僕とクソッタレ・アイランド

古代インドハリネズミ

僕とクソッタレ・アイランド

 儚いという言葉が人に夢と書くのは、人の描く夢が儚いものだからだと偉い人は言ったそうな。

 僕もそう思う。


「クソッタレ! 風俗に行ってパネルと違う女が出てきた気分だよ僕は!」

「おお、お前風俗行ったことあんのか」


 銃弾飛び交う路地裏で叫ぶ僕に呑気にそう返す男は、ナイフで銃弾を逸らしながらへらへらと笑う。


「あいつらも、あんたたちも、この島も! みんなクソッタレだ!」


 僕の更なる叫びは敵がブチかましたロケット弾の爆音に紛れて誰にも

聞こえなかった。







 僕こと、反町そりまち たけるは楽しい航海の旅に出ていた。

 船室は上等とは言えないものの、時折聞こえるBGMに耳を傾けながら愉快な仲間たちとの会話を楽しむことができる。

 仲間たちは仲間であることを示すがごとく、全員がシルバーというかアイアンなアクセサリーをつけて同じ服でコーディネートされている。もちろん僕もだ。

 自分たちにはこの船がどこに向かっているのかわからないという、サプライズでスリリングな船旅。最近の発達したインターネットに動画を上げればたちまち話題になることだろう。


「死にたくねえ、死にたくねえよ」

「母ちゃん助けてくれ、俺もう悪いことしねえよ」


 大炎上すること間違いなしである。

 喚いている男たちは目から涙を流し、声は震え、人によっては失禁していた。恐怖と劣悪な環境が人間の肉体と精神にダメージを与えている。

 彼らは僕の分割統治された故郷の最も治安の悪いところにしかいないような、奴隷という身分に堕とされたのだ。悲観するのも無理はない。

 そして僕自身も、彼らと同じく奴隷として売り払われてしまった。家族の借金のカタとして売られてしまったのだ。家族自身も、全員が全員マグロ漁船や風俗などに栄転となりがんばっている。


