第6話
「さて、怪獣退治を始めようか――」
不敵に笑うナビア・ミネラスタの声が、背筋に響く。
結ばされてしまった不当な契約。今、それを悔いている暇はない。
掘り当ててしまった岩の怪獣を倒さなければどうにもならない。
「やれるのか? ナビア」
「そうだな、まずここから出た方が良い」
2本の腕が地面から襲ってくる。瞳はまだ地面に輝くだけ。
……まるで潜っているようだ。土の中に潜って、腕だけを外に出してきている。
黄金の獣・ライテスの背に乗って、冷静に見つめていると見えてくるものがある。
「――スペンサー、エウタリカの武器ってあいつに効くか?」
器用に地面からの攻撃を避けている中、ナビアが尋ねてくる。
ライフルの方は殆ど効果がなかった。連射して僅かばかり動きを逸らせたくらいだ。
けれど、そうだ。あれがある。リックが持たせてくれた”円筒爆弾”が。
「爆弾がひとつ」
「ふむ、それであいつの気を逸らせるかな……」
ライテスの呼吸が上がっているのを感じる。
跨っているから分かる。いつまでもこの曲芸による回避を続けるのは不可能だ。
「出口ギリギリからあの紅い瞳まで投げられるか? 投げられたとして爆発はこっちまで来るか?」
「投げられる。爆発はそこまで広がらない。細かい破片が飛んでくるか来ないかだ」
「よし。じゃあ、私が投げろって言ったら投げてもらう――」
そう言ったナビアがライテスの手綱を握り締めた。
「ガァアアアアア!!!!」
グッと踏み込み、一気に駆け出すライテス。
その大きな揺れに、振り落とされそうになる。
だから、思わず掴まっていた。ナビアの背中に。女の背中に情けなくしがみついた。
「――放すなよ、スペンサー」
2本の腕、その間を縫うように駆け抜けるライテス。
勢いに任せ、空洞の壁を駆け上がり、天井に爪を立て、一回転する。
「よし、今だ! 投げろ、スペンサー!!」
ッ――こんなアクロバティックな動きの直後に来るか……ッ!
確かに出口はすぐそこだし、岩の腕も絡まった――落ち着け、焦るな、私は今から爆薬を弄るんだ。
――深く息を吸い、マッチに火をつける。その火を円筒の導火線に灯す。そして
「上出来だ――! ライテスッ!」
「グゥウウウ……!」
外に向かって一気に駆け出す。その背後、今までとは違う揺れが起きたのを感じる。
……思わず振り返った先、真紅の瞳が2つ、ギラリと輝いていた。
起き上がった、地面から出てきたんだ……ッ!
「追ってくるぞ! ナビア!」
「最初からそのつもりだ、スペンサー!」
突っ切っていくライテスに乗りながら、背後から迫る岩の音に怯える。
クソ、あの爆薬でさえ効果がなかったのか……?
いや、今まで晒していなかった正体を晒したのだから効果はあったんだ。致命傷には至らなかっただけで。
「――リック、点火して!」
「イエス、マム――ッ!」
外に飛び出した直後、ようやく夕焼けの下に戻ってきた瞬間だった。
ナビアが”リック”に対して点火を指示したのは。
「何……っ?!」
そして、私たちが坑道の入り口から距離を取った時には、点火の結果は起きていた。
入り口が一気に爆発して、崩落したのだ。岩の怪獣を押し潰すように。
……この女、最初からここまで計算して、リックまで使ってこの状況を用意していたのか。
「慣れているんだな、怪獣退治に」
「……いいや、慣れてるのは戦いにだよ」
戦い――我々エウタリカとの戦いなのだろうな。
ミネラスタの我が鉱山も、そうやってエウタリカ人が手に入れた場所を私が買ったのだ。
「……さぞ、活躍されたのだろう」
「私たちだけじゃ土地の半分くらいしか守れなかった。”獣の魔女”と聞いて覚えはないか?」
「――その異名くらいは。ただ、すまない、私がこちらに来たのは最近でね」
5年くらい前の話だっただろうか。確かにメタリアの方に”獣の魔女”がいるという話は聞いたことがある。
けれど、その頃はチェスターとの派閥争いが始まった頃で意識を割いている余裕がなかった。
「構わないさ、聡明な君のことだ。調べるんだろう? この後に」
「……どうして君は、私を知っているのかな」
「少し前に”土を掘り起こすな”って言いに来た奴がいただろう? あれ、私の祖父なんだ。見てたよ、やり取り」
……なるほど、その時期から目を付けられていたということか。
それでこんな絶好のタイミングで助けに入って、無理な契約を飲ませてきたと。
「無事ですか!? ボス!」
「リック、ありがとう。おかげで助か……?! ッ、伏せろ――!」
リックの向こう側、爆薬によって崩落した坑道の入り口、崩れた岩をかき分けて、振り上げられていた。
あの怪獣の長い腕が。マズい、マズい、このままじゃ――ッ!!
「うぉおおおお!!!」
ライフルを構え、連射する。撃っては弾を込め、次を撃つ。
少しだ、少しで良い。あの腕の起動が逸れれば……!
死なせてたまるか、リックを死なせてたまるものか――ッ!
「ライテス……ッ!」
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