第96話鏡明の交廃

しかし道行く人人よ

通り縋りの旅人よ

何を思って海にゐる 山へゆく

入江に没するは身か心か

判らぬものであるというのに


record>>吃音


時間軸が疑いの斜視で一里ほどズレたことによって

僕らは出会うことなく互い違いの糸を配色する

絡まり逢うこともなくするすると未来に迎えられ

永久に葡萄樽の中に熟す間柄に成りうる。


さけびたり、

腐った雨水になる可能性を改めて問おうか。


1「它ト影。」


行先不明の貪欲に縋るのは阿呆である。

くさむしろ狭い空間に、いきもつかせぬ

巡り廻る走馬灯に気付いたは、隙間から感じる、さわり、

穢らわしいほど艶やかに生みの殻を纏った蛞蝓なめくじ

こいつが厄介にも緩やかにその舌を這わせ

旧皮質の虹の架け橋を木漏れ日の如く夢を抱かせヌメ憑かせる。


それだけで本望だった、

今をいきてゆくすべとして知らぬもの

未だ此処に似つかわしくないものは、心象に出てはこない

私は思い込むしか先に往けぬのだろうと偏ったらくを弾く

空虚な幻だけを現実にめるほかない阿呆だ。


寒々しいほど滑稽に己自らを独り抱く、

自らに作り上げたは理想の女か空想の男か、もう忘れちまったな

過去の欲に爛れた思いの丈を夢想してはお惚れて居る、底に。


きっとタダのダッチワイフに過ぎない関係だったのだ。

だから見つけられないのだ。

そして、去ったのは虚ろな箱だったのか。

ソコに居たは何方いずかたにあろうか、


あゝ泣いているのが己だというが

(隙間を縫う玩具の終列車の警告を聞け。)

自らを知った気になってそれで楽になったか、

(気がつきゃあしないのだからタチが悪いものだ、)


陽装ヒソウから洩れる公園のブランコは揺れてもいない

そうと誰かと戯れ、風の泪が謡うように世界を紡ぎ出し、

蝶や花が私を眼前を侵す。心の救いのままに見える世界は

本当は独りだとつくづく

子供の頃に遊んだような満ち充ちた時の流れがよりと体ごと火照ほてらす

かつての夕日に背を向けて影踏みしていたエトランゼ

幸せだった頃に敢えて戻ろうだなんて虫の良い話だ。


1.5(風采 空蝉の詩)


背負うものは不純物の水晶体、ひとりみてくれ

とろんとした酔眼、ふたつヌメたつてのひら

いつかどこかの過去の花園に撒いてくれ と、

まるで異国の宮殿が、君の愛で唄い創られた白亜のカーテンが

舞う散る光の病室でトワのちかいを頼まれたのだ。


正直に私の心を遷す天は ならばもう海に帰る、

正に星星が 只充ちて行き、漣は泣いたのだから。もう遅いのだろうな。

併し、この思いは捨て去ることはできやしない過去が未来に続くのだから、

亡くなりはしないのだ。幸せの残糸に酩酊し生きを続かせる。

これも願いの一つであったか、だが、なんとも不可解にも私は

アレを忘却の彼方に押しやろうとしている。


共に持たねば昊に導かれるひとつの朱い血潮は決して砕けず

システム不備を自らに感謝シ起こしながらも

愛賭した我が秘めの、やんごとなき美姫の事だ。


ほら、逝く先々美談だろう、

誰も取り込むことなく手を離れた 遺失物が噂に乗って

行く末に 襤褸だけを魅せる 薄汚い影絵がヱ昊に漂う様、

それが懐かしい蜃気楼と現れて荒れてゆく開眼、

海界の白波は寄せ合って囁いている、かえれとだけ脳裏を掠め

何処へも導こうとはしない、立ち尽くして流される。

ならば漁火に引き寄せられ、

求めて已まない愛欲のしらべに賤しくも惹き憑いた

憐れな燐火だろう。

わたしたちは 此処に 逝くのだ。


2「蝴蝶no波紋」


蝶番の外にあるものが凡て、平凡な視界のホログラムだとしても

足元に影を落とす現実に、いま心に震えるものであるから

やはり虚言では無いのだろう。

人伝いに聞いた空の色は 海の広さと寸分たがわずに要ると言う。

だが戒めの展開図は天と地を転がして渦を沈め煌く。

螺旋を拝したしいろの彩雲がゆるゆると残像を侍らして

躰の隅々まで温く軟く丸め込もうとする。夕景。


狂っていただけだった。

それは開けのていちょうかぞえいて要は酔いだった。


アメフラシは日がな一日憂いている

背には虹色の巻貝を被り ふつふつと病巣は表層と現れ得るもの。

何処へ往こうとも水平線は陸を抱いたように落ち窪む、時には勝てず

伸縮しへりくだり闇に充ちるこれは酷く醜いもので、とても煩わしい。

けれど神のように異形に這える。


まざまざとありふれるのは、惑いという名の立ち込める白霧

土色の未知は泥だらけでどうあっても足を取られそうで

まだ誰も進んでいない未来は混乱を呼び込むのだ。


さっそく歩みを停めた自殺志願者の貝殻骨ははくはくと破れて

背の重荷は丈夫な枝を生やした。しかしシーソーの外れた耳垂れでは

メビウスの鎖から程説けたこの身では自我は保てない、

ふらふらと振り子を踊らす時を、振り払った前髪が

今と貼り付いて仕方がない。


不運にも郊外に懲らしめた害とは、

街燈が色めく様を知る時に迷いが生じさせる我の裏側であるが、

あいにく今日の床屋は休みどきのようで、

幸還りの霊たちがわんさか今の先を塞いでいた。


さてどうしたものか?

