episode-5 遭遇
ブリッジには、ソナタを始め私達3人にラナ、マコさんとカクさん、スズナちゃんとスズナちゃんのお姉さんであるスズシロさんが集まっていた。
「さて、集まってもらったのはちょっと見てもらいたいものがあるからなんだ」
そう言ってソナタは中央の机の上に地図を広げて写真を並べていく。
写真には海上を往く艦が3隻写っている。
「これは……」
「戦艦と護衛の駆逐艦ですね?」
カクさんとスズシロさんが写真を見て難しい顔をする。
スズシロさんは私達より少し年上な感じのふわっとした感じの女性だ。
スズナちゃんとスズシロさんは黒髪に黒目でソナタやカナタと同じ"海の民"だそうだ。
「どこの艦っスか?」
「それがわからんのだ、所属も不明で敵なのか味方なのかもわからん、通信にも返事はない」
「この写真はどこで?」
「この辺りだな」
ソナタが指した場所は今私達がいるところから東に行ったところ。
「で俺たちの街がこの辺りなわけだ」
"海の民"の街は私達が向かう先、西に位置している。
「つまり俺たちは丁度真ん中にいるわけだ、もしこいつらが西に向かっているなら……多分足の差で追いつかれる可能性もある」
「それに街が襲撃される恐れもあるわけっスね」
「ああ、敵なら……な」
「援軍はどうなってるんだ?」
「とりあえずは補給艦も含めて4隻こっちに向かってるそうだが……足の差があるからな……」
「この艦の航路はどうなってるんですか?」
「それなんだがな……」
ソナタの示した航路は強いて言えばあっちにふらふらこっちにふらふらといった定まってないものだった。
ブリッジの中に何とも言い難い空気が流れる。
「なぁちょっといいか?」
そんな中、キョウが手を挙げる。
「あのさ、俺たちは非戦闘員なわけだろ?そんな俺たちをわざわざ危ないところに連れて行くつもりなのか?お前は」
キョウは殊更挑発的に聞こえるようにソナタに向けて言い放つ。
「この艦に乗るって決めたのはお前だろ?何を今更」
「はあ?そうじゃねーよ。お前、俺が言ってる意味がわかんねーのか?」
キョウのいい方にカチンときたようなソナタがキョウに詰め寄りキョウも負けじと距離を詰める。
「何が言いたいんだ?キョウ」
「わかんねーかな?お前さ、陸にカナタを置いといたら危ないからってこっちに呼んだんだろうが?それをドンパチやってるとこに連れてってどーすんだっていっんだよ!」
「仕方ないだろうが?それに俺の側にいるほうが安全だ」
「ははっよく言うぜ、いっぺん死んだヤツがよ!」
「キョウ!てめぇ!」
「ああ?やんのか?」
お互い胸ぐらを掴んで睨み合う。
「キョウも兄さんもやめてよ!友達でしょ!」
2人の間にカナタが割って入り2人を引き離すがお互い睨み合ったまま視線を外さない。
「お仲間の艦が来るんだろうが?ならカナタとミハルだけでも"海の民"の街とやらに送ってやれよ!」
「お前はどうすんだ?」
「俺はお前の見張りだ。また勝手に死なれたらこいつらが悲しむからな」
ソナタとキョウはしばらく睨み合っていたけど視線を外すとそれぞれ元の位置に戻った。
「あの〜説明の続きをお願いするっス」
「ああ、すまない。現状は今言ったとおりだ。とりあえずはこのポイントで味方と合流してから相手さんの出方を見る形になるな」
「最悪の場合も考えておく必要もありますね」
「そうだな、整備室と機関室のオヤジさん方にも説明しとかないとな」
机の上の地図を囲んで合流地点の確認をしてこの場は解散となった。
キョウはすぐにイライラした感じで部屋を出ていきカナタはソナタを気にしていたが後を追って出て行った。
「じゃああたし達も戻るね〜ミハルお姉ちゃん!ばいばい」
スズナちゃんは変わらず屈託のない笑いをしてスズシロさんに車椅子を押されて出て行った。
「カク、合流地点まで自動航行。2人共休めるうちに休んどいてくれ」
「そうだな、そうさせてもらうとしよう。マコ行くぞ」
カクさんに連れられてマコさんもブリッジを出ていく。
「ミハル、お前もちょっと休んでろ。また頼むかもしれないからな」
「……うん」
「ん?どうした?ミハ……」
2人きりになったブリッジで私はもう自分を抑えることは出来なかった。
振り返ってこちらを見たソナタの胸に飛び込んで懐かしいその身体に抱きつく。
「ソナタぁぁ!」
「……ごめんな……」
2年前にソナタを失ったときの悲しみや今こうしてソナタと再会出来た喜びが入り混じって私はソナタの胸で泣きじゃくった。
「寂しかったんだよ!ずっと!ずっと!」
「……ああ」
「もういやだよ!もう離れたくない!」
「ミハル……」
泣きじゃくる私を撫でてくれるソナタ。
「どうして何も言ってくれなかったのよ!」
「すまん……」
「私が……私やカナタがどんな思いだったか!」
「………」
