニオン……アンドロイドが眠る街。
あの日帰ってこなかったラナがもしも生きているならフォールキャニオンから受信できる衛星にあるというデータベースから何かわかるかもしれない。
もし、もしもラナがもうこの世にいないなら……私はどうするのだろう?
全く違う身体にラナの記憶だけを書き写した"それ"を私はラナと呼べるだろうか?
元々はラナの代わりになるアンドロイドを求めての旅だったけど今はロドニーで加わったセナがいる。
もしもラナがもういないのなら……
しかしどうなのだろうか、北への航路は『LA型』にのみ託されているとソナタが言っていた。
結局のところ北へ向かうにはラナ、若しくはラキの力が必要で……ラキはアズライルから動くことは出来ないからやっぱりラナを……
部屋のベッドの上で考えれば考えるほど分からなくなる頭を振り真っ暗な天井を見つめる。
「決めるのはソナタなんだけどね……」
『あなたはそれでいいの?』
「いいも何も……』
『ラナが戻れば彼を盗られるわよ?』
「〜〜っっ!?」
そんなことないっ!ソナタは私の……
ラナだってわかってるはず!
「俺な……ラナに告白されたんだ」
あの時、ソナタはどんな顔をしてた?
笑ってた?喜んでた?
悲しんでた?哀れんでた?
怒ってた?蔑んでた?
黒い私は嘲るような笑いと共に私の奥深くへと姿を消した。
私に嫉妬という感情だけを残して。
悠久の時を生きるラナにしてみれば私やソナタの一生など瞬きをする間みたいなものだっただろう。
私が醜く老いてもラナはずっと出会ったままの姿でソナタな前にいることが出来る。
それは、ヒトにとって何と理想的なものだろうか。
「…………いないほうが……」
暗い部屋の中で呟いた声は、自分でも驚くほどに低く昏く、そして闇を孕んでいた。
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