天蓋の夜は海に溺れて星星が太陽を喰らい始めていた。

その頃には既に、

もう他界した新しい惑星を新た生み出そうとしていて。

何も言わない 私の心を。

救いとって、あるがままに、写撮ることができる。

自然は正直だった。


そうすることによって、君と僕が一つになることができる。

屹度難産だったのかもしれない。そんな斜陽は静かに没した。


僕はまた君を切り取ることが叶わなかったのだ。

絵筆は唯渇いたままだ、真新しいイロなど求めようもなかった、

未だまだ見ぬ翳を求めているのだ。


―― 鈴虫が泣いている


3「禽唱」


楽な双子の僕らに運命を見せつける 少しばかりの光と闇の木漏れ日、

外界のシルフが呪いを欠けた 間違いを正すように幾千もの旋律を。


刻まれた、堕ちた私と。あなたに繋がれた腐れが、歯車に要る

尖り曲がり、何かを掴もうと躍起になる。、とも。

最後に頂いた供物を。

一線引き裂いてはらわたを出し 引きずって茨の道賭みちとした時。


赤子が薙いでいる、

今を剥ぎ取ろうと躍起になり鉤爪を折る。


その絵画は夢を叶えると云う、 誰が発端かなんてわかりゃあしないが


絵筆を走らせる厭に癖のある巻き毛を 面に踊らせて水彩の輪郭は、

ぼやけていく 空虚の腹の中には 微動だにもしない お人形さん

さとっては無言に、置かれた心情は陳腐なもので、体が重く

沈む。何かに押し潰されるように 誰かを殺す血痕が華に着いた、

ヒガンバナ

とても寂しく悲しく痛く苦しく、毒毒と研ぎ澄ます痛みが膿を抱く。

足元を固めていく海は拠れたコヨリで創られ 私の在を受け取り

入り組んだ永久を迷宮と説いて、

誰にもわかりゃしない怨念を加護と籠とを笑ませた。


する と、優しいかな、寂しいかな 安穏に流された時に諦めを

どこにも逃れることがなく 見当たらない愛に添われた欠片とも

彼方の器にしがみつくばかりで、私は、

ワイングラスにいっぱい あなたの血液が澱を強いて

くるくる回っておりました。こびりついた檻、しがみついた枷、

しあわせなことを永遠に。


貴方の命が共と照らす視界を鮮明に射す

世界は艶やかで薄明の夜明け色づかせた、アカのようでございました。

それ、全て塗り込め

その現実に全てを朱に染めた私の命と祈りは、今ここに完成に至るのです。


4「杳窕・漆の刃」


初めはおっかなびっくり紙をひいたり爪を立てたり、

赤黒い痣のようで、うちぼやけてきた輪郭に思い切って

口付けの頓服を鋭く噛み砕く。

すると垢ぬけたキャンディーガムのようでいて、

親身に粘るばかりのヌメついた姿見に恍惚に酔いもまわる。

くどい血流の烙印が思うより和やかに浸透する 鈍足の剃刀でも、

仕込んだかのようにいつまでも錆び 寂し、

戦慄いた胸に重ねる 一閃一閃が、上辺うわべでも色付いて好い。



白紙で覆われた純粋無垢な芳香 薄布で囲われた荘厳華麗に唄い

夜の庭園に徘徊する私たちの深層の宴はいつまでもたかる思慕、

終わらせないばかりか虚ろな嘆きが思い出として回連ねて生ける強欲、


地平線を易々滑らせてとぼとぼ、歪を撒き散らす。

きたならしい道ばかりが出来てはゆく、みち

寂しい街燈が散々立ちくらんでは照らすもので、

どうあっても僕の足元には影が踊る、なあ、ああ、

消し去りたい模倣するだけの存在に未だ、生き伸びていること

知ら占めるは私という躰、やはり確認せざる終えない。

正直言って借り物のペンシルで侍らす朱線では結ばれない。

あの作品はやはり贄切らないのだ。


中途採用で捲られて寝落ちできれば、風が勝手に読み届けるだろうに

はらはらと落ちては魅せる微笑と吐息は行先不明の夢のようで。


この鼬ごっこの因縁は気づいて仕舞ったら最後、

死ぬまで繰り広げられるのだろう視界には花々が、

死してなお螺旋と咲く道筋が、汚点を遺すこと。

仕方無しとは嘲笑うか、

ただ今がラクに在りたいとは願うのだ、

我ながら馬鹿馬鹿しいものであるが

月が狂い魅せる宵月の朱き憑き纏うは

希死念慮って奴が、全く口先だけで躍るのだ。


ねぐら

宛先 ―― 知る標す輪郭

浮ついている。

はては

翔んでいるのか、

ましては

腐っているのか。


誰かの評価点が、惰性の空想に浸る、朧げな記憶が創造する

未来はまだまだ空虚な函が凡庸に薫る。


エソラとはいえ上手くも料理された空白に人を落とし込む。

さあさ 皆に美味しくいただけなければ、私も腹ペコのまま

ややあっておまんまは食い上げる。と、わいらは苦境に行く。


時に稀とも、掻き消されてしまえば

息ができなくなり死ぬしかない


あゝ今日も苦しくも儚い闇に溺れるありさまも

(ピタリと止んだ雨に傍らと、浸りながら)

蠱毒という独か、それとも孤独と云う独白かもしれぬと

わがあなたと、ともに、未だあり、


切断。


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