「僕の冒険家になる夢も終わりか……」


 僕はやけに近い天井を見上げて呟いた。

 僕は子どもの頃から、冒険家になりたかった。この世は未だに解明できない謎に満ちている。

 特に200年ほど前、突如として浮上した巨大な樹――世界樹がある島が発見されてから世界の常識は大きく変わった。

 その島を調査した調査隊は未知の物質とそれを取扱う現地人を連れて国へ帰った。放電し続ける蛇の死体、様々なエネルギーに変換できる花、1万年を生きる言語を解する亀。


「ふふ、キミ冒険家になりたいの?」


 僕はこの腐ったようなうめき声しか聞こえない船内で、美しいソプラノボイスを聞いた。

 隣にはいつの間にか可憐な少女がいて、僕を笑いながら見つめている。

 彼女は真っ白なワンピースに身を包み、この汚い船内において天使のようにまっさらだった。

 つい見惚れてしまっていた僕は、彼女の馬鹿にするような口調を咎めて言い返した。


「なんだ、僕のように貧乏で冴えない、童顔の童貞が冒険家になるなんておかしいって言うのか?」

「そこまでは言ってないけど……」


 僕が陰気な顔で落ち込んでいると、少女はよしよしと僕を慰めてくれた。

 美しい少女の励ましにより、僕はたちまち元気になる。我ながら単純なものだ。


「それより君、どうしてこんなところにいるんだい? 腕輪も足枷もないようだけど」


 少女を拘束するものはなにもなく、こんな汚物が播き散らかされた船内よりも晴天の花畑が似合いそうだ。


「ボクは何者にも拘束されないし、何者にも支配されないよ」

「ご立派なことをおっしゃる」


 こんな船内にいるということはろくでもない身分のはずだが、彼女に他の者のような悲壮感はない。

 奴隷商人の慰み者だとか、そんな立場だとしたら気丈なものだと僕は思う。僕は更に不幸な身分だと自分で思っているので、同情はしない。むしろして欲しい。


「キミは冒険家になって何がしたかったんだい」

「僕は……あの島に行きたかったんだ。突然現れた伝説の島。夢の島。僕の故郷ではかつて黄金郷と呼ばれた自国と重ねてジパングと名付けてたよ。勝手なもんだよね」


 あの島は国ごとに様々な呼び方がある。みんなが夢と希望をあの島に見出しているんだ。


「ふうん。それだったらちょうどよかった。キミは運がいい」

「何を言ってるんだ。僕より運が悪いやつなんてそうそういるもんか。親は借金まみれ、姉はオタンコナスで兄はパチンカス、一家離散の挙句奴隷だよ?」


 少女の嫌味かと思う誉め言葉に、僕は自らの境遇をぶちまける。

 しかし、少女はそれを鼻で笑ってから首を横に振った。


「それがなんだい。キミはこれから、その夢にまで見たジパングとやらに行くんじゃないか」

「えっ」


 少女の言葉に、僕は驚きの声を上げる。


「えっ、それは本当なの?」


 僕の声音はいつしか、喜びの色が混じっていた。

 困惑、疑念、期待、歓喜。複雑な感情が心のキャンバスを汚す。


「ボクは嘘はつかないよ。冗談は言うけどね、嘘はつかないのさ。この船はキミの夢見たジパングに向かっている」

「そう……なんだ。あの島に行けるんだ」


 少女が僕の目をジッと見つめて話すと、不思議とその話を信じずにはいられない気分になった。

 少しくらくらする頭で、僕は今後の予定を考える。

 奴隷身分に堕とされたものの、ここから脱出すればあの島を探検することができるかもしれない。

 運良く他の国の調査隊に合流できれば荷物持ちくらいはやらせてもらえるかもしれないし、同行する中で色んな発見をする瞬間を見られることもあるだろう。

 僕は期待に胸が膨らみ、思わず伸びをした。


「……よし! 君、教えてくれてありがとう! 僕は反町 武。君のおかげで人生に希望が持てそうだよ」

「ふふ、それはよかった。上手く生き残ってくれよ。ボクはキミに期待してるんだ」


 僕は握手をしてお礼を言いたい気持ちになったが、生憎とアイアンなアクセサリーがそれの邪魔をする。

 代わりに故郷の文化であるお辞儀で礼を尽くすことにした。頭を下げる僕を見て、彼女はおかしそうに笑う。


「ところで、君の名前は」

「おっと、そう言えば。キミはどうして奴隷なんかが夢の島に必要なんだと思う?」

「え、それは……どうしてだろう」


 少女は僕の質問を打ち切り、逆に質問してきた。なんとなく彼女の質問には答えなきゃいけない気がして、僕は真剣に考える。


「それはね、システムを維持するのに必要なんだよ」

「え、まだ答えてないんだけど……システム?」


 解答時間に10秒ももらえなかった。無慈悲な少女は僕のアホみたいなオウム返しに抑揚に頷く。


「うん。奴隷身分の者が必要なんだ。だけどさ、キミは王にだってなれるんだぜ? オレの期待を裏切るなよ」

「う、うん? というか君、その口調……」


 なんだか突然、少女の雰囲気が変わってしまったようで僕は戸惑う。

 少女はハッとすると頭を何度か振ったあと、船内唯一の固く閉ざされた扉を指差す。


「ほら、そろそろおっかない船長さんが来るよ。呼ばれたらキミも素直に船を降りるんだよ?」


 少女の指差しに釣られて扉の方を見ると――


「オラッ! てめえら寝てるやつは起きろ! お前たちの“再就職先”に到着したぞ!」


 奴隷商人兼船長さんが船内にずかずかと入ってきた。扉の近くに縋り付いてた哀れな奴隷は蹴飛ばされている。

 これからあの島に降り立つのか。不安と期待が、僕の心臓の鼓動を早くする。


 ふと少女が気になり、僕は隣を見た。

 そこには誰もいなかった。







 間違いない。ここは僕の夢見た島、希望の島だ。

 船から降りた僕が最初に目にしたのは――いや、船から降りた奴隷たちが最初に目にしたのもあの天にも届くような世界樹だっただろう。

 あの樹の存在が、ここが夢の島であることを証明してくれている。


 僕ら奴隷は薄汚い船着き場に集められ、土嚢のような物や木箱を持たされて奴隷商人たちに突っつかれて歩かされた。


「お前たちはどうしようもないクズで汚濁に塗れた俗物だが、俺らが有効活用してやる! まずはこの荷物を運べ!」


 とのことである。歩いている間もクソだのゴミだの罵られるので上手く力が入らなくなる。

 女奴隷などは周りに存在せず、むさ苦しい男たちしかいないのも僕のモチベーションを下げていた。あの少女はどこにいるんだ。


 船着き場から出ると、街道のようなものなのか多少整備された道を歩かされる。

 街道から外れたところでは見たこともない植物や変わった形の樹などが生えているのが見えて、僕の冒険心をくすぐる。


「これからある街に向かう。お前ら勝手な真似するんじゃねえぞ」


 どこから取り出したのか、鞭をぴしゃんと叩きつけて大声を上げる奴隷商人。

 この島も、発見されてから200年も経てば街ができるようになったのか。

 夢の島の夢の街。もしや冒険者ギルドみたいな心躍る施設があったりするんだろうか。


 荷物を運ぶために腕輪は外してもらった。しかし、足枷は依然としてついたままで左右自由に動くものの重石がついている。


「この荷物重いなあ……何が入ってるんだろ」

「土嚢の中身は粉っぽいな。木箱の方が軽いかもしれん」


 うっかり漏らした僕の呟きを聞き逃さず、近くにいたおっさんがすり寄ってきた。話してるのがバレたらひどい目に合いそうだからあまり話しかけないで欲しい。

 この人多分中東あたりから来た人だけど、言葉がわかってしまうのがいまはめんどくさい。

 この島のどこかにあるという川から汲んだ水と世界樹の一部を用いて作った言語共有装置バベルの影響でどこの国の人間でも言葉が通じる世の中になってしまった。

 そのせいでこのおっさんに話しかけられてしまったとすると、バベルを作った鬼畜米の連中を憎まなくてはならない。


「……交換します?」

「勘弁してくれ。俺はこっちの木箱で精一杯だよ。お前、チビのくせに土嚢持って力あるな」


 僕をさりげなくディスりつつ、荷物の交換を拒んだおっさん。ちょっとぽっちゃりしてるけど体格はいいのに、情けないやつである。


 一方的に話しかけるおっさんの言葉をあーとかうーとかいいながらかわしつつ、僕は周囲の観察に勤しむ。

 なんだかこの島に入ってから感覚が鋭くなったようで、目を凝らせば暗い中でもよく見えるしおっさんの話を聞き流しながら動物や虫の音に注意を向けることができる。


 やがて、明かりが見えてきた。

 奴隷たちは安堵の溜息を洩らし、ゴールが見えたことで少し行軍速度が上がる。

 しかし、ここでストップがかかった。


「よし、ここで進路を西に変えるぞ。森で取引相手に荷物を渡すことになっている」


 奴隷商人の指差した方向は暗い森の中。お化けのような形をした奇妙な木々の葉が揺れて、僕らを誘っているように見える。

