第179話 運次第

 ……今から思えば、非がルーツの だけにあるとは言えない気がするのだが。いろいろ無神経なことも ってしまったみたいだし、ユリの機嫌がよろしくない原因の一端がこちらにあるのは確かなことだろう。とは っても、今さら面と向かって謝るのも蒸し すみたいでなんだか気まずいので、ルーツはとりあえず、これからは軽はずみなことは言わないように、自分を今一度いましめておく。

 それにしても、もうあれから、かれこれ三、四時間は っている気がするのだが、ユリは未だにひとりで思い んでいるのだろうか。

 やっぱり手伝うべきだったのかなあと いながらも、いい加減にソファでうたた寝するのも きてきたので。そこらをはたきで掃除しているふりをしながら、ルーツが横目でユリの様子を確認している 

「はあ、 わったー」

 どうやら、長くかかった買い物にもようやく りがついたらしい。大きく一つ伸びをすると、途端に気が んだようで、ユリは少しぐったりした様子でルーツを見 

「どう、無事 に出発できそう?」

 そういうと、どこか他人事ひとごとのように考えている印象を与えてしまったのか、ユリは一瞬むすっとしたが、一日中集中していて、もう る気力も残っていなかったのか、ソファにバタリと になる。

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「食べ物とか、その の小物のことを言っているなら、そこにあるわよ。……でも、あんまりさわらないでね? 出かける前に、あれがない、これがないって騒がずに むように、さっき綺麗きれい整頓せいとんしてかばんに入れたばっかりなんだから。

 移動手段に関しては、正規のルートじゃないけれど、格安で魔脚をゆずってくれそうな良い当てが見つかったから大丈夫。それも、上手く事が びさえすれば、ただで運転手まで いてくるおまけつき。……まあ、運次第と言ったところかしらね。日頃の いがよろしければ、すんなり村まで れるし、交渉が失敗すれば、またこの暗い部屋の に逆戻り。

 何か力になりたいって言うなら、私の代わりに神様にでも っておいて。私はどうにも、ツキって から見放されているようだから」

 はぐらかすようにそう言うと、ユリはひたいおさえ、ため息をつく。だがその顔色が、ただ単純に気疲れを こしているというよりかは、なんだか見るからにつらそうだったので、いったいどうしたのかとたずねると、おそらくは下ばかり いていたせいだろう。案の定、ユリは頭が くなってしまっていたらし 

 本当なら ここで、明日のためにも移動手段のことをちゃんと聞いておきたかったところだったのだが、まさか体調がかんばしくない少女を相手に、不急の要件を連ねるわけにもいかなかったので、ルーツは渋々しぶしぶ、何も聞かずに引き下がることにした。

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 だが、しかし。魔脚まきゃくのような、一個人いちこじんには到底手が届かないような高価な代物しろものを、ユリはいったいどうやって手に入れるつもりなのだろ 

 正直に事情を話せば、衛兵を ばれるだけだろうし、そもそもこの王都に、見ず知らずの少年少女に自身の財産をこころよく分け与えてくれるようなお人好ひとよしが居るとは思えない。だからと言って、まさか みを働くわけにもいかないし――、ひょっとすると、ユリは本気で り逃げでも起こすつもりなのだろう 

 そんなことを えていると、なんだか危険な予感がプンプンしてきて、ルーツはぶるりとその身を わせた。

 そういえば、さっきユリが運次第だとか、どうとか っていたような気がするが、残念ながらルーツもあまり運が くない方である。

 以前、村で今年の運勢をうらなってもらった時に、ろくな結果が返ってこなかったことや、ここ一年間でもう十回は何も いところで転んでいることを思い返せば、ルーツに幸運を期待するのはお門違かどちがいもいいところ。

 ユリがごとをするつもりじゃなければいいが、とあれこれ頭を悩ませながら、ルーツもこっそり自分なりに、二人の行く を心配していたのだった。

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  い、ユリは一時間ほどですっかり元気を取り戻した。まるで何事もなかったかのようにむくりと起き上ったユリを見て、我慢がまんしているのではないか、とルーツは少し心配したのだが、ユリの言い分を聞くに本当に なる寝不足だったらしい。

 夜中に何度もられたせいで、満足に眠ることが出来なかったというユリの主張は正直受け入れ難かったのだが、いびきや ぎしりをしていたと言われなかった分だけまだましだろう。寝言ねごとも、鼻ちょうちんも、寝ている間に誰かにかかと としをかますのも、生理現象なら仕方 のないことなのかもしれないが、そんな様子を誰かに見られたあかつきには、もうずかしくって、人前では れなくなってしまう。

 ところでルーツはそれから何回か、魔脚まきゃくの入手ルートについていろいろ探りを れてみたのだ 、ユリはどうやら確定的でない事柄については、あまり口に出したくない性分しょうぶんだったようで。とりあえず、危ない橋を渡るつもりがないことだけ確認を ると、話はそれでお れになった。

 ちなみにユリは、自分にとって都合のいい運勢が出た時だけ、占いを信じるようにしているらしい。なんとも前向きなその態度に、それなら明らかにユリの方が、僕より神様に かれているんじゃないのかと、ルーツは疑問に思ったのだが、ユリは適当に誤魔化ごまかして、多くを語ってはくれなかった。

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