鉛丹

何のしたたりか盥タライにも漏らさないほどの焦燥ばかり

乾いたうねりを空回りさせるもの。そのくらい遠いだけの道のりが、

私に釘を打ち、大嵐とも想われる風雪の渦すらやっかみをなすりつける

無用の遺品があります。

 

例えばどこに行くのかわからぬままま、ぼんやりとふらふらり。

雨垂れが肌を滑り好く くゆりまして、しまわれました、春の祝い

朱色の盃をこっそり持ち出しては酌み交わしたとき。

 

訝しげな表情で、みくだしては てをひきまして

勝手 噎せこんだのは、何方がはじまりでしたでしょうか

 

宵に奔られる鬼灯を頼りに、この一等客船は死にゆくことだけは

知っていてもこれはいずこへも、あなたのとこでございましょうから。

(しあわせと、有りや無しや)

とても とれやしない、おひ様で透かし見る、皺で決まる人生など

なんら意味はなく、ただ矢継ぎ早に信じて 言ったので、

これは ひとめぼれ であった のでしょう。


等々涙を零して私はあなたと指をくわえることにいたしましたと、

めでたし めでたシ。

 

小箱に命名された契りの痕は、やはりそう信じられていた迷信は

真っ白な敷布に爪を立て穴が開くほどみつめあい、赤く染まる、

聞き届けられない史が、四方に防波堤を打ち立て、なにやら

箪笥やら鏡やら嫁入り前かと莫迦に悟ります。

 

入口も出口も見当たりません。

けれども、ここばかりが楽園のようなひなたでありますので、

うたた寝、ちいとばかし躍らされて

夢のようなひととき 毎度毎度いただいております

 

対価が幾らかなどと考えるいとまもない、

あなたと私の孵るところで、さて如何いかがさま出逢いましょう。

生まれも知らず ゆくゆく迄、微笑んでいた花々のゆらめきに思えば、

蝋燭も吹き消される。漏れ出した吐露は、簡単に感嘆に。


あゝ てまえ、さようなら。とたゆたひ

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