 奴隷たちは見るからに危険なその森に行きたくないようで、露骨に嫌な顔をしたり舌打ちするものまでいる。

 僕は逆に目を輝かせて怪しげな森を見ていた。見たこともないものを発見できそうだし、この夜のとばりが降りつつある時に暗い森の中へ入れば逃げるチャンスもありそうだ。


 不平を漏らす奴隷には鞭を打ち、奴隷商人たちの率いる集団は森へと入っていく。

 やがて、取引相手とやらとの待ち合わせ場所についたようで僕たちは止まるように指示された。


「ここで止まれ……よし、遅れたかと思ったが間に合ったようだな」


 商人の言葉のあと、木の陰から仮面を被った二人の人物が姿を現す。


「……これで全部か?」


 仮面の人物のくぐもった声に商人は頷く。


――パンッ


 乾いた音とともに、商人は崩れ落ちる。

 仮面の男がいつの間にか拳銃を取り出していて、商人を撃ったのだ。


「て、てめえ――うっ」


 商人の仲間が声を上げるが、発砲した人物と同じ仮面をつけた女が花束をぶつけたために尻もちをつく。

 あまりの自体に他の奴隷は混乱し、後ずさる者もいる。僕はなんで花束なんだろうとか、おっぱい大きなとかそんなことを考えていた。


「やれ」

「……命令すんなよ」


 男に言われ、女は更に花束を撒くと花に火をつけた。こんな森の中で、大変なことだ。

 奴隷たちはそれを見て慌てて逃げ出した。幸い、商人たちも雇われ傭兵も仮面の男たちに集中していて彼らに構っている暇がないようだ。


「アレ全部クスリだからな。煙吸うなよ」


 男が仲間に警告している。というか、僕たちは薬物を運ばされていたのか。

 奴隷商人は薬物のバイヤーでもあった。


「ふざけやがって! 取引がパアじゃねえか!」


 商人の声に呼応して、護衛役の傭兵たちも銃を取り出す。

 最初に発砲した男は右手に銃を、左手に刃渡りの大きいナイフを持って構える。何それかっこいい。


「今度はお前らの頭がパアになる番だ」


 決め台詞はかっこよくないみたいだ。

 僕は大きめの木に隠れて様子を伺う。奴隷たちはほとんど逃げてしまった。


 それから、火の明かりに照らされながら起こったのは残虐超人によるショーだった。

 仮面の男はあろうことか銃弾をナイフで弾き、的確に傭兵や商人たちの眉間を撃ち抜いていく。

 最後に残された商人は戦意喪失し、項垂れていた。


「……お前らいったい何者なんだ」

「俺らはしがない雇われよ。それよりもお前、この島の人間じゃないな。弱すぎるぞ」


 あんたが強すぎるんだろと思ったが、もしかするとこの島の人間は何か超能力めいた力を持っているんだろうか。

 あの異常な身体能力は訓練だけでは説明できない気もする。


「こんな化け物がいるなんて聞いてないぞ……」

「俺は化け物かよ……まあいいや。生かして帰すわけにはいかないんで、悪いな」


 商人を撃ち抜き、仮面の男は女に声をかける。


「服剥いで燃やしとけよ」

「だからアタシに命令するんじゃねえ」


 仮面の女は眉間を撃たれて死んだ商人の服を引っぺがすと、背負袋に入れた。そして死体は燃える。

 追い剥ぎに死体を燃やしての証拠隠滅、かなりヤバい連中と見た。

 そして、僕の隠れていた木に銃弾が飛んでくる。


「うわ!」

「おい、そこの。お前だけ逃げてなかったみたいだが……こいつらの仲間ってわけじゃねえよな?」


 こいつらとは奴隷商人のことだろう。


「仲間じゃありません!」

「そうか。なぜ逃げなかった?」


 なぜ逃げなかったのか。

 彼らには奴隷を害するつもりはなかったようだ。逃げ遅れもたつく奴隷もいたが、彼らを狙わなかったことからそれが伺える。

 僕にそれがわかっていたわけではない。巻き込まれて殺される可能性もあったし、火が森に燃え移ることも考えられた。

 だけど、僕はここから逃げることは考えられなかった。彼らとコンタクトを取りたかった。

 彼らから何かを感じたのかもしれないし、むかつく奴隷商人を倒した彼らにお礼を言いたかったのかもしれない。

 しかしそれ以上に、である彼らの話が聞きたかった。


「僕は……この夢の島に憧れてたんだ! だから、あなたたちに話を聞いてみたかった……ここがどんな島で、どんなものがあって、どんな生活をしているのか」

「この島に憧れて、ねえ」


 僕の言葉を受けて、仮面の男は首に手を当てて唸る。

 何やら困っている様子で、僕も困惑した。その時、後ろにいた仮面の女が笑い声を上げた。


「アハハハ、いいじゃないか。この島……というか、この先にある街を見せてやろうよ」

「うーん、そうだなあ。とりあえず現実を見せてやるか」


 僕は彼らの物言いに一抹の不安を感じつつ、受け入れてもらえたことにひとまず安心した。


「よし、ついてきな。街まで案内してやる」

「ありがとう……僕は反町武って言います」


 ひとまず、自己紹介をする。僕は礼儀正しいのだ。


「俺はアニクだ」

「アタシはジャータ」


 アニクは僕の肩を叩き、ジャータはムスッとしながら自己紹介をした。


「この森は安全だが、油断するなよ。あとお前の命は俺らが握ってるようなもんだから、変な気を起こそうとするな。いいな?」

「は、はい」


 仮面をつけたまま凄むアニクに僕は完全にビビッてしまい、上ずった声で返事をする。

 この人、体は大きいし強いしで、変な気を起こそうものなら僕程度一瞬で塵にできそうな気がするんだよなあ。


「……お前のそれ、邪魔だな」

「え、この足枷ですか?」


 僕の足首につけられた足枷を指差し、アニクは言う。

 手錠は荷物運びのために取ってもらえたものの、足枷は逃亡防止も含めて外されなかったのだ。逃げて行った奴隷たちも足枷に足を取られながら懸命に逃げていた。


「そろそろ切れてきたから、補充するか」


 そう言ってアニクは、懐から何かをゴソゴソと取り出す。

 手に取ったのは、明らかにウィスキー的な見た目の何かだった。

 まさかこのタイミングでお酒なんて飲まないだろうと思った僕は、我慢できずに聞いてしまう。


「それ、なんです?」

「ぐっ、ぷはっ、効くなこりゃ……ん、なんか言ったか?」

「なんでもないです」


 酒じゃねえか!

 流石にタマを握られている状態でツッコミは入れられないので、死んだ顔で彼が一杯やる様子を見守る。


「よし、それ外すか」

「え、この足枷の鍵とかあるんですか? ああ、この人たちが持ってますね多分」


 足枷を指差すアニク。

 奴隷商人の死体でも漁れば、確かに鍵が見つかるかもしれない。


「いや、そんな時間はねえ。こいつらの本当の取引相手が来たらコトだからな……ほれっ」


――ガキン


 小気味いい音とともに、僕の足枷は外れた。


「え、ええええっ!?」


 僕はアホみたいな顔をして自分の足首のあたりを見ている。

 アニクは、その腕力で持って鎖を引きちぎったのだ。


「足首に残ったのは小粋なアクセサリーとでも思っておけ。さあ、街に行くぞ」

「あんたが仕切るなって」


 ジャータがアニクの頭を叩き、彼らは北の方角に歩いていく。

 僕は慌てて彼らを追った。







 街には、歩いて二時間ほどでたどり着いた。

 明かりが薄っすらと見えていたのはここだったのかと納得するほど、強い光が見える。

 自然界ではありえない緑、紫、ピンクといったギラギラした光。

 これはもしかしてアレなんだろうかと不安になりながら、いやいやきっと夢の島の不思議な光に違いないと自分を納得させる。


 街に近づいて、入口まで差し掛かったところでアニクとジャータは仮面を投げ捨てた。

 僕は彼らの素顔なんかよりも、街の様子に釘付けだった。そして叫び声を上げる。


「ネオンライトじゃないか!」

「うおっ、なんだ急に。俺様の素顔が“ねおんらいと”とやらに似てたのか?」

「い、いや、あの光ですよアレ」


 ネオンの光に照らされたギラギラした通りを指差す。

 ネオンの光で照らされた文字は人妻なんとかだとか制服うんたらだとか書いてあった。僕の故郷の繁華街でも見られる光景だ。

 そもそも、街の入り口に風俗街なんてありえない。


「なんだ、遊んでいきたいのか? お前金ないから無理だぞ」

「いやいや、なんであんなものがこの島の街にあるんですかって話ですよ!」


 僕の悲痛な叫びに、ジャータお姉さんが口を開く。


「……この島の価値を知った人間は、お利口な学者様だけじゃなかったってことさ」

「つまり?」

「金儲けしか考えてないような人間が集まれば、そりゃこうなる」


 ジャータはそれなりに街の歴史に詳しいようで、僕に簡単に説明してくれた。

 調査団が持ち帰った成果があまりに協力だったため、各国が調査隊を派遣。どこからか情報が漏れたのか、トレジャーハンター紛いの連中が入り込んだり先見の明があった組織が島に移り住んできたりしたそうな。

