episode-18 休暇



「艦長!前方に障害物があるっス!おそらく陸地だと思われますっス」

「陸地?こんなところにか?……いや、可能性はある……か」

「可能性はあるの?」

「ああ、この辺りは暗礁が多くてな、小さいながらも結構な数の陸地が点在しているんだ」


 あの戦いの後、私達はそのままロドニーを離れた。

 多くの犠牲者と戦力を失ったロドニーはしばらくは復興に追われることになる。

 そんな時に余所者に構っていられるほど余裕はないだろうと判断したソナタがアルさんと話して決めたことだ。


 セナは引き続きサンダルフォンに乗ることとなり正式にサンダルフォンの乗組員となった。

 かつてはラナが使っていた部屋をそのまま使うことになり今はこれもラナ同様にブリッジの上にある制御室に篭っている。


 現在サンダルフォンは次の街を目指して南下の最中にある。

 この辺りはソナタが言うように小さいながらも陸地が点在しておりソナーにもそれなりに反応がありサンダルフォンはその間を縫うようにして航行を続けている。


「気晴らしに上がってみるか?」

「いいっスね!いいっス!」

「どうだ?ミハル?」

「うん!私も見てみたい!」

「よし!これより本艦は海面に出る!一応周囲を警戒しておけ!」

「「「了解!」」」


 浮上したサンダルフォンから見えたのは青々とした木が生い茂る小さな島だった。

 大きさはソナーで見る限りではそれほど大きくなく、歩いて回れる程度の大きさてわもちろん誰も住んでいる気配はない。



「いやっほ〜う!久しぶりの陸地っス!」

「本当の意味での陸地は久しぶりですね、艦長」

「ああ、そうだな。どれくらいぶりだろうな」

「トキヨに行って以来かなぁ〜ねぇお姉ちゃん」

「そうね、懐かしわね」


 小さいながらもサンダルフォンの乗組員が余裕で全員ゆっくり出来る広さはあるわけで、久しぶりの陸地ともあり緊急時のための何人かを残してみんな降りてきている。


 整備士のイシイさん以下整備士の人達は嬉しそうに生い茂る木々を眺めている。

 食堂のおばちゃんことハナさんはバーベキューをするんだと張り切っていたし、あまり話すことのない機関士のトクナガさんも降りてきていた。


「こうして見ると結構人数いるんだね」

「ああ、そうだな。えっと……今何人だっけ?カク」

「艦長……乗組員の人数くらいは把握して下さい。16人です」

「……だそうだ。ははは」


 やれやれと肩をすくめて苦笑いするカクさん。

 私にしても中々みんなとゆっくり話す機会もなかったので丁度いいかもしれない。


 そう思っているとトクナガさんが話しかけてきた。

「まぁこの艦に乗ってるヤツは大抵退役前の連中ばかりだからなぁ。気ぃ使う必要もねえよ」


「退役前?そうなんですか?」


「なんせソナタの坊主の為にかき集められた連中だから。若えヤツなんざマコの嬢ちゃんとあの2人にあんたくらいだぜ」


 "海の民"の街から私やカナタを迎えに来るために集められたらしく一時は退役していた人もいるそうだ。

 マコさんとカクさんも結婚を機に一線を退くつもりだったそうだしスズナちゃん姉妹もソナタが陸に上がっている時は艦を降りていたと聞いた。


「それが今じゃあの北への航路にって話じゃねーか。わははは、長生きはしてみるもんだな!」


「トクナガさんも無理矢理乗ってもらったようなもんだしな。悪かったな」


「がははは!気にすんなって!こんな楽しい思いさせてもらってんだ!文句言ったらバチがあたるってもんよ!」


「そうか?」


「おうよ!」


「ならいいんだがな」


 みんな思い思いに久しぶりの陸地を満喫している。

 先日ロドニーに上がった時とはまた少し違った嬉しさがあるように見える。


 夜になりハナさんが用意してくるたバーベキューをすることになった。

 幸いなことに島に自生していた野菜も食べることが出来るものもありロドニーにて買い込んだ肉もあったことで充実した時間を過ごすことが出来た。


 せっかくだということで島には二日間滞在することにして半分づつ夜を陸で過ごすことにした。



「すごいね……夜空」


「ああ……こうしてゆっくりと空を見上げるなんていつ以来だろうな……」


「ソナタはずっと海の中だったの?」


「ああ、大半はな」


 満天の星空の下、私とソナタは砂浜に寝転がって空を見上げていた。

 少し離れた場所では、まだバーベキューの後の飲み会が続いている。


「ミハル達の前から"海の民"の街に戻ってからずっと海の中だったな」


「どうしてあの時……何も言ってくれなかったの?」


「……それに関しては済まないと思ってる。言い訳にしかならんが俺はお前達を巻きこみたくなかったんだ。まぁそうは言っても結果的に巻き込んでしまったがな……」


「迎えに来たのもそのせい?」


「ああ、陸の連中がカナタを狙ってるって情報が入ったんでな。そっちにはラナがついてたから然程心配はしてなかったんだが……丁度いい頃合いかと思ったからな」


「そっか……」


「ミハルには本当に済まないと思ってる。俺が行かなければ今頃いつも通りにあそこで暮らせていたはずなのにな」


「ううん、私は今が一番充実してるから……これで良かったと思ってるよ。確かにラナやキョウのことは残念だったけど……それでも私は……ソナタの隣にいたいと思ってる。ソナタの力になりたいと思ってるよ」


「……ありがとな」


 波打ち際に打ち上げられる波と涼やかな風が心地よく星空のおかげで真っ暗でもなく、何かを考えているソナタの横顔がはっきりと見えて私はこの人の為に、この人の隣にいる為に出来ることは何でもしようと誓った。

 それは私の心の深いところにいるもうひとりの私も同じことだったようで、嫌な気分にはならなかった。




 二日間はあっという間に過ぎ、私達は再び"海"へと戻る。


「針路12時の方角、暗礁が多いから気をつけろよ!船底に穴でも開いてみろ?一発でお陀仏だからな!」


「「了解」」


 ロドニーから更に南に下ったところにある街、メルボンへと向かうサンダルフォン。

 距離的には1週間前後くらいで、この辺りはさっきソナタが言っていたように暗礁が多いこともあり"海人"も近寄ることはほとんどなく比較的穏やかな航海になると思われた。


 道中であの出会いを果たすまでは。












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