episode-15 西側
海上都市ロドニー
南海に浮かぶその街は全長数十キロにも及び、とてもではないが海に浮かんでいるとは信じがたい。
しかし実際に街は浮かんでおり太古の科学の力を今に残す遺産のひとつとして海に生きるもの達の憧れを集めてやまない。
シェムハザを救助してから10日後、私達はようやくロドニーへと到着することが出来た。
前もってシェムハザのニシキさんが連絡を入れておいてくれたおかげで面倒な手続きもなく思いのほかすんなりと入港の許可がおりた。
ロドニーの街は私が暮らしていた街より遥かに大きくて広く、こうして目の前で見ても海に浮かんでいるとは信じられない。
港もかなりの数がありそれぞれに多くの艦が停泊している。
「こんなに沢山の艦があるんだね」
「そうさ、世界の"海"にはまだまだ俺達の知らない陸地がわんさかあるはずだからな」
世界の陸地の8割が沈んだとはいえ世界にはまだまだ私の知らないことが山のようにあるんだ。
「それにしても色んな艦があるんだね」
「戦艦に空母、駆逐艦に重巡や軽巡、潜水艦、まるで艦の展覧会みたいだな」
「結構同じ艦もあるんだ?」
「そりゃそうだろう、全部が全部一隻だけってわけじゃないからな。まぁサンダルフォン型は珍しいからないかもしれんがな」
「サンダルフォンって珍しいんだ?」
「らしいぞ。"海の民"の街の連中はそう言ってたからな。詳しくは知らん」
確かに停泊している潜水艦を見てもサンダルフォンと同じ型の艦は見当たらない。
ラナの乗っていたドミニオン型はちらほらと見つけることが出来た。
「おっと、もう着くみたいだな。全員久しぶりの陸だぞ!降りる準備しとけよ!」
停泊位置に着き私達は久しぶりの陸へと向かう。
アズライルの上も陸ではあったがこれ程の陸に上がるのは私が街を出てから初めてのことだ。
「ようこそロドニーへ。そしてシェムハザを救助して頂き感謝致します」
タラップを降りるとそこには年配の男性が待っていた。後ろに控えているのは男性の護衛だろうか、屈強そうな男の人が三人周囲を警戒するように構えている。
「なぁに、偶々だ。気にしないでくれ」
「仮にそうだとしても感謝しておりますことに変わりはありません」
「そうか?なら有り難く受け取っておくよ」
ソナタがそう言って男性と握手を交わす。
男性はアルバートと名乗り、このロドニーにある造船所の総督だそうだ。
つまりはこのロドニーという都市のトップなわけだ。
「アルさん!」
「おお、ニシキ!無事でなによりだ!皆も!良かった!本当に良かった!」
アルバートさん、アルはニシキさんに駆け寄り抱きつかんばかりの勢いで身体中を触っている。
乗組員一人一人に声をかけて無事を喜ぶ姿には好感を覚える。
「早速で悪いがアルさん、事情を説明したい。ソナタもいいか?」
「ああ、構わんぞ。但しカクには同席してもらうがな」
「構わないよな?」
「もちろんだとも。場合によっては貴君らに協力を仰ぐかもしれんからな」
「という訳だ!お前ら今日は自由行動だ!久しぶりの陸を楽しんでこい!」
マコさんに機関士長さんやスズナちゃんスズシロさん姉妹をはじめ、サンダルフォンの乗組員達は皆思い思いに港を出て行く。
「ソナタ、私はどうしようか?自由行動って言われてもよく知らないところだし」
「あ〜そっか、そうだよな……コイツも同席構わないか?」
「構いませんよ。いいですよね?アルさん」
「ああ、問題ない」
私達は港に隣接する建物内の部屋へ移動しニシキさんから事情を聞くことになった。
「さて、じゃあ簡単に今回の件について話すんだが……俺達を襲撃したのは"海人"じゃないんだ」
「何?"海人"じゃないのか?」
「ああ、あれは多分……西側の連中だと思う」
「西側……」
西側といえば確かラキが言っていたキョウの艦もそうだったはず。まさかとは思うけどキョウがやったなんてことは……
「西側か……最近連中やたらとちょっかいをかけてきやがるな」
「ここにちょっかいをかけてきているのか?西側は」
「ああ、ここ最近になって急に増えてきててな。どうもかなりの数の艦が発見されたんじゃないかって噂だ」
「それでか……つまりここを足掛かりにフォールキャニオンのアンドロイドを狙ってるわけか」
「おそらくな。中継地としてはここロドニーが一番栄えてるからな、艦を動かすのかって燃料も必要だからな」
フォールキャニオンに向かうには途中にいくつかの街がある。その中でも最大なのがこのロドニーだそうだ。
燃料の補給や物資、食料など大抵の物は揃えられるし港も広く多くの艦を停泊させることも出来る。
「だがここに戦争をふっかけるなんざ自殺行為じゃないか?」
「表立って街を攻撃してはこないからな、ニシキのように哨戒中の艦が襲われたりすることがあるぐらいなんだが、これが続けば悪い噂が立ちかねん」
「安全面でってことか」
ただでさえ海は"海人"に襲われる可能性が高い、皆それを承知で海に出ているがそれでも当然襲われないに越したことはない。
それが"海人"だけではなく他の艦にまで注意を向けなくてはならなくなれば……必然的に訪れる人が減ることになる。
元々ロドニーは治安維持に力を入れてきた都市だ。
それが崩れることは何としてでも避けたいのだろう。
「だが、西側の連中もほいほいとは来れないんじゃないのか?ここら辺りの目ぼしい中継都市はこっち側だろう?」
「私もそれが気になって近隣の海上都市を回ってはみたのだが……やつらの痕跡は発見できなかった」
「となると……俺達の知らない陸があるか……」
ソナタはそこで一区切り置いてしばし考え込む。
私にはソナタの考えていることが何となくわかる気がした。
アズライル級の艦が動いているのではないか?と思っているんじゃないだろうか。
ラキの言っていたカマエルやサマエル級の艦が西側にあり、それがこの近海まで進出してきているとしたら?
