第177話 ご機嫌斜めの要因

 あっちに行け、と言ってみたり。ひまにしているならこっちに来て手伝え、と言ってみたり。なんだか、今日のユリは少しカリカリしているようなのだ 

 お腹がいているわけでもないとすると、ユリの の居所が悪くなる原因は、ルーツの不注意にあると てまず間違っていないので、こういうふうに当たり散らされるのも仕方のないことなのだろ 

 だけど、しかし。いつもだったらもう少しくらい、 の余裕があってもよさそうな気がするのだ 

 総じて、迷惑をかけた というものは、かけられた側が思っているより、自覚がなかったりするものであ 

 ひょっとすると、僕は無駄遣いだけではなく、他にも か、知らず知らずのうちにいろいろしでかしてしまっていたのだろうか。となんだか し心配になってきたルーツは、今日の行動を少し までさかのぼって、ユリがご機嫌斜めの要因を、自分の記憶の中から してみることにした。

  

 そもそも、ルーツの目が めたのは、正午を少し回ったころだった。

 一緒に村に帰ってくれるようユリを説得し わったそのあとで、眠りに落ちたあの時間が、いったい何時頃だったのか。ルーツはあまり記憶が いのだが、限界を超えて、知恵を振り ったその分だけ、身体はたくさん休息を必要としていたらし 

 夢と現実のその間を、ウトウトしながら何度も行き していると、

「いつまで てるつもりなの!」

 そう、耳元で怒鳴られて、ようやく目がパッチリいた。

―――――――――012 ―――――――――

「……分かってはいたけど、アンタ、寝相ねぞう悪すぎ」

 耳の奥から聞こえてくる、と言ってしまっても過言かごんではないほどすぐ近くから聞こえてくるユリの声に、おどろいてあわてて身体を起こすと、ユリは自分の服をあちこち引っ張って、 びきっていないことを確かめている。

 ころしても次々に出てくる大きな欠伸あくびこらえながら、昨晩のことを思い していると、どうやらユリは昨日と同じ服を着続けているようなの 、ルーツは一瞬、ユリも今さっき きたばかりなのかと少し安心したのだが。

「服がアンタの身体の下敷したじきになっていたせいで、起きようにも起きられなかったのよ。……こっちはもうとっくに、数時間以上前から目が めてたんだけど」

 不満げな表情を かべながら、意外な事実を明かしてくる目の前の少女に、ルーツは反射的に頭を げていた。

「ご、ごめん。そんなこと、まったく が付かなくて――」

「ええ、そうでしょうね。気が付かなかったから り続けていたんでしょ? 気持ちよーく良い夢見てた かさんは知らないかもしれないけれど、これで私、もう十回はアンタに声かけてるのよ? 退いて、起きてって。……なのに、何度言っても、らしても起きないし。やっぱり床で寝かせるべきだったのかしら ?」

 そう言う割には、 じくすっかり寝過ごしてしまった過去があるせいか、ユリはそこまで っているわけではないようで。小言を手短に打ち切ると、人目も気にせず、テキパキと着替え始めたユリを見て、ルーツは てて背を向ける。

―――――――――013 ―――――――――

「ほら、アンタもいつまでもそんな場所で寝転んでないで、とっとと きてよ。……準備、 めるんでしょう?」

 背中越しに こえてきたそんな言葉に、ユリはいったい何の話をしているのだろうと気になって、もうそろそろ大丈夫かと振り返ると、ユリはちょうど厚手で長袖ながそでの服に袖を通し、ほっと一息ついているところだっ 

 だが、数あるはずの服の中から、ユリはどうしてこの一着を んだのだろう。

 別に似合っていないわけではないし、あれこれ かいことにケチをつけたいわけでもないのだが、あしのラインがよく目立つ下の服に比べると、上の服はなんだかかなりダボダボしていて、到底動きやすそうには えなかった。それに、後ろの首筋のところにくっついている、帽子ぼうしらしきものの存在も にかかる。

 あれはひょっとして雨除あまよけなのか、とか。この服はもしや、シャルさんという人のお下がりなのか、とか。いろいろ ねたいことはあるのだが、まるでユリのセンスを疑っているようで、聞くに けずにルーツがじっと黙っていると、

 い? オシャレよ、オシャレ」

 どうやら不思議なものを見る眼差しが伝わってしまったようで、まゆを吊り上げてこちらを見てくるユリの姿に、ルーツはまたもや慌てて弁解する羽目はめになった。

 それにしても、いつも自分の見てくれにはほとんど関心をはらっていないように見えるユリが、自分を着飾るすべを知っていたとは、非常に くべき話である。

―――――――――014 ―――――――――

 そんなことを考えながら、ルーツが自分の服のり処をねると、ユリは何がそんなに気に わなかったのか、手にした紙袋をルーツに向かって投げつけてき 

「ホントは、この程よいゆとりと、着心地の さが分からない人に、あげる服はないんだけど 

  かに、あまり興味がないせいで、似合う、似合わない、着られない、くらい大まかにしか、ルーツは服の さを判断する事が出来ないのだが。だからと言って、着替えの度に捨て台詞を吐かれては、こっちも困ってしまうのであ 

 いったいユリはどんな反応をして しかったのか。その真意をはかりかねて、ルーツが一人でぼやいていると、どうやらユリが っていた『準備』というのは、やっぱり村に るためのものだったようで、ルーツが服を着替えたところで、ユリは改めて口を いた。

「で、村に帰る日取りはいつなの? 明日、それとも明々後日しあさって? それによって、今日中にやっておかなきゃいけないことが わるから、出来れば早めに聞かせて欲しいんだけ 

 正直、いきなりそんなことを われても、そもそも準備というものが一体どれくらいかかるものなのか、ルーツは全く からなかったのだが。

 何も考えていない、と思われるのもしゃくだったので、ルーツは取り合えず適当に、たった今思いついた日程を、何となくで口に してみる。

―――――――――015 ―――――――――

 だがユリは、『今日の夕方』というルーツの滅茶苦茶めちゃくしゃな提案を、可哀かわいそうに、実現可能かどうか、しばらく真剣に え込んでくれていたようで。その日時を希望する理由を われたルーツが、答えにきゅうして、ついに適当に言ったことを白状したその時には、そこまで にしていないとは言ってくれたものの、ユリの笑みは随分ずいぶんぎこちないものになってい 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る