Biscuit de Savoie② 〜ビスキュイ・ドゥ・サヴォワ〜
カランコロン
ドアベルが鳴り、奥にいるパティシエールの顔が見えた。おばあさんだ。
「いらっしゃい」
年配の女性特有の響きに安堵を覚えた。
部屋全体は暗く、ランプがほのぼのと照らしている。部屋が暗いのと甘い香りが広がっているせいか、魔法にかかったかのようなきさえもする。
「おばさん、こんにちは」
後から入ってきた樹の姿を見て、年配のパティシエールは、細い目をさらに細くさせて
「よく来たね、いらっしゃい」
と、言った。私は、常連なのかなと思い
「よく来てるの?」
と言った。
「あぁ。お前のケーキを食べていると、不思議とケーキに興味が湧いてきて、気付いたらケーキ屋さんを巡ってたんだ」
そう言って、樹を見上げる私に目線を移した。その瞬間、私の中でバチ!と音が鳴った。体温がどんどん上がっていくのを感じ、私は目をそらした。そんな私たちの会話を聞いて、おばあさんは「ふふふ」と笑った。
「貴女、確か牧野
おばあさんが、あたり前のように私の名前を言ったものだから、私は驚いた。
「えぇ、そうですが・・・」
「マカロン世界大会優勝、おめでとうございます」
また目を細め、彼女は微笑んだ。亡くなったおばあちゃんを思い出して、懐かしい気持ちに包まれた。
「ありがとうございます」
と、私は呟き、ショーケースに飾られているお菓子を覗き込んだ。お城のような形の生地の上に粉糖がかかっているお菓子が、たくさん並べられていた。
「サヴォワですか?」
私は聞いた。
「えぇ。そうですよ」
「じゃあ、一つ頂いてよろしいでしょうか」
「はい。もちろん」
人が作ったサヴォワを食べるのは久しぶりだ。楽しみだな。
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