虚脱

 ただ、離れ離れになったともしらず、花の褥で鳴いている雛鳥の旅立ちは、そっと心をくすぐるものです。

 あらかた歌い尽くした祀りの跡で、ぐらり 骸に還る、騙し舟の残夢 とでも申しましょうか。浮いたままの天涯が織り成す五色の御簾の残り香でもあります。


 しかしやはりここにも蓮の腹から日出ものありて。逃れることは叶わぬよう、そっと白鷺の細羽根で稜線を祓い、糖蜜の含み 頬の桜がたどたどしく、はらはらと、旨に積もる。

 毀れ眦を粘着する光に縫い止められ、簡単に風に運ばれていくものすら形を留めません。全て侵されて腐りゆく若奥様の歳月すら、楽な塩梅の水平環がテラスだけ 照らすだけ。

 追いかけることも厭わず踏み抜かれた血は拡がり、足早に孤影だけが波紋と魅せた、あなたは鳥に等しく。

 

 あなたは私であり、私はあなたである、決して色は見せません。

 おやすみになられて、はやばや 奈落へと落ちましょう。

 

 また明日も私から剥離していく衝動と記憶が作り出す 忌々しい未来を、過去にくるんでくれるのでしょう。戻れないだけの愛を溢れるほどに、この手で掴んで 離したくもないから、語ることもないから。

 

 その喉を絞め殺して泣かぬように哭かぬように。

 白き装束に描かれる、一途に ひたむきに 披瀝ヒレキして、そのうち泡の聲を望て 消え失せる。

 

 

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