 その後、戦争のようなものが何回か勃発しながら人間の集合体が住みよいところに集まり、街を形成したとか。

 街とは言うが、ここは大都市に匹敵するくらいの広さを持っているらしいので様々な勢力が牽制し合いながら微妙なバランスを保っているとジャータは言う。


「荒くれが多いから、こういう産業も盛り上がるんだよ。あとはクスリとかもね」

「ジャータさんが燃やしたやつみたいな?」

「そうだよ。新しく輸入されると商売敵に負けるってんで、ウチのとこに依頼が来たんだ。ブツを燃やしてこいってね」


 なんと、ダメ絶対という使命感で薬物を排除したわけではなかったのか。

 ガラが悪いけどおクスリなんて許さない、正義の味方だと僕は都合良く脳内変換していたのだけど、彼らはまごうことなきアウトローの住人だったみたいだ。

 僕の中の、夢の島のイメージが音を立てて崩れていく。


「クスリというか、人がキマっちゃうような薬物を商売として売ってるところがあるんですか」

「あんま強いのはこっそりだけどな。そこまで中毒性がヤバくないのは普通にコンビニとかで売ってるぞ」


 コンビニあるのか夢の島。


「最悪だ……夢の島サイアク」

「あんたが勝手な幻想押し付けてただけでしょうが。そんなもんだよ」

「うう……」


 ジャータの無慈悲な一言に、僕は項垂れる。

 未開の住人たちとのコンタクト、未知との遭遇、命からがら未発見の遺物を発見。そんな夢描いていた冒険はここにはなかったのだ。

 ショックでふらふらと客引きのお姉さんに引き寄せられる。おっぱい大きいなあ、癒されたい。


「お、ボク、一晩どうだい?」

「色気もへったくれもない誘いだけど、いまの僕は傷ついているので癒されたいです! よろしくおね――ぐえっ」


 水商売系のお姉さんの胸元へダイブしようとしたところ、アニクのお兄さんに首根っこを掴まれる。


「おいおい、お前にはやってもらいたいことがあるんだ。遊んでる暇はないぞ」

「……夢破れ、自由まで奪われる不幸」


 マジ泣きする僕にアニクは引きながらも首を掴んで運ぶ。借りてきた猫のようになる僕。


「せっかく捕まえられそうだったのに。アニクとジャータの連れじゃいただけないね」

「悪いね。仕事の続きなんだ」


 お姉さんとジャータは会話を交わし、手を振り合って離れていく。知り合いだったようだ。


「……お前、俺に感謝しろよ」

「え?」


 童貞を卒業するチャンスを奪われ、憎悪すら湧いてるんですが。


「あの女は男のケツを掘るのが大好きなんだよ。特にお前みたいな若くて、少年っぽいやつの」

「ひ、ひい!」


 僕はアニクに宙づりにされた格好のままお尻を抑える。

 後ろを振り返ると、お姉さんは僕のお尻をロックオンして舌なめずりをしていた。


 僕はアニクに引きずられ、酒場のような場所に来た。

 酒場と言えば情報収集の王道。夢の島の現実を知らなければ心躍る場所だったに違いない。

 騒がしくて粗野な輩が集まっているかと思ったが、そんなにうるさくはない。

 しかし、もっと問題なことがある。


 客がなぜかコスプレをしているということだ。

 ある者はメイド服、ある者は猫耳、ある者は西洋甲冑である。

 風俗街だと思っていたらオタクの街になっていた。僕の精神は摩耗し、とても平常ではいられない。

 癒しが必要である。具体的にはメイドのお姉さんによしよししてもらいたい。


「ほら、何ボーっとしてんだ。個室行くぞ」

「え、こんな酒場みたいな場所に個室とかあるんですか」

「おまっ、そんなこと言ったらマスターに殺されるぞ」


 アニクはビビりまくっている。

 銃とナイフでやり合う男がこれだけビビる男ことマスターは穏やかそうなダンディだったけれど、きっと僕なんかが歯向かったら一瞬ですり潰されるのだろう。


 個室はなかなか清潔で、丸テーブルとパイプ椅子の並んだ会議室のような部屋だった。

 というか会議室だ、これ。


「ここが個室……」

「もっとくつろげる部屋もあるんだが、そっちは高いからな。俺らにはこれで十分だ」


 アニクはパイプ椅子にどかっと座ると、ここに来る途中でマスターからもらった酒とつまみを取り出した。

 僕はジャータがぷりっとしたお尻をパイプ椅子に乗せるところを凝視していた。それに気づいたジャータが僕を睨む。


「あんた、どうしようもないエロガキだね。燃やすよ」

「ひい! 違うんです!」

「そんなんじゃそこの筋肉みたいなどうしようもないやつになっちまうよ。歳はいくつだい?」


 筋肉ことアニクを形のいい顎で指してジャータが言う。


「十八ですけど」

「え、十八……」

「お前タメかよ」


 お二人がドン引きしている様子が伝わってくる。確かに僕は背も小さいし、顔がプリティなので年相応に見られないのは仕方ない。

 それよりも、聞き捨てならないことがある。


「え、タメ? バベルが上手く機能してないのかな……アニクさん何歳なんです?」

「だからお前と同じ十八歳だよ」


 アニクお兄さんは同い年だったらしい。ティーンにはとても見えないその風貌は、三十歳のイケオジと言っても違和感はない。


「なんだあ、同い年だったんだ。へへっ、これからよろ乳首!」

「お前、あんま舐めた態度取ると殺すぞ」

「ひい! 違うんです!」


 ガチャリと頭に拳銃を突きつけられ、僕はごめんなさいをする。タメということで慣れ慣れしくし過ぎたようだ。

 冗談もわからないアニクは、ジャータとこそこそと「あいつ大丈夫か」、「何もないよりはマシだろう」などと丸聞こえの相談を目の前で繰り広げる。


「とにかく、お前にはやってもらいたいことがある」

「はい」


 僕は神妙に頷く。ふざけたら眉間に穴が空いてしまいそうだからだ。未だに拳銃がこっちを向いている。


「俺らはヤクの取引を潰した。相手も恨んでいるはずだ。商人は始末したし、奴隷たちは俺らのことを知らねえから大丈夫だとは思うが……」


 アニクはドンッと拳を机に置く。


「報復がないとも限らねえ。今夜、俺のところに依頼出してきたやつが取引相手を完全に潰すつもりだ。それに加勢する」

「ばいおれんす」

「うるせえ。俺らもここまでのことは滅多にやらない。だが、あいつら俺たちの王のシマで好き勝手やってた新興だ。潰しても構わねえ」


 アニクは再度机に拳を叩きつける。とても怖いのでやめてほしい。


「王様とかいるんですか」

「王様っていうか兄貴分っていうか、アタシたち魔窟組の取りまとめよ」

「魔窟?」


 なんだか、ちょっとファンタジーっぽい要素が出てきたんじゃないだろうか。

