第19話

 ――自らに向けて放たれる大砲を前に、デイモンはその攻撃対象を変えた。

 ライテスにトドメを刺す訳でもなく、私を殺す訳でもなく、対岸に陣を組んだ連合軍を標的にした。

 まず、無機物の巨体はその全身から漆黒のワイヤーを射出した

 谷の狭間で自らの身体を固定するためではない。ただ、対岸へとその攻撃を届けるために。


(大砲を放棄しての散開か。正しい判断だ)


 しかし、そこに追い打ちをかけるようにデイモンはその尻尾を構える。

 放つつもりだ。ダイヤモンドの槍を。


「ガァアアアア!!!!」


 ライテスの咆哮が響き渡る。

 そして、黄金の輝きを放つ彼の牙がデイモンの尾を噛み千切った。

 悲鳴のように、重低音が響き、グランドアークの悪魔は再びその標的を変えた。

 ――黄金の獣と灰色の巨体が睨み合う。自らの半分程度の大きさであるライテスを、デイモンは完全に敵と認識した。

 もう、攻撃によって標的を変えることはないだろう。


(……大砲を再び構えるには、相当の時間がかかるな)


 先ほどのワイヤー攻撃を、連合軍は散開によって回避した。

 だからこそ大砲は殆ど壊れてしまっている。その中で撃てるものを選別し攻撃を再開するには時間がかかる。

 そもそもライフルでは射程の外だ。


(正真正銘の一騎打ちか……)


 台地を抉りながらデイモンがその腕を振るう。土を使った遠距離攻撃。

 それを前にライテスはその身を石化させ、強引に突破していく。

 そして土煙のど真ん中を突き抜け、デイモンの抉れた目玉に爪を立てる。

 続けざまに、デイモンの巨体を渡り、既に傷をつけた部分から漏れ出る光に向かい、ライテスはその牙を立てた。


(そうだ、やれ、喰らえ! デイモンを喰らい尽くせ……ッ!!)


 デイモンもまたその腕を使い、抵抗しようとする。

 それを察知したライテスは、スッとその身を躍らせ、攻撃を避ける。

 そして、食い千切った尻尾にさらにもう一度、牙を立てた。


「……終わった?」


 ――そこからの戦いは、一方的なものだった。

 デイモンの繰り出す攻撃を器用に回避しながら、ライテスは確実にその巨体を喰らっていった。

 奴の持つ黒い光を喰らい尽くしていった。倍の大きさを誇ると言っても、死に際は他の怪獣と何も変わらない。

 放っていた光が、傷口から零れる光が次第に弱まっていき、潰える。それだけだった。


「ガァアアアア!!!!!」


 ライテスの放つ勝利の雄たけびがグランドアークに響いた。

 ……勝った。我々は勝ったのだ。

 メタリア最強の怪獣を打ち倒して解放した。グランドアークを。


(……ああ、思い出してしまうな、あの日のことを)


 3年よりも前、ナビアと出会う少し前、チェスターと交わした会話を思い出す。

 グランドアークは怪獣によってご破算になったと。

 エウタリカにいてもなお名が轟いていた悪魔を、倒したのだ。自分たちの手で。


「やったぞ! スペンサー!」


 遠くでナビアが手を振っているのが見えた。

 力の入らない腕で、私は小さくそれに振り返していた。

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