そしてそれが何かの理由でキョウにあの艦を渡したとすれば辻褄があう。
「これは……内密にしておいてほしいのだが……」
ソナタはアルさんとニシキさんに向けそう切り出した。
「わかった。ここだけの話として聞こう。いいな?ニシキ」
「ああ」
「西側に……カマエル級かサマエル級の艦がある可能性がある」
「な、なに?そ、それは……本当か?」
「恐らく間違いないと考えて問題ないと俺は思っている」
「……それがここいらまで出向いてきてると?そう言うのか?ソナタ」
「俺はそう考えている」
部屋の中を重たい空気が支配する。
どちらもアズライルに匹敵する大きさで当然ながら積載することの出来る艦もかなりのものだ。
何よりあれだけの大きさともなれば街全体が動いているようなものだ。
ほぼ自給自足出来る移動する艦。
「だがそれほどの大きさならレーダーに映らないのはどういうことだ?」
「……霧の結界?」
「ミハルの想像通りだろう。アズライルに限らずカマエルやサマエルにも同じようなのが搭載されているんだろうよ」
「ソナタの考えが確かなら……戦争になるぞ……」
「西側の連中がどこまで本気かによるがな。もし奴らが、本気で北の果てを目指しているならここやフォールキャニオンは喉から手が出るほど欲しいだろうよ」
ソナタの言葉にアルさんは緊張に顔を怖ばらせ息をのんだ。
「ソナタ……君はまさか……知っているのか?」
「ああ、俺のサンダルフォンには『LA-NA』が乗っていたんだからな」
「ラナ……風の噂に聞くLA型の最高傑作か?」
「残念ながらもういないがな……」
ソナタのその口ぶりに感じるものがあったのか、アルさんもニシキさんもそれについては無理に聞くことはなかった。
「ソナタ、君は北を……その、最果てを目指すつもりなのか?」
「それがあいつとの約束だからな」
「…………」
「まっ、とりあえずはサンダルフォンをどうにかしなきゃならねーから、暫くはお預けだ」
私達はお互いの事情を話せる部分は話し、最悪の事態も想定して警戒にあたることにした。
◇◇◇
部屋を出てマコさんと合流するカクさんと別れた私達は街を歩いていた。
とても海に浮かんでいるとは思えないほど普通の街で言われなければ誰もここが海上だとは思えないだろう。
行き交う人々は皆笑顔に溢れ、子供達が走り回り楽しそうに歓声をあげる。
高台には住宅が立ち並び学校や病院といった施設も充実している。
「実際ソナタはどう思うの?」
「まず間違いないと思ってるぜ」
「そうよね……私もそう思う」
「西側の大陸がどれほどかは知らんが補給も無しにここにたどり着けるとは思えんからな」
「西側の人達は何を考えてるんだろ?同じ人間なのに……」
「さあな、ミハルも身をもって体験しただろ?俺達の相手は"海人"だけじゃねーんだ」
「うん……」
ソナタの言葉にあの日のことが頭をよぎりズキンと頭の奥が鈍く痛む。
きゃっきゃと遊ぶ子供達を眺め、この平和で長閑な風景を壊すようなことにはなってほしくないと思う。
「まぁ、今考えても仕方ねーからな。今日はゆっくりと楽しもうや」
手をとりそう笑いかけてくれる笑顔に頷き、私は愛しい人とのひとときを過ごすことにした。
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