 冒険家としてのワクワク心が湧いてくる。


「ゴミ溜めみたいなとこだな。貧民街とかクソの集まりとか言われてる」

「最悪だ……」


 ファンタジーでもなんでもなかった。やはり彼らはアウトローな連中で、その教育レベルも僕(中学校修了)以下のようだな。


「ウチの王は魔窟出身者集めてこの辺の盛り場まとめてんのよ。そこで危ない方のヤクまでバラまかれたから切れてるってわけ」

「こっちで扱ってるクスリは割と安全にキマるのをダチが扱ってるからな。そこを崩したとなれば戦争よ」


 安全にキマるってなんだ。

 僕もあまり治安の良い地域にはいなかったと思うけど、おクスリに危ないもクソもなかったと思う。


「ええと、僕は何をすれば」

「俺が商人のフリして奴隷連れてカチコミに行く。油断したところを内部からズドンだ。その奴隷がお前」

「その作戦大丈夫!?」


 あまりにも杜撰な作戦に僕は思わず立ち上がって叫ぶ。そして比較的まともそうなジャータさんに助けを求める。


「ジャータさんからも何か言ってくださいよ!」

「こいつ、アホだからしょうがないさ。だけど、王のメンツ潰されてイライラしてるのはアタシも同じなんだ。こいつは更にブチ切れてて、自分で一番槍飾りたいんだと」

「ええ……そんなの一人でやってくださいよ」


 とばっちりである。僕がいなくてもいいと思う。


「俺一人が商人のフリしても説得力ないからな。見るからに奴隷って感じのお前がいれば少しは騙せるだろ」

「いやあ、無理だと思うんですけど……というか、それ僕じゃなくてもその辺のやつでいいですよね?」


 僕の当然の疑問に、アニクは首を横に振る。


「こんな危ない真似、お前みたいにどうでもいいやつにしか任せられないだろ! ちなみに、逃げたり裏切る気配感じたら殺すからよろしくな!」


 爽やかさすら感じる笑顔でそんなことを言われ、僕は項垂れる。

 意気消沈する僕を見かねたのか、ジャータが僕の肩に手を当てる。


「まあ、これを乗り切ったらあんたのこと認めてやるよ。場合によっては、国に帰る手当くらい出してやってもいい」

「国に……」


 確かに、この島のこんな現状を見たら冒険なんて気分にはならなかった。

 国に帰ったら風俗に沈んだ母さんや姉さん、マグロ漁船に乗った兄さんと父さんが待っているかもしれない。


「よし、決まりだな。ほれ、俺の予備の銃貸してやる。殺気感じたら逆に殺すからな」

「はいともいいえとも言ってないんですけど」


 僕の意見は当然のごとく無視され、商人の服装に着替えたアニクに連れられて個室から出た。

 アニクから借りた拳銃は僕の腰に直接ホルスターがつけられ、僕の奴隷用の貫頭衣に隠される形となった。


「時間がねえ。急ぐぞ」

「スケジュール調整どうなってるんだ……」


 僕はアニクに引きずられ、どこかへ向かう。おそらく、商人の取引相手のところだろう。

 ジャータはやや後方から人に紛れてついてきていたようだが、いつの間にかいなくなっていた。


 五分ほど走ってから呼吸を整え、歩くこと十分ほど。

 たどり着いたのは寂れたビルのような場所。この島にビルがあることは、ネオン街の一件もあるのでツッコまない。

 周囲は入り組んでおり、路地裏は夜の影響もあって真っ暗だ。


「ここにカチコミに行くのかあ」

「お前、あんまり喋るなよ。ボロ出しそうだから」


 正直なところ、アニクの方も心配であるがほとんど街の事情を知らない僕以下ってことはないだろう。

 僕も心を決めて服の下の銃に触れ、気合を入れる。隣でアニクが酒を飲んでいたので、気合はすぐに削がれた。


 ビルの入り口には二人の男がいた。

 アニクは二人の男に話しかける。僕は奴隷なので一歩どころか五歩ほど引いたところで様子を見ているので何を話しているのかわからない。

 すると、アニクは突然男二人を目にも止まらぬ速度で殴りつけ、気絶させた。

 僕は慌てて彼に駆け寄った。


「ちょ、何やって……」

「こいつら門番みたいなもんだしな。倒しても問題ねえよ」


 いや、建物の中から様子を伺ってるやつとかいたらどうするんだ。

 アニクの楽観的というか頭がハッピーな様を見せられ、僕は不安だった先行きが絶望的なものになるのを感じる。

 僕が死ぬのは確定として、超人じみた力を持つアニクも生きて帰れないのではないかと思う。


「よし、行くぞ」

「……うん」


 僕は絶句しながらも、アニクの後を追う。

 ビルの中は薄暗く、最低限の明かりがついているだけだった。

 ランタンや蝋燭などの古典的な明かりが置いてある。廃墟を住処にしているのか、ここには電気が通っていないみたいだ。

 暗い道を、時に階段を上り進んでいく。


 やがて、強い明かりが見えてくる。

 いち早く僕らの気配に気づいたのか、声をかけてくるものがいる。


「おい、何者だ」

「……ヤクの取引をするはずだった者だ。失敗しちまったが、奴隷だけは連れてこれた。敵の情報を伝えたい」


 意外にも、アニクは疲労した商人といった感じを演出してみせた。声を荒げ、何かから逃げてきた後のようにも見える。

 僕はアニクに押され、その場に躓く。


「なるほど……失敗の責任は取ってもらいたいが、情報が先だな。言え」

「ああ。敵は三人組、男二人に女一人だ。大事な話だから、こっちのボスにも聞いてもらいたいんだがいるか? 俺は下っ端だったから誰が誰だがよくわからねえ」


 下っ端だからよくわからないという論理は、通用するんだろうか。

 ビジネスというものにある程度の厳格さを求める僕にとって、下っ端といえど取引相手のことを知らないのはいかがなものか。大会社の下っ端じゃあるまいし。


「ボスは俺だ。主要なメンバーは粗方いるな」


 相手の頭もあまりよろしくないらしい。もう少し疑ってもいいんじゃないかと思う。


「そうか。それで、敵の情報だったな……敵は胸のデカい女、スケベそうなガキ――」


 スケベそうなガキとは僕のことか。


「そして俺だ! 残念だったな、死ね!」


 急なネタバラシに僕はびっくりして、ぽかんとしてしまう。

 敵の本拠地に乗り込み、内部から攻撃する。確かに作戦通りではあるが、あまりにも唐突で計画性がない。

 敵の主要メンバーがいると聞いた途端に暴露して暴れ出すなんて、脳内にゴリラでも住んでいるんじゃないか。


「なっ――こいつ、取引を邪魔した主犯か!」


 ヤーさんっぽいみなさんはアニクに向けて発砲するが、アニクはぬるぬるとした動きで銃弾の雨を回避すると近場の敵から次々に切りつけ後方にいる敵には鉛玉をお見舞いしていく。


