第23話
「さて、スペンサー。怪獣退治を始めようか――」
不敵に笑うナビアの瞳に、闘志が沸いてくる。
目覚めてしまった新たなる怪獣。今、それを嘆いている暇はない。安い破滅願望を投影している暇も。
あの怪獣を倒さなければどうにもならない。それがあれを持ち込んでしまった我々の責任だ。
「やれるんだな? ナビア」
「ああ、私の作戦通りに事が運べば――」
彼女の立てた作戦、そのために私は準備を整えて控えていた。
全ては沈みゆく船の上、敵は翼を広げた鳥のような怪物だ。
満足な時間はなかったが、それでも必要なものを整えた。
「――始めるぞ、スペンサー!!」
彼女の声が響き、爆裂弾が放たれる。
しばらくの間に随分とライフルの扱いが上手くなったものだ。
空に広げられた翼を、あんな的確に撃ち抜いてみせるとは。
「そうだ、こっちへ来い……!」
爆発によって傷ついた翼は、瞬時に再生される。
そして、怪獣の瞳がこちらを捉えた。
再び響く叫び声、けれど、貨物室の時よりも距離が遠い。衝撃はこちらまで届かない。
「キシャアアアアア!!!!!」
爆裂弾を放ち続けるナビアに向けて、翼竜が急降下をかけてくる。
ここまでは想定通り、そして爆裂弾の連続射によって怪獣は、速度を失し船に叩きつけられる!
沈みかけの船がさらに沈む。けれどここまでは想定通りだ。
「終わりだ……ッ!!」
まだ起き上がることのできない翼竜に向かって駆け出す。
そして、奴が羽ばたくよりも前、突き立ててみせた。
この船の錨を、その柔らかい背中へと、深く深く、骨まで届くように。
「やはり、再生したな……!」
深く突き立てられた錨を取り除くことなく、そのまま異様な速度で傷を再生させていく翼竜。
そうだ、これこそが狙いだった。これでこいつはこの船に括り付けられたのだ。
「キシャアアアアアア!!!!」
翼を広げようとしても、姿勢を変えることができないことに気づき悲鳴を上げる翼竜。
その顔面にナビアは連続で爆裂弾を撃ち込む。
幾度もの爆発が翼竜から力を奪い、船は刻一刻と沈んでいく。
「ッーー脱出するぞ、ナビア!」
爆裂弾を連射し続ける彼女に声をかける。
今、逃げ出さなければ限界だ。この沈む船と共に海底まで落ちる羽目になる。
いいや、もう既に今から逃げ出しても……。
「スペンサー、しかし、こいつがこのまま沈む保証は……」
「浮かび上がってきたらまた戦えばいい! 今、逃げないと私たちが終わりだ!」
強引にナビアの腕を引き、傾いた船から飛び降りる。
救命艇を探している暇などなかった。
「す、スペンサー……!!」
激しい流れの中、ナビアが私の肩を掴んでくる。
……そうだ、彼女は泳ぎはそこまで得意ではないのだ。
だから彼女の身体を背負いながら、泳ぎ進めていく。
沈み続ける船が生む流れに飲み込まれたら、それで終わりだ。
「キ、き、き、キ……」
背後から翼竜の悲鳴が聞こえてくる。
再生が続いているのだ。ナビアの爆裂弾による傷が癒えつつある。
完全に再生すれば、骨にまで食い込ませた錨を引き抜いて飛び出してくるだろうか。
(……考えるな、考えるな、今は逃げる、それだけを考えろ!)
眼前に流れてきた木材、船の破片を掴み取る。
これで少しは耐えられるはずだ。
「……無事か? ナビア」
「ああ、なんとかな。私1人じゃどうにもならなかった……」
海水で冷え切った彼女から零れてくる吐息だけが温かい。
そして、船が沈んでいく。あの翼竜を引き連れて、海の底へと。
なんとか巻き込まれずには済みそうだが、マズいな。体温が下がっている。
このままでは、長くはもたない。
「――これ以上近づくのは危険ですよ!」
「分かってる! けど、あの上で戦っていたのは僕の親友なんだ!」
声が聞こえた。古き友の声が。
「チェスター……?」
「――スペンサー! まだ生きてるね?!」
救命艇に命綱を結んだチェスターが海へ飛び込んでくる。
「正気か……?!」
「数年ぶりの親友への言葉がそれかい? 君がナビアさんだね?」
チェスターがナビアを救命艇の上にいる人間へと引き渡していく。
……まったく、こいつは今の自分がどれだけ重要な人物なのか自覚していないのだろうか。
「――チェス、本当に君には助けられてばかりだ」
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