「キョウだって……ラナも……」
「悪かった……」
「もう…あんな思いをするのはイヤなの!……絶対に!」
「悪かったな……ほんと……最低だな俺は」
「ほんと最低だよ!バカっ!」
私を優しく包んでくれるソナタの手の暖かさを感じる。
二度とこの温もりを失いたくはないと心から思う。
少しの間、私とソナタはそうして抱き合っていた。
ブリッジの中はソナーのコーンという音が聞こえるだけ静かでしばらくすると私も落ち着きを取り戻した。
赤い目をして顔を上げた私を見てそっと目の下の涙を拭いてくれ……そっと唇を重ねる。
「なぁミハル……お前はどうするんだ?」
唇を離してソナタは私にこれからのことを尋ねる。
「どうするって、決まってるじゃない。残るわよ、この艦に」
「いいのか?キョウとカナタは多分降りるぞ」
「いいも何ももう離れないって言ったでしょ?それにソナタの隣のほうが安全なんでしょ?」
「あ、ははは、そうだな。そうだったな、ミハルお前は俺が守ってやる!まかせろ」
「ふふっお願いね」
私達はそう笑いあってもう一度唇を重ねた。
先ほどより長く、甘く、そして何故か少しほろ苦い味がした。
「ソナタはこの後どうするの?」
「俺か?そうだな……航行も自動だし少し部屋に戻って休むかな」
「じゃあ……あの……私もついて行っていい?」
「え?あ〜まぁその……かまわんが……あれだぞ?」
「何?」
「その、まぁなんだ、最中に敵さんがこないとも限らんから……そーいうのはナシだけどな」
ソナタが顔を真っ赤にしてそっぽを向いてボソボソと呟くように言う。
「ふふっそれは残念」
「ミハル〜お前なぁ」
「あははっ冗談よ、私は一緒にいれるだけで充分よ。今はね」
私はその日ソナタの部屋で一夜を過ごした。
ソナタの宣言通り、期待したことは起きなかったけど本当に私はそれでも充分に満足だった。
2年ぶりに愛しい人の身体の温もりを直に感じて私は穏やかな朝を迎えた。
もっとも海中なので本当に朝なのかはわからないんだけど。
◇◇◇
それからの数日は穏やかなものだった。
キョウはあれからソナタとあまり話すことはなくなったけどこないだのような感じはしないので一先ずは安心した。
カナタもそんなキョウを見て安心したのか以前のように笑うようになっている。
ラナはあれっきり姿を見せていない。ソナタが言うにはブリッジより上にある制御室にこもって何やらやっているそうだ。
そして私はカクさんに艦や世界のことを教わりマコさんにソナーの扱いやレーダーの詳しい説明を教えてもらい今日もブリッジのレーダーの前に座っている。
「うん、うん。ミハルちゃんは中々筋がいいっス。後は細かい音の違いとかを聞き分けれたら完璧っスね」
「細かい音の違い?」
「そうっス。例えば…魚雷の種類によっても微妙に推進音が違うっス。通常なのか、誘導なのかで対処法が変わってくるっスから」
「ふ〜ん、どんな風に違うの?」
「口で説明するのは難しいっス。こればっかりは実戦で覚えてもらうしかないっスよ」
マコさんはそう言ってコロコロと笑う。
「そういえばマコさんは何がきっかけで艦に乗ったんですか?」
「自分っスか?自分は旦那が船乗りだからっスよ」
「ええ〜っマコさん結婚してるんですか?」
「あれ?言わなかったっスか?自分の旦那はカクっスよ」
「えっ?ええ〜っ!」
「ミハルちゃん驚きすぎっス。自分そんなに子供に見えるっスか?」
「あ。ごめんなさい。てっきり同い年くらいかと…」
「やっぱりっスか。こう見えても今年で24になるっス」
「うそぉ〜ん!」
このあとマコさんに2人の出会いや馴れ初めを根掘り葉掘り聞いた私。
こんな状況でもやっぱり恋バナは栄養剤だよね。
「そーいうミハルちゃんも艦長の彼女なんスよね」
「えっ?まぁその一応は」
「艦長がよく言ってたっス。陸に残してきた女がいるって」
「ソナタがそんなことを?」
「いつか迎えに行くんだって張り切ってたっスよ」
「……そうなんだ……」
「艦長も念願叶ってウハウハっスね〜」
「あははは、そうだといいんだけど」
「そうに決まってるっスよ……ん?」
「マコさん!ソナーに反応!」
「わかってるっス!これは……味方の艦っス!艦長にすぐ報告っス!」
私とマコさんは急いで艦内のソナタの部屋に向かう。
「艦長!味方艦がすぐ近くまで来てるっス!」
「わかった!すぐに行く!」
部屋からダラシない格好で顔を出して私を見て照れたような笑いをしてすぐに部屋に引っ込む。
「艦長!彼女の前でその格好はないっスよ」
「一緒に来てるなら来てるって言ってくれよ」
「……一緒に来てるよ?」
「遅いわっ!!」
こうして私達は無事に味方艦と合流することが出来た。
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