「ぐあっ、こいつ強えぞ」

「おい、用心棒! 頼む!」


 用心棒と呼ばれた人物はボスの後ろに控えていた男で、彼は長い槍を担いでアニクに突撃していく。

 アニクは銃で応戦するが、男は槍でそれを弾いていく。どちらも化け物である。


「うおっ、こいつはやべえ。傭兵か、あんた」

「……ああ。お前のような戦士と戦えるのは光栄だ」


 アニクと男は互いに近づき、銃と剣と槍の激しい戦いとなった。周囲の者はその戦闘の激しさに手を出せずにいた。

 ふと、僕は横から男が近づいてくる気配を感じた。


「うわっ!」

「いでっ、てめえ、何しやがる!」


 僕は廃ビルの建材が剥がれたものなのか、手近にあった石で思い切り男の頭を殴った。

 どうやら、僕を人質に取ろうとしたようだ。捕まっていたらアニクには見捨てられてただろうから、僕に人質としての価値はない。

 残念だったな! と思いながらも、僕は心の中で泣いた。


 僕が殴った男はふらついていたので、追い打ちとばかりに石で殴り続ける。


「このっ! このっ!」

「や、やめ――ぐえっ」


 男は血を流し、蛙を踏み潰したような声を上げて倒れた。

 そして、僕はそのまま脱兎のごとく柱の陰に隠れた。続いて銃声が聞こえ、おそらくは僕のいる柱を狙って矢継ぎ早に撃たれている。

 出口に向かって逃げたいが、アニクの凶行により出口は敵に塞がれている。


「クソ、埒が明かねえ! 用心棒、避けろよ!」


 自らをボスと言った男は、茶色っぽい筒を取り出すと導線のようなものに火をつけた。それをアニクに向けて放り投げる。

 もしかしてアレは爆弾というやつだろうか。


「うおお! あいつ頭イカレてるな!」


 アニクは慌てて出口に向かって走り出した。

 僕は君もどっこいどっこいだぞと思いながらも、アニクが逃げ出すころには出口に向かっていた。

 二人が出口前にいるが、突然の爆弾に動揺しているのか何もしてこない。

 僕は銃を取り出し、発砲する。しかし、外れてしまう。


「当たらない! クソッタレ!」


 このまま良い的になってしまうかと思ったが、このタイミングで爆発が起こる。

 彼らは体を硬直させている。

 僕はまだ小脇に抱えていた石を片方の男に投げつけた。

 男の眉間にクリーンヒットし、一瞬白目を向く。

 もう片方の男が銃を構えるも、僕の背後からチーターのような俊敏さで飛び出したアニクが蹴り倒した。


「お前、意外とやるな。暴力に躊躇がねえ」

「嬉しくない誉め言葉ですけど、自分でも驚いてますよ」


 走りながら、アニクとともに外へと向かう。

 敵はまだ爆弾を持っていそうだし、あのまま狭い中で戦うのは不利だろう。


「彼らまだ追ってくると思いますけど、アニクさんどうするんですか」

「そろそろダチが援軍連れて来るんじゃねえか。約束したしな。何人か連中仕留められたし、こんなもんでいいだろ」


 どうやらアニクは満足したらしい。

 これで僕もお役御免になるとありがたい。


 ついに外に出る。

 その時、アニクが突然携帯電話を取り出した。文明機器については、もはや何も言うまい。


「おう、俺だ。あん? なんだとてめえ、寝坊したから遅れるだと? 今向かってる?」


 なんだか、不安な通話内容が想像できてしまった。

 僕は何も聞いてないというスタイルでこのまま帰りたい。


「……お前、動けないデブとかただのデブだろ。チッ、わかった。早くしろよ……おい、ダチがまだ来られねえからあいつら足止めしないとならねえ。手伝え」

「ええっ! 僕完全に足手まといですし、もうよくないですか?」

「あの槍野郎がいたら結構キツいからな。ジャータもどっかにいるんだろうが、あいつは正面には出てこないはずだ。お前と俺とでやるんだ」


 恐ろしいプランを聞かされ、涙目になる僕。

 それでも、拒否権はないんだということをアニクが押し付ける拳銃から悟って泣く泣く頷いてしまう。


「クソー! 寝坊ってなんだよ! どういう文化なんだこの島!」

「こんなもんだよ、この島」


 アニクの慰めなのか判断しづらいフォローが飛んでくるが、僕のやさぐれた心は癒されない。

 ついには銃弾が飛んでくるし、路地裏に身を隠すしかなくなる。


「クソッタレ! 風俗に行ってパネルと違う女が出てきた気分だよ僕は!」

「おお、お前風俗行ったことあんのか」


 アニクはへらへら笑いながら銃弾を弾き、撃ち返している。

 極限の状態に僕の何かがキレ、叫ぶ。


「あいつらも、あんたたちも、この島も! みんなクソッタレだ!」


 そう、ここはクソッタレ・アイランド。

 夢なんて何もない絶望と欲望の島である。

 僕の叫びは敵に放ったロケット弾の爆音にかき消された。

 敵の狙いが悪かったのか、僕は爆風に巻き込まれなかった。というよりも、爆風は発生しなかった。

 不発弾だろうか。なぜか足元には花びらが散らばる。


「おい、離れるぞ」

「え? 何が……」


 アニクは僕を抱えて、後方に下がった。

 それから間髪入れずに、僕らがいた場所から炎が上がる。炎はまるで意思があるかのように広がり、敵を包囲する。


「しかし、人間にロケット砲なんかぶっ放すかね。ジャータがいて助かった」

「ちょっと理解が追いつかないんだけど……」


 火の海の向こうでは、慌てふためく声が聞こえる。


「なんだこれは!」

「もしかして花炎巫女ヴェータスがいるのか!?」


 ヴェ〇タースみたいな言葉が聞こえた。おじいちゃんのくれる飴ちゃんの話だろうか。

 僕がそんなことを呑気に考えていると、炎の中を突っ切って誰かが来る。


「炎になど臆さぬ。勝負だ!」

「槍野郎か! 俺が相手するから手を出すなよ!」

「絶対に出しません」


 超人同士でやり合っていただきたいものである。

 槍の人に感化されてか、ガタイのいい男たちは炎を突っ切てくる。

 端っこの方にいる人になら撃っても誤射しないかなと思い、火の熱さで転げ回っている男に向けて発砲する。


――パンッ


「あ……」

「あぶねえ! お前、何しやがる!」


 うっかり、アニクの方に向けて撃ってしまったらしい。アニクはそれでペースを崩されたのか、槍の人に主導権を譲ってしまう。

 おかしいな、まったく違う方に飛んだ。

 もうしょうがないので、その辺に落ちているレンガを拾い上げてテキトーに投げる。


「えいっ」

「――ぐあっ」

「――うぇっ」


 二人の男の眉間にレンガ石はヒットした。

 僕、野球とかやってみたらいい線いくんじゃないだろうか。


 その時、僕は後ろから不穏な気配を感じて咄嗟に前転した。


「あぶなっ!」

「ちっ、外したか」


 男が鉄の棒を僕に振り下ろしていた。

 幸い、この男は拳銃を持っていないようだった。周囲にはもう投げられるようなものはない。

 暗い中、必死に目を凝らすと僕は何かを見つけた。


「こ、これは……」

「おう、お前そんなものどうする気だ?」


 鉄パイプのようなものを持っている男に対して、物干し竿を装備した僕。戦力差は明らかである。

 僕はふと思いたち、槍の人の動きをジッと見つめる。


 僕は昔から、モノマネが上手かった。

 手先は器用、物覚えも早い。友達には猿真似だと笑われたけど、一流から何か学べたらそれは大したものだと思う。

 槍の男、戦士の動きは本物だ。長い槍、接近戦には向かないはずの武器を手足のように扱うその技量。

