Biscuit de Savoie① 〜ビスキュイ・ドゥ・サヴォワ〜

  キーンコーンカーンコーン

  キーンコーンカーンコーン

「っしゃ〜!終わった〜!」

8限を終えるチャイムが鳴り、樹が伸びをしながらそう言った。少しだけ掠れた声が、私の心臓を乱す。

「な、瑠璃。付き合ってくれ」

付き合うって、こう他人同士の方?まじで!?超嬉しいんだけど!

 舞い上がっている私をよそに、樹は

「一緒に行きたいところがあるんだ」

と言った。

 やっぱりそうか……そうだよね。いや、私なんかに学年1モテ男の樹が告白する方が、おかしいよね……。うん…。誘ってくれたのはそりゃあ、この上なく嬉しいんだけどね…。矛盾している自分に、心がもやもやする。

 樹がこっちを見た。私は、彼のことをずっと眺めていたので、バチっと目が合った。一瞬で気まずくなり、体が熱くなるのを感じながら、目を下にそらす。

 それが嬉しすぎて、心にかかった靄が晴れた。照れ隠しに

「・・・いいよ」

と私はそう呟き、もう一度顔を上げた。その瞬間、また満面の笑顔の樹と目が合った。居たたまれなくなった私は、顔をそらして

「早よ行こ」

と彼の手を引っ張った。


 数駅電車に乗った。高い高いビルが立ち並ぶ、都会に出た。電車を降り、人と車とビルだらけの道を歩く。(どこに行くのだろうか。)と私が悩んでいると、

「ここだよ」

と樹が指差した。彼が指す方を見と、そこには『パテスリー小鳥遊たかなし』と書かれた腰丈程の行灯が置いてある、昔ながらの––でもお洒落な––ケーキ屋さんだった。

 思い描いていたのとは違う外見だったので、私は思わず振り向いて

「ここ?」

と樹に言った。

「そうだよ」

彼は、ニコリと笑って、そう答えた。

 鼓動が速くなる心臓を抑え、私はドアに手をかけた。


 その瞬間、ケーキの焼きあがる甘い甘い香りが、私の鼻をくすぐった。


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