第92話道端の哀花



道に咲いた花に思い出が香り着くまで明日に浸っている

あの日の約束が昇る今日もまた私の手を惹く風に

感じる時に同じく空の貴女を抱くのです


暑中見舞いは届かない場所に 往く為の捨石でした。

哀悼の意を貼り付けた伽藍洞の門扉は浮足だち

街燈の光を故意に瞬かせる。

祖の下で愛を捧げる者を覆う

宇宙に放たれた球体人形は軸を携えたまま

入念に踊りを呼応する星々がさんざめく

抑えきれない風で白シャツが朱く染まり

汚染された側溝から白湯が溢れている 。


花と便りとは、腰を折り 重なり手

終い 土壌に倒れ込み死す時に

褥に栄える者で在りたい。

残酷で惨めだ

そんな遺書で御座いました 。


彷徨の筆跡が繰り返し花を咲かせ 瞼の裏に、其れこそ

私だけのあなたに 出逢え、犯すも散らすも 自由に有る。


失せ物を外に押し出す時 小口は昨日砕け散った 

亡くなった瘡蓋が少し剥げたような歪なゆでたまご

半分こ して食べたい 少しだけ顔を除く殻だけの味噌汁

海まで続いている 貝殻の夕暮れは聞こえない


あれはいつの嵐か 今はもう和いで凪いで、

全く 子の成長は世知がないものです。

大きくなりましたか、

振り向きはしないどころか なんだか綺麗に慣れない

まま、くすぐったいだけの手を繋ぐ

小さな袖にほつれが見えるようだ

くすんでいるのに丸裸の銀杏並木も誰も。


オーロラをはためかせ空に個を描くとすれば

あれは嘘ではなく真実を射止めていたのだと

侘しいばかりで あれは涸れた骨のようだと

丸窓の隅から貴方はコロシテシマヘと宣いました


そのうち軒下の子猫は夢を翻すことだろう。屹度ね。

道端の哀花

- - - - - - - - - - - - - - - - -


原文

宇宙に放たれた球体人形は軸を携えたまま

入念に踊りを呼応する星々がさんざめく

オーロラをはためかせ空に個を描くとすれば

あれは嘘ではなく真実を射止めていたのだと

軒下の子猫は夢を翻すことだろう。

哀悼の意を貼り付けた伽藍洞の電柱は浮足だち

街燈の光を故意に瞬かせる。

祖の下で愛を捧げる者を覆う


花と便りとは、腰を折り 重なり手

終い 土壌に倒れ込み死す時に

褥に栄える者で在りたい。

そんな遺書で御座いました アナタの筆跡が

繰り返し花を咲かせ 瞼の裏に、

其れこそ私だけのあなたに 出逢え、

犯すも散らすも 自由に有る

暑中見舞いは届かない場所に

往く為の捨石でした。

道に咲いた花に思い出が香り着くまで


丸裸の銀杏並木なんて誰も

振り向きはしないどころか なんだか

侘しいばかりで あれは涸れた骨のようだと

丸窓の隅から貴方はコロシテシマヘと宣いました。

あれはいつの嵐か 今はもう和いで凪いで、

全く 子供の成長は仄暗い者。

大きくなりましたか、

ああ小さな袖にほつれが見えるよう

今日もまた私の手を惹く風に感じる時を同じく抱くのです


昨日砕け散った物を外に押し出す時

亡くなった瘡蓋が剥けたような ゆでたまご半分こ 食べたい

少しだけ顔を除く殻だけの味噌汁 海まで続いている

この夕暮れは残酷で惨めだ 抑えきれない風で白シャツが飛ばされて

汚染された側溝からお湯が溢れている

綺麗になれないままくすぐったいだけの手を繋いで

明日に浸っている あの日の約束が昇る


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