 僕の物干し竿は彼のものよりも短い。もしも彼の槍がこの長さなら、彼はもっと上手く戦えてたのではないかと、そう思わされる。


「何をボーっとしてやがる!」

「うるさい」

「ぐえっ」


 喉を一突き。男はそれで動きを止める。

 喉を手で抑えた隙に、目を一突き。


「がぁぁっ!」


 目を抑えて蹲る男。しかし、物干し竿ではピンとこない。

 男の髪を掴み、顔に膝を入れる。

 何度も、何度も、何度も。


「も、もう、やめっ、やめてくれ!」

「はい」


 放っておくとまた後ろから襲われそうなので、顔を地面から少し浮かせて状態でかかとで蹴りつける。下は石畳みで、男はその衝撃で気絶してしまった。

 僕は戦利品として、鉄の棒を入手した。


 アニクの周囲には、火を抜けた男たちがいる。多勢に無勢だ。

 僕は鉄の棒を持って走る。


「覚悟!」


 アニクの後ろから、男が殴りかかろうとする。


「更に覚悟!」

「ぐぅ――があっ!」

「おおっ、サンキューなタケル!」


 アニクの後ろから襲いかかろうとしていた男を、僕が鉄の棒で殴る。

 たまたまアニクが避けた槍がその男に刺さってしまい、男はもんどりうって倒れる。

 そのせいで槍の動きが阻害されたのか、今度はアニクが攻勢に出る。


「ぬぅ、邪魔を!」

「えいっ」

「くっ、貴様も……」


 なんとなくできる気がして、その辺の石を槍の男に投げてみた。

 投げた石が男の動きを鈍らせる。アニクのナイフが槍の男に届いた。


「タケル、こっちは邪魔すんな! これは俺の獲物だ!」

「ええ……戦闘民族みたいなこと言ってる」


 僕は周囲の人間の相手をすることにした。アニクが戦いながらも倒したのか、結構な人数が転がっている。

 まだ立っている男に、僕は鉄の棒で襲いかかる。


「それなら、こっちの人を!」


 ごめんなさい、と思いつつも鉄の棒をフルスイングして頭に叩きつける。

 避けようとしていたので、弾道を予測するように男の頭を棒の芯で捉えた。


「ホーッムラン!」


 男は転がり、そのまま動かなくなる。僕は爽快感と手の痺れから鉄の棒を落とし――。


――パアン


「うげぇ!」


 僕は足を撃たれた。

 ガッツポーズをしようとしたら、後ろから撃たれたのだ。

 もう一撃が来る前に、動く。


「いま撃ったのはお前かっ!」

「うわ、わ、来るな!」


 アドレナリンが出ているのか、足の痛みはそんなでもない。

 男が僕に向かって発砲するが、照準が合ってないのか当たらない。

 僕はそのまま男を殴り、足を引っかけて倒れた男の頭に鉄の棒を振り下ろした。


 ここで、僕の足ががくんと落ちる。


「あ、やばいかも……足が動かない」

「おい、タケル大丈夫かよ」


 アニクが槍の男とやり合いながら僕に声をかける。

 見ればアニクも、相当血まみれだ。槍の男にもダメージを与えているものの決定打にはなっていないようだった。


 もうダメかと、諦めかけたその時。


「へたってるんじゃないよ!」


 瓶が投げ込まれ、たちまち周囲が炎上した。

 火は僕らと槍の男を分断するように燃え広がり、それどころか炎が意思を持っているかのように槍の男に襲いかかった。


「これは――この火と戦うのは骨だな」


 槍の男は、身軽なのか火の包囲網から路地裏の壁を伝って逃げ出した。

 しかし、まだ敵はいる。


「おい、用心棒! お前最後まで戦え!」

「給料分は戦った。あとはお前たちでやれ」


 ボスの文句を鼻で笑い、槍の男は闇へと消えた。

 ボスの声は怒りに震えている。


「クソっ、使えんやつめ……俺らもやぶれかぶれだ! 炎に突っ込んで連中を殺せ。もし臆するようなやつがいれば俺が撃つ!」


 ボスの号令に、次々に炎の向こう側にいた連中が火だるまになりながら突っ込んでくる。後ろから発砲音が聞こえるので、ボスは本当に仲間を撃っているようだ。


「ちくしょう、酒が切れてきやがった」

「ここでお酒の心配!?」


 あまりにも呑気なアニクに僕は呆れてしまう。

 そんな僕らの下に、一人の巨乳――いや女性が現れた。


「あんたたち、しぶとく生きてたんだね。タケル、その目やめな。燃やすよ」

「ひい! 違うんです!」


 胸をジッと見ていたのがバレてしまったが、その女性はジャータである。

 そして、ジャータの後ろからも続々と人が雪崩込む。

 特に大柄な、横にも大きい人影が風を切って通り過ぎる。一瞬だけ目の端で捉えた姿は、まさに動けるデブという感じだった。


「あいつが来たんなら終わりだな。あとはザコばかりだし」

「そのザコにやられそうになってたんじゃないか、あんたは」

「うるせえよジャータ。酒飲んでその片手間に片づけられたさ」


 炎の奥で残虐ファイトでも行われているのか、ボスやその仲間たちの悲鳴が聞こえる。

 炎から抜け出した方々も、後から来た人たちに綺麗に片づけられて拘束された。

 これで、終わったんだ。


「終わった……あ、痛ててて!」


 安心したと同時に、足の痛みが倍増した。そう、太もものあたりを撃たれたんだった。


「傷口焼いとくか?」

「痛てて……いや、何ですかその狂気の発想」

「消毒とかしといた方がよさそうじゃね? 酒いる? いてっ」


 見かねたジャータがアニクの頭を叩く。

 ジャータは応急処置セットを持っていたのか、消毒液のようなものを傷口にかけてくれた。


「痛い!」

「我慢しな。これでも、こいつはあんたのこと心配してるんだよ」


 ジャータがアニクを指して言う。アニクは照れくさそうに頭をかいた。

 あの狂気の発想は、心配による産物だったのか。頭が湧いているとしか思えない。


「まあ、お前はよくやったよ。生き残るどころか、敵に勇敢に立ち向かった。立派な戦士だ」

「いやそんな……あの時は僕も無我夢中で」


 面と向かって褒められると、なかなか照れるものである。

 戦闘中は気に留めなかったが、僕も無謀なことをしたものだ。

 だけど、これで僕は幸福とは言えないまでも安全な国に帰ることができるかもしれない。


 敵の殲滅が粗方終わったのか、炎が消化された。水などは使わずに一瞬で。後には花びらが残る。


「それであんた、これからどうする? かなり役に立ったみたいだし、ウチの王に話通して帰れるようにしてやってもいいよ」


 ジャータが僕の傷口に包帯を巻きながら言う。

 彼女の話はありがたい。正直、僕はもうこの島がこりごりだった。


「その方がありがたいです。僕は、もう帰りたい」

「何言ってんだよタケル。お前は結構やるやつだ。俺の子分にしてやる」

「いや、ほんとそういうのいいので……」


 アニクがバンバンと背中を叩くせいで、振動が伝わって傷に響く。

 彼の子分になんかなったら命がいくつあっても足りないので、全力で遠慮させていただくつもりだ。

 どうせならジャータの弟にでもなって、毎日あのおっぱいで甘やかされるとかそういったご褒美感のある舎弟になりたい。


「んだよ。ノリが悪いな……それなら、宴会には来いよ。嫌だとは言わせねえぞ」

「え、宴会ですか」


 正直、ノリと勢いが支配する騒がしい場は苦手である。

 僕は中学生の頃、運動会で女の子がブルマじゃないことにブチ切れたり大玉転がしが楽しくて観客席まで突っ込んだりしたおかげで腫物扱いされて以来お祭り騒ぎが嫌いなのだ。


