第16話
メタリア最大の怪獣、グランドアークの悪魔、デイモン。
その構造は奇怪の一言だった。本体である楕円形から2本の腕と尻尾が生えていて、足はない。
腕だけで器用に地を這う姿は歪の一言。そして何かを磨り潰すように回転し続ける口と、ダイヤモンドの槍を吐き出してくる尻尾。
石炭を喰らい、ダイヤモンドを吐き出す怪獣――命なきものを糧にする生物というのは本当に神の摂理から外れている。
「ガァアアア!!!」
放たれるダイヤモンドを避けるライテス。
その足元にはほぼ垂直に落ちてきたそれが突き刺さっている。
……さっきは石化であれを防いだのか。あちらも化け物だが、こちらも凄まじいな。
「スペンサー、あれ、どこが弱点だと思う?」
「……さっぱり分からん」
「奇遇だな、私もだ――ライテス、お前の勘に任せる!」
ライテスが唸り声をあげる。そしてその爪に黄金の輝きを宿す。
元々、彼が持つ本来の力が解放されていく。
「ガァアアアアア!!!」
ライテスの叫びに対し、デイモンもまた叫び声のような何かを響かせる。
けれどそれはおよそ生物のそれじゃない。何か岩を、金属を砕き続けるようなそんな重低音が響き渡る。
……違う、こいつは今までの怪獣と何もかも違う。こいつは生物の延長線にいない。こいつは、無機物だ。無機物が生きている……ッ!
「ッ――――!!」
最大の加速をかけるライテス。その背に乗る我々は声を出すことさえできない。
デイモンの腕を駆け上がり、胴体に爪を立てる。
……削れた。岩の表面のような身体は少し削れて、それだけだ。
血も流れやしないし、岩で満たされた身体は少し欠けたくらいでは何も感じていないように見える。
「ッ……マズい!」
ナビアが反応するよりも速く、デイモンの腕がライテスを捕らえた。
そして、次の瞬間には台地に叩きつけられていた。
一瞬早く石化していたからライテスへのダメージは少なかったものの、私たちは振り落とされる寸前だ。
「……ありがとう、スペンサー。君の腕力には惚れ惚れするよ」
「言ってる場合か……」
天地が逆さまになったまま両腕で自分自身とナビアを支えているのだ。
石化したライテスの毛並みを掴み取りながら。
こんなの長く持つはずはない。
「グゥウウウ!!!」
ライテスの叫びに応えるようにデイモンの放つ重低音が大きくなる。
このままデイモンの片腕で潰されるか……尻尾からのダイヤで貫かれるか。
「撃て――ッ!!!」
リックの声が聞こえた。直後、デイモンの胴体で複数回の爆発が起きる。
爆裂弾だ、ウィルドマスターの新型だ。
「――――?!」
突然の攻撃に飛び退くデイモン。そして畳みかけるようにリックたち連合軍の射撃が続く。
馬に乗りながらの射撃、防衛隊の連中には仕込んでいたが、流石は魔術師殿だ。
同じことをできるガンマンたちをここまで連れてくるとは。
「無事ですね!? ボス! マダム!!」
「ああ、助かった! たたみ掛けるぞッ!!」
ガンマンたちの射撃に合わせるように、起き上がったライテスの背中、ライフルを構える。
今の今まで構えられるような速度ではなかった。
「ライテス、火だ。炎を使うぞ」
「グゥウウ……!!」
デイモンの巨体に無数の爆裂弾が降り注ぎ、その身体を削っていく。
そしてライテスが吐き出した炎がその身を焦がす。
攻撃によるダメージが入っている。デイモンとて無敵の存在ではない。
「ッ、逃げやがった……ッ!」
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