「お前が何と言おうと連れて行くぞ。ほれ、会場押さえろよ」

「だから命令すんなっての。どうせいつもの屋台でしょ」


 そうして僕は、アニクに連行された。

 この宴会さえ乗り切れば国に帰れるのだ、我慢する他ないだろう。

 だけど素敵なお姉さんやボディタッチ多めのお姉さんが宴会にいて接待してくれるのなら、僕も気持ちよく宴会の空気に飲まれてやろう。







 宴会は最悪だった。

 ムサ苦しいおっさんしかいない。

 動けるデブの人とその部下たち、あとアニクとジャータが宴会のメンバーだ。

 かろうじてジャータが女性だが、彼女が僕に接待なんてしてくれるわけもなく。


「おーい、サイ。胡椒餅とパラーターとチキンカレー、サモサとパオパジ……あとゴピライスをテキトーに頼む」

「あいよー」


 屋台もおっさんだらけだった。おっさんはアニクの長くていい加減な注文を受けると自分の屋台の前でガサゴソと準備し、の屋台に注文を回す。

 そう、ここには大量の屋台が並んでいる。

 まるでお祭り騒ぎだけど、アニクに聞くとここはいつもそうなんだとか。

 そして、この屋台の行列は朝方まで続くらしい。


「宴会っていう割にはお酒とか出てこないんですね」

「酒は勝手に持って来るやつもいるし、頼まなくてもついてくるからな」


 アニクは長机の上にドンと酒瓶を置いた。屋台の側には長机がたくさん置かれていて、僕たちはそこの一角を占拠して座っている。

 時折、アニクに声をかける強面のお兄さんやキャピキャピしたお姉さん(なぜ引き留めてくれなかったのだろう)がいて、彼の人望が伺える。


「はいよー。頼んでたのテキトーに持ってきたよー」


 屋台のおっちゃんが大量の料理を腕すべてを使って持って来る。サーカスにでも売り飛ばしたら高い値がつきそうな特技だ。


「よし、乾杯するぞ。俺たちの勝利に! 王に! 乾杯!」

「乾杯!!」


 ムサいおっさんたちがアニクのかけ声に合わせて声を震わせる。とてもうるさい。

 ジャータから離れないようにしなければ、たちまち漢気にやられ僕も将来的にムサいおっさんになる未来が訪れるだろう。


「おい、タケル。お前も飲め。ほら、今回の功労者はお前だ!」

「い、いえ、僕も未成年ですし……」

「は? 何言ってるんだ? いいから飲め、ほら!」

「あっ――何するんだ! うっ」


 僕はアニクに顔を掴まれ、度数の高そうな酒を流し込まれる。


「うええっ、まずい! クソッタレ、クソッタレな島だよここは!」

「酒飲まされたくらいで何言ってんだ。ほれ、もっと飲め」

「ちくしょー、こうなりゃやけだ!」


 僕はなんだか気分が悪いような、良いような不思議な心地でアニクからもらった酒に手をつける。


「おお、いいぞ。戦士ならもっと飲め」

「うう……まさか初アルコールがこの島なんて」

「いい加減この島への幻想捨てろよなー。しょうがねえ、何人か若い姉ちゃん呼んでやるか」


 アニクの言葉に、朦朧とし始めていた僕の頭が覚める。


「え!? おっぱいの大きいお姉さんたち!?」

「いや、そうは言ってねえ。小さいのもいるぞ」


 小さいのもいるってことは、大きいのもいるってことだ。

 アニクは動けるデブさんに蹴りを入れると、お姉さんたちを呼ぶように指示を出す。

 まさか、アニクにこんな心意気があるなんて。僕は少し、兄貴と呼んでしまってもいいかななんて思い始めた。


 お姉さんたちが来る頃には、僕はだいぶできあがっていた。

 僕はふわふわした心地の頭で、お姉さんにしがみついたりうっかり間違えてジャータに抱きついて貫頭衣に火をつけられたりした。

 そして、少し眠ってしまっていたらしい。


「おい、起きろタケル。そろそろ日が昇るぜ。日の出は見応えあるから酒の肴にしよう」

「うーん、もうお酒はいいよう」

「うるせえ起きろ」

「ぎゃんっ」


 アニクに蹴り起こされ、僕はコブができてないか心配になって頭を押さえた。

 蹴りの影響か酒の影響か、頭がガンガンと痛んだ。最悪の気分だ。

 流石はクソッタレ・アイランド。帰る日の気分すらクソッタレなんて。

 きっと、今日帰れる。ジャータが王とかいう人に話を通してくれるんだ。


「ほれ、日の出だぞ」

「日の出なんて見たってこのギスギスガンガンした心は――」


――その光景を見た時、僕の頭は一瞬で覚醒した。


 日の光とともに、いや、日の光よりも一足早く。

 太陽を背負って走る。走るのは馬か、牛か。

 彼らが引く車に乗るは美しき乙女。輝く衣装に身を包み、剣を携えて舞う舞姫のように。

 彼女が剣を振ると、夜の闇が振り払われる。


「なんだよ……なんだよこれ」


 僕は東の空より現れた、輝く乙女と彼女を乗せる馬車に目を奪われ続けた。

 彼女は遠いようで、だけど僕の目に鮮明に写り夜の闇を晴らしていく。


「あれは、日の出の女神」

「日の出の、女神」


 いつの間にか側にいたジャータが、僕に教えてくる。彼女は指を組んでいた。

 気づくと、周囲の酔いつぶれていた男たちも薄目を開けて女神を眺めている。


「太陽を牽引する日の出の女神。彼女が現れて、ここの朝は始まる」

「俺たちの店じまいもな」


 サイと呼ばれた屋台のおじさんが、ニカっと笑う。


 僕は彼らの話を聞きながら、どこか夢見心地だった。

 そして、頭がぼんやりとし出してから別の声も聞こえてくる。


――よきものを伴いて、われらがために――よ。輝き渡れ、天の娘よ。高き光彩を伴いて、輝く女神よ。富を伴いて、女神よ。賜物に満ちみちて


 歌うようなその声は、どこかで聞いた響きだ。少女の声。

 歌が終わると、女神が闇を払い終えて去って行くところだった。

 そして、太陽が姿を現す。


――輝く標識は上方に運ぶ、一切が――を見んがために。


 歌が響く。太陽への讃歌。太陽という神を讃える歌。


「おい、タケル。おい」


 僕はハッとして、瞬きをした。

 夢を見ていたみたいだった。


「何を泣いてやがるんだ?」

「え?」


 僕はアニクに言われ、慌てて目を拭った。

 気づかぬうちに涙を流していたらしい。


「どうだ、この島は。今でもクソッタレか?」


 涙を流す僕の姿に何かを感じ取ったらしいアニクは、僕に問う。

 僕は少し考えて、さっきの感動を思い出して首を横に振った。


「……クソッタレだよ。この薬物、喧嘩と銃弾飛び交う街は」

「ほう、舐めたこと言うな」


 アニクが拳銃を手に、僕の眉間に押しつける。


「だけどさ、あんな素晴らしい景色が見られるなんて……この島にはもっと素晴らしいものがあるんじゃないかって、そう思わせてくれる」

「さあ、それはどうだろうな」

「僕が見つけるさ。そう、僕は勘違いしてたみたいだ。冒険はお膳立てされた神秘の中にあるんじゃない、自分で見つけるからこそ楽しいんだって」


 アニクは笑って銃を下した。

 僕はホッとして、空を見上げる。


 太陽は明るく輝いて、この街を照らす。

 太陽に照らされた街はそこかしこで喧嘩と諍いが起きて、朝っぱらからろくでもないことに興じている男女がいるんだろうけど。

 僕はこのクソッタレな街と島に、受け入れられた気がして。

 僕がこの街と島を、受け入れてしまった気がして。


 酔い覚ましに水を飲んで、笑って二度寝した。

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